SSUフォーラム:イー・クアン・ヘン准教授
日時: | 2014年4月22日(火)10:30-13:00 |
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場所: | 東京大学伊藤国際学術センター 3階 中教室 |
題目: | ‘Soft’ Power Dimensions of Japan’s Re-Balancing Towards South-East Asia |
講演者: | イー・クアン・ヘン准教授(シンガポール国立大学) |
言語: | 英語 |
第8回SSUフォーラムは、シンガポール国立大学リー・クワン・ユー公共政策大学院からイー・クアン・ヘン准教授を招いて行われた。
まず、安全保障研究ユニット長である藤原帰一教授がヘン准教授の紹介を行った。ヘン准教授は、東南アジア安全保障研究の分野で信頼のおける研究者の一人であり、ソフトパワー概念とその東南アジア地域への適用について研究を行っている。本日の講演もそのテーマに関連しており、“‘Soft’ Power Dimensions of Japan’s Re-Balancing Towards South-East Asia”であった。
ヘン准教授は、近年経済面および外交・防衛面で日本が東南アジア諸国に対して結びつきの強化を図っていることに言及した。経済面においては、2013年における日本のASEAN諸国に対する直接投資の増加や記録的な合併数を挙げた。また、外交面では、ASEANすべての国を歴訪した安倍首相の積極的な外交活動などを挙げた。ヘン准教授は、これらの変化は、中国から労働力の安いASEANへの移動という経済的な理由だけでなく、政治的な要素が大きな役割を果たしているという考察を行った。
ヘン准教授によると、より強硬的で予測困難な中国に対して、日本はこの地域において国際的な規範や正当で望ましい行動を順守する国だというイメージの浸透に努めているという。その例として、航行の自由の維持に対する様々な日本の行為、さらには、自衛隊の海外での災害援助や途上国でのキャパシティー・ビルディングなどの国際協力を進めていることを紹介した。
このような日本のソフトパワー面での取り組みは、日本外交に対して肯定的な効果を生み出す反面、明らかな限界が存在する。実際、多くのASEAN諸国は、すべての大国から等距離を保つことを目標としており、特に中国などに直接対抗していると捉われかねない行動に関しては参加しようとしない。彼らは、現在の状態ができる限り続くことを望んでおり、これ以上の分極化が進むことには抵抗を示す。
一方、このような日本の行動に対して、中国は他国とともに自らを囲い込む行為であると警戒を高めている。また、国際規範に従う国だというイメージを広める際にも、例えば、EEZに関する海洋法の解釈を巡っては中国、インド、ブラジルなどと対立するなど、問題も多い。
最後に、ヘン准教授は、軍事的資産によってソフトパワーを確保することの困難さを指摘した。軍事的資産には、援助や救援活動への貢献という側面に加え、防衛力という側面も存在するからである。日本は、このような資産を救助や支援など好意的なイメージを広めるために使用し、攻撃性や介入性の現れとして日本の過去のイメージを想起させる危険を冒すべきではない。
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シンガポール国立大学 准教授