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SSUフォーラム:Smt. Deepa Gopalan Wadhwa大使

日時: 2014年6月24日(火)10:30-12:00
場所: 伊藤国際学術研究センター 3F 特別会議室
題目: “The World According to India”
講演者: Smt. Deepa Gopalan Wadhwa(駐日インド大使)
言語: 英語

2014年6月24日、Smt. Deepa Gopalan Wadhwa(駐日インド大使)を招いて第12回SSUフォーラムを行った。テーマは、“The World According to India”であった。

藤原帰一安全保障ユニット長が司会を務め、大使の紹介を行った。大使は、インド外交局に勤めた後、1983-1987年、1992-1994年の二期に渡って中国への外交使節の長を務めた。また、国際労働機関(ILO)、香港、ジュネーヴ、ハーグなどでポストを歴任した。インド駐日大使に任命される前は、駐スイス兼ラトヴィア大使、駐カタール大使を務めた。

藤原教授は、大使を東京で最も卓越した外交官の一人であると紹介した。また、歴史や宗教の起源から現在のビジネスにいたるインドと日本の多岐にわたる結びつきについて言及した。

Smt. Deepa Gopalan Wadhwa大使は、謝辞を述べた後、これまでのキャリアを振り返りつつ、インド外交局で働くすべての職員と同様、インドの代表であることは大変に光栄なことであると述べた。

今回の講演に関して大使は、従来のインドの外交政策に対する常套句をあえて避け、論理的な根拠に基づき、インドが世界をどのように捉えているかをより明確に表現することとした。冒頭に、「インドは世界と結びつくことで何を得たいのか?」と疑問を掲げ、インドの外交政策は以下の3つの主要な目標を目指していると述べた。

  1. 経済的繁栄: インドは2030年までには世界最大の人口(16億人)を抱えると言われている。現在、何百万人もの人々が貧困ライン以下の生活を送っている。貧困と闘い、生活水準を向上させることは政府の最重要課題である。したがって、外交関係を含む政府のすべての政策において、貧困や経済的繁栄がその柱の一つとなる。
  2. 平和: インドは領土的一体性を守るだけでなく、地理的観点や人口動態、あるいは隣国との関係から、周辺領域が平和的であることを望んでいる。古典的な国際的な武力紛争の克服だけでなく、テロリズムの撲滅やサイバーセキュリティーの向上、大規模な環境破壊・疫学的災害から国を守ることなど広く平和を捉えている。
  3. 公平な世界秩序: これは建国以来のインドの外交政策の特徴であり、現在は戦略的自立(strategic autonomy)という原則で表現されている。インドは、他国とパートナーシップの形で協力する用意はあるが、外部からの影響下でも決定の自律性は確保したいと考えている。平和五原則にも見られるように、インドは不介入、領土的一体性、不可侵、協力の原則に基づいて世界秩序と結びついている。

次に、インドの国際政治における立ち位置を表現するために大使が強調したのは、地理や歴史の反映である。インドは、いくつもの重要な地域(東アジア、西アジア/中東、東南アジア)と近接していることから、必然的にこれらの地域と良い関係を築くことに利害を有している。歴史的には、近代インドを生み出した帝国の持つ複雑な階層性によって、ヨーロッパ、ムスリム世界、日本、米国、アフリカ、カリブ海諸国、オセアニアとの数え切れない絆を構築した。世界各地のインドコミュニティーの存在そのものや、インド人の子孫の存在によって、インドが地球上の様々な地域と強く結びついていることは明らかである。

インドの外交政策を形づくる最後の要素は、世界のすべての国や社会をつなぐ経済的・政治的相互結合、すなわちグローバリゼーションである。多くの評論家たちは、ちょうどデリーが市場経済への経済改革を行った際に起きた最近のグローバリゼーションの波をインドは成功裏に乗り越えたと指摘している。インドは高い経済成長率を長期に渡って維持し、IT産業など様々な領域において国際的評価を確立した。しかしながら、まさにこのグローバリゼーションの過程や相互結合の増加によって、インドの国益も以前と比べるとより広く捉えられるようになっており、より一層監視や保護に力を注ぐ必要が出てきている。この傾向はエネルギーセクターにおいて顕著に見られる。経済発展による需要の急速な増加に対応すべく、他国からのエネルギーの輸入を増加し、これまでにないほどの相互依存を生み出している。

以上のすべてにおいて、インドは多極世界の中で他国とのつながりを求めている。ここでいうつながりとは、具体的にはパートナーシップの創造であり、公式な同盟ではない。なぜなら、インドは歴史上の経験から上述した戦略的自律を制限する強固な構造には関与したくないからである。国際制度や国際機関は重要な役割を果たすため、インドはこれらを強化したいと望んでいる。

インドの外交政策を支えている様々な原則や主要な要素を分析したのち、大使は世界のそれぞれの地域との結びつきについて概観した。

南アジアにおいては、隣国との不満を克服する無数の課題に直面しているが、いつの日か、強固な経済的統合が良好な政治環境を導くことが期待される。

中国はインドにとって軸となるパートナーシップの一つである。中国とインドは1000年間の平和的関与と互恵的交流の古い歴史を有する。ここ60年間についてのみ、両国は紛争を抱えている。しかし大使は、世界は十分に大きく、中国とインドの平和的台頭を受け入れることができるだろうと述べる。様々な領域において両国は緊密に協力し、気候変動についてなど、より健全なグローバルガバナンスの必要性について共通認識を持っている。

日本は現在大国の中でインドにとってもっとも重要な二国間パートナーである。日本とインドは、政治的課題や原則について重なる部分が多い。グローバルな平和の維持や、世界の繁栄や安定の促進への共通の懸念を有している。大使は、このような良好な関係は東アジアを超えて世界に恩恵をもたらすだろうと述べた。

韓国は非常に活発な経済的パートナーである。その重要性は過去数十年の間に着実に伸び、特にここ数年はソウルが経済的・技術的に重要な地位を獲得することにより急激に高まった。インドも他のアジア諸国と同様、北朝鮮の状況には懸念を有している。北朝鮮が核兵器やミサイル技術を潜在的な敵国に輸出することはインドに悪影響を及ぼす。

東南アジアにおいては、二国間関係でもASEANとの関係においても、インドはプレゼンスと外交活動を拡大している。ミャンマーとの政治的結びつきはインドの東北地域において直接の影響を与える顕著な事例であった。

西アジアは、現在600万から700万人のインド人労働者が暮らし、彼らの給料の送金はインドの金融において重要な役割を担っている。当該地域との貿易も拡大している。インドのエネルギー商品の大部分は湾岸から輸出されているため、西アジアは重要な戦略的要所となっている。現在、インドは、現在サウジアラビアとイランの双方と良好な関係を有する唯一の国である。これは、どのような体制の国とも外交関係を築き、協力することができることを示している。

中央アジアの旧ソ連諸国とは歴史的なインドとソ連との友好関係に照らして良好な関係を有している。

アフリカでは、イギリス帝国の歴史的遺産の結果、多くの国と深いつながりがある。また、インド出身の多くの人々がアフリカ諸国に暮らしている。インドはアジア・アフリカ連帯(非同盟運動)の下で1950年代以来共に活動してきており、現在は「グローバル・サウス」として再構成されている。歴史に加え、特に貿易や投資の分野において結びつきが進展している。米国、EUに次いでインドがアフリカへの第三の大きな投資国となっている。

インドのEUとの関係は、ヨーロッパの植民地拡大の時期に作られた文化的・政治的結びつきのみによって特徴付けられるわけではない。ヨーロッパの民主主義や人権の推進によってインド自身も変質し、政策に活気を与えている。さらに、インドの軍人は第一次、第二次大戦において勇敢に戦ったが、彼らの犠牲は十分な注目を集めてこなかった。

ロシアはその誕生から、インドにとって常に重要なパートナーであった。ソ連とその後継国のロシア連邦とは長い外交、軍事、経済協力関係を維持し続け、バングラディッシュの自由化やカシミール危機など、厳しい国際危機の際には死活的な役割を担った。日本とロシアは、インドが毎年の定期会合を開催しているただ二つの大国である。

米国は、現在の世界秩序における不可欠なパートナーである。広い戦略的状況や選択の結果、歴史的に二国間関係が不安定な時期も存在した。だが、米国とインドは世界最大の民主主義国であるなど多くの共通点を有し、多くの分野で意見の合致がみられる。

最後に、インドのラテンアメリカ諸国との協力が深化している。これは、メキシコ、アルゼンチン、特にブラジルにおいて見られる。ブラジルは民主的な政治体制であり、「グローバル・サウス」の共同形成において、貴重なパートナーとなっている。気候変動から貧困の撲滅に渡る様々な争点において積極的な役割を担っている。

国際制度や国際機関に関して、インドの立場はその存在とその円滑な機能の促進を支持し続けている。しかし、今日のグローバルガバナンスのための制度は、第二次大戦後の創設時から半世紀以上を経て、今日の異なる世界においては古びてしまっている。そのため、制度の改革を考えることが必要である。特に国連安保理においては顕著であり、インドは日本が常任理事国になることを推進している。IMFや世界銀行などの機関においても同様のことが言える。

結論として、大使はインドの外交政策は「パワー」に焦点を当てることによって特徴づけられていると述べた。それは、質的強さや能力の現れとしての「パワー」ではなく、「アイディアのパワー」、「価値のパワー」である。そしてそれは、価値やアイディアを押し付けるのではなく、規範を示すことによって他者に伝達されるものとインド人は信じている。

インドは矛盾を抱えた国であり続けている。非常に貧しい状況にありながら、同時にいくつかのハイテク技術産業の成功を誇りとしている。民主主義を信奉するが、他国への介入や干渉と受け取られる「民主化」の推進には参加しない。これが外交政策へのインドのアプローチである。