SSUフォーラム:ペンペル教授
日時: | 2014年5月7日(水)10:30-12:00 |
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場所: | 東京大学伊藤国際学術センター 3階 中教室 |
題目: | How is the Obama "Pivot" Working Out? |
講演者: | T. J. ペンペル教授(カリフォルニア大学バークレー校政治学部東アジア政治) |
言語: | 英語 |
2014年5月7日(水)カリフォルニア大学バークレー校からT.J.ペンペル教授を招いて第9回SSUフォーラムを行った。ペンペル教授は、“The US Pivot, Hotspots and Recent Complications”と題する講演を行った。
藤原帰一安全保障ユニット長は、ペンペル教授を、世界で最も優れた東アジア安全保障研究者の一人であり、彼の研究は多くの学者に影響を与えていると紹介した。また、ペンペル教授は、日本政治の比較研究においても卓越した貢献を行っている。
ペンペル教授は、謝意を表明した後、オバマ大統領の東アジア諸国訪問直後のこの地域の国際政治の展開から議論を開始した。オバマ大統領の訪問に対しては、米国とアジアにおいて異なった評価がなされており、米国側は成功とだとみなしている。第一に、これまで国内政治の状況に阻まれてかなわなかった訪問が実現できたからである。第二に、米国の提供する安全保障やそのプレゼンスへの要望など、米国の友好国が東アジアに対するより一層の米国の関与を求めていることが表明された。米国政府のこの地域に対する肯定的イメージが支持されたためである。実際米国は同盟国や友好国が求めるほどのものを提供できるわけではない。しかし、この状況は、たびたび語られる米国の衰退論に反して、未だ米国がグローバル大国として確固たる地位を有していることを明らかにしている。日本に関しては、米国は日本の防衛へのコミットメントを再確認する一方、TPP交渉の進展に関しては限界が見られる。
日本においては、中国に対する積極的な姿勢を示さなかったことや、尖閣問題の主権に関して明確な支持を示さなかったことに対する批判が見られる。韓国や他の国においては、日本のこの地域での役割に関する米国の外交政策に影響を与えているといわれる誤解や、朝鮮半島問題に対する解決策のなさに対して批判が集中した。
講演の核として、ペンペル教授は、米国の東アジアへの外交安全保障政策の長期的分析の観点から歴史的なアジアへの軸足の再構築について述べた。この軸足という概念は、米国が世界の一つの地域に対してしか集中できないという誤った理解を促すという問題があるが、実際はそうではない。
歴史的に—特に冷戦期は—、米国はアジアよりもヨーロッパに対してよりコミットしてきた。1989-1991年にかけて共産主義陣営が崩壊することによって、クリントン政権期に初めてアジアへの明確なシフトが生じるようになった。米国は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)を主要な場として、ポスト冷戦の経済秩序の柱の一つとして、米国と東アジアとの密接な経済関係の創設構想を描いた。これは、この地域が急激な成長を遂げていたことに乗じることにもなった。ペンペル教授はまた、G. W. ブッシュ政権の外交政策について、不必要な戦争を行い、多くの重要事項についての多国間主義的な枠組み(京都議定書、小型武器条約、生物兵器・化学兵器の管理、国際司法裁判所など)を抜け出し、非現実的な目標に対して軍事的な手段による実現を目指したことで、米国の国益に損害を与えたと述べた。ブッシュ政権期は、中東への過度な集中の結果、アジアや他の地域への注意を欠いていた。こうした米国の政策は、国際的に表立った非難は受けていないものの、不人気を招いた。
2008年における政権交代を機に、オバマ大統領はこの傾向を逆転させ、世界や特にアジアにおける米国のイメージの改善に努めた。この米国の新しいアジア政策は以下のように表現された。すなわち、「二国間の同盟関係の強化、中国など新興国との協力の深化、多国間地域制度への参加、貿易・投資の拡大、広い支持を得た軍事的プレゼンス、民主主義と人権の普及」、である。具体的に、アジアにおける米国の外交政策は以下の3つの目標に特徴付けられる。1)米国の長期的国益の保全、2)既存の同盟・協力関係の強化、3)それらを、中国との不和や終わりのない軍事対立を招かないで行うこと、である。
ペンペル教授は、4つの課題に焦点を当てて現状分析を行った。まず、北朝鮮による地域の安全保障への脅威である。2012年の2月19日の包括合意が崩壊し、今後の進展は先が見えない。だが、4度目の核実験は予期されている。二つ目は台湾問題である。台北における最近の抗議にも関わらず、大きな変動は起こりそうにない。三つ目は、多国間主義の育成である。オバマ政権は、様々な多国間の枠組みにおける米国のプレゼンスをより明確にし、かつ制度化を進めている。
四つ目の課題は、台頭する中国への対応という複雑な問題である。米国と中国の間には強い経済的相互依存関係がある。一方、2000-2010年の間には重大な問題が現れなかったのに対して、2010年以降、中国政府の強硬的態度は、二国間関係や地域におけるドミノ効果、米国を中心とした同盟システムに対する影響という点から問題視されている。
これは特に日本にとって重要である。日本の国際的な影響力は、経済的停滞と政治的不安定から過去20年増大していない。また、中国に対し日本の地政学的利益を守るために米国のより積極的な姿勢を望んでいる。それゆえ、日米同盟における「見捨てられる恐怖」が表面化している。一方、米国は、日本の構造改革の欠如、政治的言説において広くみられるナショナリズムの復活や、それに伴う象徴的行動に対して不満を抱いている。また、日韓の間で深まる不信感に対しても懸念を有している。
二国間関係や中国の行動に関わるいくつもの重要な側面が不確かであるために、中国に対する米国の態度は容易には予測できない。中国自体が「大きな正体不明国」である。中国の外交政策やその行動の原動力についてどの程度説明を行い予想できるのか不明である。ペンペル教授は、たびたび登場する米国衰退論を批判しつつ、地上軍に対する予算削減の結果生じる米国の軍事展開への制限について注目した。さらに、グローバルコミットメントの結果、米国は、他の地域で危機が発生した際には、その資源を東アジア以外の地域に分散させる可能性があることにも言及した。最後に、米国の外交政策は複雑な国際政治状況によって形成されているが、米国の投票者たちは、国際問題よりも、経済やイデオロギーの争点により関心を持っていることが示された。
結論として、ペンペル教授は、将来の軌跡を左右する様々な構造的な抑制あるいは促進要因がある中でも、対立を協調へと変える個々人の役割は過小評価されるべきではないと主張した。また、この観点から、非対立的関係から利益を探す努力を行うことで、国家の指導者や政策決定者が将来への肯定的なビジョンを作り出すことの重要性を指摘した。
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カリフォルニア大学バークレー校政治学部東アジア政治 教授