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米中関係と東アジアの安全保障に関する日韓対話

日時: 2014年11月22日(土)
場所: ソウル大学校湖巌教授会館
共催: ソウル大学校米中関係研究センター
安全保障研究ユニット(SSU)

東京大学政策ビジョン研究センターの安全保障研究ユニット(SSU)とソウル大学校米中関係研究センター(Program on US-China Relations of Seoul National University)は、2014年11月22日、ソウル大学校湖巌教授会館(Hoam Faculty House Complex)において、米中関係と東アジアの安全保障に関する日韓対話を共同開催した。これは、ソウル大学校と日本学術振興会の寛大な支援により実現し、日韓両国から中国の政治・外交政策の著名な研究者が参加した。

開会の辞を述べたJaeho Chung教授は、日本からの参加者への挨拶で、対話が10年以上前に教授自身と高原明生教授の友情から始まった経緯を振り返った。

Sangduk Lee韓国外交部北東アジア局局長は、歓迎の挨拶で、本開催に尽力したソウル大学校と東京大学に感謝の意を伝えた。また、中国に関する両国の学者間の対話を計画した2011年当時を振り返り、日韓関係が変動しても本会を続けることの意義を強調した。

セッション1:国内政治−習近平の中国をどう理解するか

Jung Seung Shin大使がセッションの議長をつとめ、スピーカーを紹介した。一人目がJaehwan Lim准教授(青山学院国際政治経済学部(東京))、二人目がSung Heung Chun教授(西江大学校政治学部(ソウル))であった。

林准教授は、習近平の権力掌握を可能にし、契機となったものは何かについて講演した。習近平政権の2年間を理解する鍵として、特に、エリートの交代と権力継承の仕組みを作り上げてきた制度の役割を強調した。また、習近平の権力は派閥の力学から生まれたとする一般的な見解に反論し、習近平が比較的短期間に権力を掌握し、大胆な政策を実施できたのは、彼の権力基盤が制度的な仕組みの上に置かれているためであり、そのことが権力掌握に正統性を与え、最高指導者層のコミットメントの問題を解決したからに相違ないと主張した。また、習近平が中国人民解放軍の戦闘即応性と有効性を強調していることから、軍を掌握していることの重要性に注目した。

Chun教授は、習近平の権力掌握の意味について議論が白熱し、習近平天皇の台頭と表現する評論家さえいるという指摘で講演を開始した。しかし、全行政レベルで反腐敗キャンペーンを展開する新たな取組みにもかかわらず、習近平が最高指導者の集団的意志に反する行動はしていないことから、既存の集団指導体制が深刻な問題に面していると云うのはいささか強引な見方かもしれないと述べた。これに関連して、2014年10月の四中全会で新たに打ち出された「社会主義法治ガバナンス」がどう展開、影響するかを検討する必要があると強調した。

セッション2:米中関係の見方

高原明生教授(東京大学)がモデレーターをつとめ、本セッションの二人のスピーカー国立外交院(ソウル)のWooseon Choi博士と、慶応大学(東京)でアメリカ政治を教えている中山俊宏教授を紹介した。

Choi博士は、アジアと中国の反応に対する米国の「リバランシング戦略」について講演した。米政府の新たなアジア重視外交は包括的であるが、中国の軍事力拡大に対するリバランシングを重視している。このことは、海軍力の再配置、エアシーバトル(空海戦闘)コンセプトの展開、最近のアジア太平洋地域の同盟ネットワーク強化の試みからも明らかである。中国の反応については、中国は今も経済発展を主眼とする慎重な戦略を維持しており、米国の軍事力に直接対抗する意図は示していないと述べた。しかし、中国は軍備の近代化を進め、経済力で域内の影響力を強化し、長期的バランシングを実現する努力を強めている。両国が現在の政策にこだわれば、米中の競争が長期的に高まることは避けられないが、今後少なくとも10年間は、総じて協力関係が続くであろうと、予測した。

中山教授は、オバマ政権の外交政策方針の中で対中政策をどう位置付けるかの考察に注目して講演した。オバマ政権の外交問題への基本的アプローチをリセット外交と特徴づける一方で、政権発足からアジア太平洋地域重視は変っておらず、ここから、「基軸移動」または「リバランス」外交が生まれたと述べた。米国のアジアに対するリバランシング戦略を形成した要因として、同盟ネットワークの強化、安定した生産的、建設的な対中関係の樹立、新しい多国間の経済枠組みを含む地域制度構造への権限付与があげられる。しかし、リバランシング戦略を進めるにあたって国内および地域の環境は決して好ましいものではなく、対立する政策課題の存在が難しさを強調していると述べた。

セッション3:日中関係と中韓関係

最終セッションは、Jaeho Chung教授(ソウル大学校)が議長をつとめ、慶応大学で中国政治を教える加茂具樹准教授と、サムスン経済研究所シニアフェローのMyeonghae Choi博士の2人のスピーカーを紹介した。

加茂具樹准教授は、2014年11月の安倍・習会談の実現をどう評価・説明するかを軸に、習近平に会議の条件を承諾させた理由に注目した講演を行った。「4つの合意事項」の公式な解釈は様々であるが、この合意(中国語訳では「原則的共通認識」)は、権力分布の変化とそれに続く地域秩序の変化に応える最初の一歩と考えるべきであると指摘した。習主席が安倍首相と会談した意図については、習近平の党内指導力での権力掌握により、日本との領有権問題等の微妙な外交問題に対処する一定の裁量権が得られた可能性を提起した。

Choi博士は、「中韓関係の構造的問題」と題した講演のなかで、中韓関係の最近の推移を分析した。具体的問題の説明に先立ち、1992年の国交正常化以来質量ともに着実に拡大する両国の経済関係とは逆に、政治関係は、実際には大きな紆余曲折を経てきたことを指摘した。中国と韓国間の政治問題としては、THADDシステムの導入をめぐる論争からも明らかなように、新しい安全保障環境に対する米韓同盟の調整的変化がある。北朝鮮の問題も大きな政治的問題で扱いが難しい面もあり、韓国は、核開発プログラムや経済協力等の北朝鮮問題の対応に中国が果たす役割についてのコンセンサスができていないようにみえる。最後に、いわゆる「中国と北朝鮮の関係修復」が最近話題になっているが、北朝鮮の国際的な役割と立場に対する中国政府の認識が大きく変化し、中国の指導者は、現在、北朝鮮を「戦略的に取り込む」対象とみなし、それが最近の「新たな」両国関係の進展をもたらした」と提言した。