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SSUフォーラム:鈴木達治郎教授

日時: 2014年10月10日(金)13:00-14:30
場所: 小島ホール カンファレンスルーム
題目: “Science, Technology, and Security: Issues on Plutonium”
講演者: 鈴木達治郎教授(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長、東京大学政策ビジョン研究センター客員教授)
言語: 英語

2014年10月10日、鈴木達治郎教授を招き、第13回SSU(安全保障研究ユニット)フォーラムを開催した。鈴木教授は、科学、技術、安全保障領域の交錯について、特にプルトニウム生産サイクルの管理に焦点を当てて講演を行った。藤原帰一安全保障研究ユニット長は、鈴木教授を、科学や技術に関する幅広い知見を有する卓越した科学者であるのみならず、技術の社会科学的側面や安全保障への影響についても高い知見を有する研究者であると紹介を行った。

鈴木教授は、まずプルトニウム問題について理解するために必要な基本的概念の説明を行った。教授は、2002年に出版されたアーネスト・ボルクマンのScience Goes to War(邦訳『戦争の科学』、2003年)を例に出しながら、歴史的に証明されている戦争と技術的・科学的発明との関係を強調した。このように科学、技術、安全保障の間には複雑なフィードバックの関係があるため、いかなる科学者や技術者も自らの研究・発明・発見の安全保障への影響を考慮しなければならない。技術の「民事」「軍事」への二分法の考え方は、綿密に吟味すると人工的な性質を有していることが分かる。鈴木教授は、技術は常に「民事」「軍事」どちらへも利用することができると述べた。

以上のように、科学研究の安全保障への影響について、科学者はより一層考慮する必要があることを強調した後に、鈴木教授はプルトニウム生産サイクルとその関連技術について説明を行った。

核技術の民間利用の拡大による核拡散のリスクは、核兵器が誕生して間もない1946年のアチソン=リリエンタール・レポートにおいて既に指摘されている。核分裂によって生み出されるエネルギーは、化石燃料の燃焼によって生まれるエネルギーの10万倍にもなる。しかしながら、核兵器生産と民間の原子炉は同様に機能しているわけではない。核兵器に必要な量の核物質(90%の高濃度ウランやプルトニウム)はキロ単位だが、民間の原子炉にはトン単位の核物質(4‐5%の低濃度ウランでよい)が必要である。核技術の軍事利用と民間利用においては重なるところが大きい。その主要な違いは以下の点にある。すなわち、高濃度ウランは生産が困難であるが、一度手にすれば兵器への利用は容易である。一方、プルトニウムは、生産は容易だが、兵器への利用は比較的困難であり核実験も不可欠である。世界中の高濃度ウランの備蓄量は不透明であるが、高濃度ウランを低濃度ウランに転換し、原子力発電所で再利用することは可能である。また、国際的なセーフガードがあるため非常に困難ではあるが、技術的には、小規模の濃縮施設があれば数日の間に相当量の高濃縮ウランを生産することが可能である。この事実は、高濃縮施設やその活動を監視する必要性を強調するものである。

プルトニウム生産サイクルに着目すると、プルトニウムが副産物として生まれる核燃料の再処理は技術的には容易だが、安全保障への懸念が小さい再処理を行わない方式と比べ経済的に効率的ではない。もちろんプルトニウムが生産されるため、その備蓄量や使用に関して安全保障上の懸念が生じることになる。日本政府は商業用原子炉において生じるプルトニウムは核兵器に適した同位体ではないという見解を示していた。だが、鈴木教授はこの見解は全く正しいわけではなく、政府見解の表現は誤解を招くものであると述べた。政府見解と異なり、副産物として生じるプルトニウムはその種類に関わらず、常に軍事利用が可能であり、慎重に監視する必要がある。鈴木教授は、日本原子力委員会の委員として活動する中で、議長報告(2012年6月5日)において正確な表現を行うことに気を使ったと述べた。

2011年の東日本大震災の後、すべての原子炉が停止され、再処理活動も行われておらず、核分裂性プルトニウムの保有量は増加していない。日本原子力委員会は「余剰プルトニウムを持たない」という政策を採用しており、特定の目的に充てられていないいかなるプルトニウムも有していない。この政策の透明性を高めるために、日本は1994年以来プルトニウム保有量に関する情報を公開している。さらに、将来採用される再生産の方式の如何に関わらず、今後保有量を減少させることを支持している。

近年、報告されていなかった640kgの核燃料について国際的な懸念となっている。これは、政府が国際原子力委員会への2012-2013年の年次報告書の中に入れ損なったものである。この間違いは、2011年3月九州電力佐賀玄海原子力発電所の第三原子炉に注入されたMOX燃料が取り出されるまで2年間そのままであったことに起因する。日本は報告活動により力を注ぐ必要があると、鈴木教授は主張した。

このようなミスがあったものの、日本はこれまで国際社会において核技術に関わる安全保障上の懸念に対して適切な考慮を払ってきていると評価されている。日本政府は特定の目的を有さないプルトニウムの保有を禁止しており、目的も平和利用に限っている。しかしながら、技術トレンド、需給バランス、国際状況など様々な不確かさを考慮すると日本の原子力政策にはより柔軟な方式が求められる。現在、核燃料供給への懸念、使用済み燃料は「資源」か「廃棄物」であるかという法的定義、大規模な代替施設建設の困難さなど様々な不確かさのため日本の原子力政策は変化していない。直接破棄を含む使用済み燃料の保管能力の向上、独立した政策/技術の選択肢を評価する制度的枠組みの創設、プルトニウムの備蓄量を最小化しつつも柔軟な核燃料サイクルの管理強化、核燃料供給安定化のための国際的努力や多国間の核燃料サイクルの導入などにより、将来の日本の原子力政策は変化する余地がある。

核燃料についての国際協力について説明した後に、鈴木教授は北東アジアにおいて、低濃度ウラン燃料銀行の創設、核濃縮を行う多国籍企業、相互の査察・信頼醸成措置、国際的プルトニウム廃棄枠組みなど、将来可能な国際協力のあり方への提案を行った。

講演の最後に鈴木教授は、技術が社会や安全保障に与える影響の科学者の責任について再び論じた。ドイツが原子爆弾の製造に失敗したと知った後すぐにマンハッタン計画から脱退したジョセフ・ロートブラット博士を紹介した。また、鈴木教授は、ラッセル=アインシュタイン宣言(1995年)や、核兵器の人類に与える脅威に懸念を有する著名な科学者たちによるパグウォッシュ会議などの歴史を概観した。パグウォッシュ会議は、率直で公開の意見交換を行う原則に立っており、意見の違いにも関わらず常に共通点を探ろうと試みられている。この会議はいかなる特定の国や利益を代表するものではないが、核兵器や戦争の廃絶をその最終的な目標に掲げている。鈴木教授は、2015年のパグウォッシュ会議が原爆70周年を迎える長崎で開かれることは喜ばしいことだと述べ、講演を終えた。