PARI

Read in English

SSUフォーラム:デイビッド・ウォルトン上級講師

日時: 2014年11月5日(水)10:30-12:00
場所: 小島ホール カンファレンスルーム
題目: “Juggling Triads: Australian Foreign Policy Towards Japan and China”
講演者: デイビッド・ウォルトン(ウェスタンシドニー大学上級講師/東京大学客員研究員)
言語: 英語

2014年11月5日、デイビッド・ウォルトン(ウェスタンシドニー大学上級講師/東京大学客員研究員)を招き、第14回SSUフォーラムを開催した。ウォルトン上級講師は、東アジア政治の理解に多大な貢献を行う著作を記しており、特にオーストラリアの視点や将来の戦略について研究している。

ウォルトン上級講師は、まず現在および近い将来における、オーストラリアの外交政策の背景について説明した。すなわち、それは東アジアの権力移行であり、「中国の台頭」である。

中国の成長とその経済的覇権は、地域に数々の安全保障上の懸念を引き起こしている。オーストラリアは、そのような中国に対してバランシングを行う一方、関与を維持し、経済的・産業的関係を強化するという二重戦略を取っている。

ウォルトン上級講師は、これまで様々な学者によって提示されてきた、東アジアが将来進みうるいくつかの異なるシナリオを示した。そして、それは大きく米中関係の将来に依存しているようであると説明した。これまで様々な学者によって、米国の関与停止、米国の覇権に対する中国の挑戦、中国による現状の漸進的修正、安定的勢力均衡の達成などの仮説が提示されてきた。

また中国が現状の地域環境に満足せず、平和的な権力移行に対して否定的である林一凡の悲観的な権力移行論にも言及した。

オーストラリア及びその外交政策にとって、「中国の台頭」は非常に大きな影響を与えている。これまで最大の貿易相手国は日本であったが、近年中国との貿易が徐々に拡大し、現在では中国との貿易額は日本の二倍となっている。このため、オーストラリアの経済環境や国内における経済界のロビーイング活動にも変化が見られる。国民世論の認識は、一様ではない。多くの人々が中国は経済的・軍事的脅威であると捉えている、一方、オーストラリアの将来のために中国は最も重要な国になるだろと感じている人も多く、肯定的で友好的感情も持っている。

現在のオーストラリア首相トニー・アボットは、関与政策を継続しており、中国との関係強化の機会を伺っている。4月には、ここ10年の間で欧米諸国の中では最大規模の外交使節団を派遣した。オーストラリアの外交政策の目標は、伝統的に市民の経済・社会福祉の保証と国家の安全という二つの複雑に絡み合う要請に基づいている。また、中国の成長という状況下において、オーストラリアの外交政策は以下の三つが鍵となっている。それらは、米国との同盟、日本との安全保障関係の格上げと協力の強化、三つの対立する三国関係の適切な管理能力に対する自己評価である。

ウォルトン上級講師によれば、オーストラリアはこれまでの「ハブ・アンド・スポーク」から「安全保障網」の形成に徐々に移行しているという。その中で、米国は「ピボット」として、タイ、韓国、フィリピン、日本などの同盟国とより緊密な関わりあいを持ち、地域全体で安全保障共同体の感覚を養っている。オーストラリアの安全保障戦略は、米国との同盟へのコミットメントと太平洋におけるミドルパワーとしての地域利益獲得という二つの性質を有している。ダーウィンで訓練する米兵の増員の決定などに見られるように、米国との同盟の重要性は高く、超党派の政治的支持を受けている。

東アジアにおける他の国々との関係は、矛盾を抱えたものである。米国との安全保障関係は国策の柱の一つである一方、中国との経済的相互依存関係は進展を続けている。

日本との関係については、ここ10年で安全保障領域における大きな発展が見られた。2007年の日豪安全保障協力宣言、2010年の物品役務相互提供協定(ACSA)など様々な協定が結ばれた。日豪安全保障協力は、日本が普通の国に変わり、中国を地域や世界において責任ある行動をするよう促すために有益である。最近の出来事の中においても、アボット政権は、日本との軍事・技術協力を試みている。

オーストラリアは戦略的に三つの三角形(豪中日、豪日米、豪米中)の中に位置している。このすべてにおいて、オーストラリアが弱点となっている。ウォルトン上級講師は、オーストラリアは近い将来においても、バランシングと関与政策の二重戦略を続けるだろうと述べる。だが、長期的には、二大国との交錯する安全保障‐経済関係を解決し、立ち位置を定めることが避けられないことになるかもしれないと危惧する。最後に、ウォルトン上級講師は中国や米国ばかりに過度に注目することの危険性を指摘し、日本との関係の重要性を過小評価してはならないと述べた。