SSUフォーラム:門洪華教授
日時: | 2015年9月28日(月)10:30-12:00 |
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場所: | 伊藤国際学術研究センター 3F 中教室 |
題目: | “中国のグランド・ストラテジー” |
講演者: | 門洪華教授(中央党校教授兼同済大学政治国際関係学院長) |
言語: | 英語 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット |
共催: | 科研プロジェクト「経済と安全保障の交錯」 |
2015年9月28日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、第20回目となるSSUフォーラムを開催した。今回は、門洪華中央党校教授兼同済大学政治国際関係学院長を講師にお招きし、「中国のグランド・ストラテジー」についてご講演いただいた。なお、今回のSSUフォーラムは、科研プロジェクト「経済と安全保障の交錯」との共催によって開催されたものである。
まず、司会を務めた高原明生東京大学教授が門教授の紹介を行った。門教授は、世界と中国との関係に関する研究を精力的に行っている著名な先生であり、現在(フォーラム開催時)は東京大学で客員研究員を務めている。
門教授は、SSUフォーラムの開催や東京大学での研究の機会に対し感謝の意を表明し、講演を始めた。まず、門教授は、中国のグランド・ストラテジーに関する研究が比較的最近になって行われるようになったことを説明した。そして、グランド・ストラテジーに関する概念の理論構築には、いくつか異なる視点が見られることを指摘した。
こうした議論は、中国が19世紀以降の長い危機から抜け出そうとしているときには、ほとんど見られなかった。しかしながら、1990年代以降、中国が台頭を始めるとグランド・ストラテジーに関する議論が活発になっていった。そして今日では、グランド・ストラテジーを形成するということは、中国にとってほとんど不可避なものになっていったのである。
門教授によれば、グランド・ストラテジーの形成は、多くの要因によって影響を受ける。それには、世界の動向から受ける圧力なども含まれる。特に門教授は、こうしたグローバル化のダイナミクスや地域クラスターの形成、さらには近隣諸国との関係において建設的役割を果たすことへの中国の関心、といった要因に注目している。加えて、グランド・ストラテジーは、パワー・シフトやパラダイムの変化という点にも対応しなければならないことを指摘した。
歴史的に、中国におけるグランド・ストラテジーの研究は、過去の経験によって条件づけられてきた。特に世界に対する中国の立場や行動を特徴づけてきた様々な経験を検討することによって形作られてきたのである。中国は、帝国主義的競争の時代には、孤立主義の伝統から抜け出し、近代社会に自らを統合させようとしてきた。1949年の中華人民共和国の建国以降は、ソ連との公式な同盟関係を基礎に、マルクス・レーニン主義の原則に従って国際政治の革命思想をいただいていた。しかしながら、1960年代におけるソ連と中国との分断後は、中国は部分的には再び孤立主義的立場に立ち返るようになり、世界問題における独立した行動をとるようになった。そして、1990年以降は、北京は国際政治における新たな役割、責任、マネジメントにより関与するようになっている。
門教授は、グランド・ストラテジーとは、単にその国の戦略的立場や安全保障を検討するということだけではなく、国際社会における積極的な関与や責任の共有といった要素も考慮すべきであると指摘した。控えめな態度をとることもまた重要な要素となる。
中国は、世界からもたらされる課題に単に対応しなければならないだけではない。中国の課題は、内部で何が起っているのかという問題とも大きく関連しているのである。また中国は、その人口、経済、貿易、政治的重みの大きさというパワーを通じて世界に影響を与えている。
さらに、中国にとってのグランド・ストラテジーは、国家のアイデンティティを再形成するという困難な問題を伴うものである。これは、一つには、休みなく続く再編の問題でもあり、また、近代化と中国の文化的遺産、そして世界からの期待をつなぎ合わせるという国家イメージの再形成という、より複雑な問題でもある。
現在から未来へ続くこれら全ての変化は、謙虚な精神を維持し、他国から学ぶ姿勢を示すことによってのみ可能となる。これから数十年続く中国の変化と近代化においては、異なる国や地域における発展のギャップ、さらには国内における都市部と農村部とのギャップを埋めることが必要になる。門教授が述べるように、中国は典型的な発展途上国という比較的ユニークな状況にあり、非常に多様な発展のレベルが隣同士に共存しているのである。
最後に門教授は、中国の最良の哲学的伝統にあるように、謙虚さを持ち、漸進的ではあるが着実な自己の完成に向けて、将来における世界と中国との関係をデザインしていく必要があると述べ、講演を終えた。
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中央党校教授兼同済大学政治国際関係学院長