SSUフォーラム:Yana Leksyutina准教授
日時: | 2015年10月26日(月)10:30-12:00 |
---|---|
場所: | 伊藤国際学術研究センター 3F 中教室 |
題目: | Russia-China relations in the 21st century: major characteristics and developing trends |
講演者: | Yana Leksyutina准教授(サンクトペテルブルク州立大学国際関係学部) |
言語: | 英語 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット |
共催: | 科研プロジェクト「経済と安全保障の交錯」 |
東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)では2015年10月26日に科研プロジェクト「経済と安全保障の交錯」との共催で第21回SSUフォーラムを開催した。司会は東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授、ゲスト・スピーカーはサンクトペテルブルク州立大学国際関係学部准教授で東京大学客員研究員として来日中のヤーナ・レクシューティナ(Yana Leksyutina)氏で、21世紀における中露関係の特徴と傾向("Russia-China relations in the 21st century: major characteristics and developing trends ")についてご講演いただいたのち、参加者との質疑応答を通じた活発な議論が行われた。
レクシューティナ氏は講演の中でまず、アジアをめぐる情勢を考察する際の中露関係の重要性を指摘した。中露関係について西洋側の視点とロシア側の視点は必ずしも合致しない。中露関係には西洋側が指摘するように多くのリスクや不確実性が内在するものの、レクシューティナ氏は両国の関係について決して悲観的な見方をしなかった。彼女の分析によると、歴史的な視点から両国関係を概観した場合、現在ほど両国関係が協力的で協調的、そして相互理解が増長された時代はなかったという。
この点を補うため、レクシューティナ氏は中露関係の歴史をまず簡潔に追った。中華人民共和国は建国が実現した1949年以降、ソ連との強い協力関係と軍事同盟を構築することで多くの経済支援を得ることに成功した。当初は覇権主義的な関係が構築されたものの、1950年代後半から両国の関係は思想信条の拡散や両国首脳の相互不信などによって崩れはじめた。両国関係の悪化は1960年代から1970年代にかけてみられた国境での軍事衝突にまで発展し、1980年代までは冷え切った状態が続いた。その後、ミハエル・ゴルバチョフ大統領のペレストロイカ政策の流れに沿う形で中ソ関係は次第に修復されはじめた。
レクシューティナ氏によると、2000年以降の中露関係は大きな枠組みの中で再構築されていったという。特に2001年の中露善隣友好協力条約締結後は現在みられるような非常に前向きで友好的な情勢が構築されたといってもいいだろう。レクシューティナ氏によると、この前向きな両国関係は公的文書に使用される文言からも窺え、たとえば「良好な隣国」(good neighbourhood)から「戦略的パートナーシップ」(strategic partnership)関係への変化、そして「新たな包括的パートナーシップと戦略的協力」(new stage of comprehensive partnership and strategic cooperation)へと変化していったところからも分析が可能だという。
続いてレクシューティナ氏は現在の中露関係についていくつかの示唆を提示した。現在、ロシア政府と中国政府の間には共通のイデオロギーが存在しないものの、現実的な観点における利害は一致しているといえるだろう。この利害の収斂は正式な同盟関係を構築するまでには至らないものの協力関係の向上にはつながるとレクシューティナ氏は考える。
彼女はまた、西洋諸国の研究者や時にロシアの研究者自身にもあまり真剣に取り上げられないとされる要素についても触れ、これらの要素を考察することで中露関係に寄せられる好意的な将来像について冷静な視点で分析する必要性を説いた。西洋諸国や一部ロシアの研究者たちは中国がロシア極東部の人口稀薄な地域に進出している、あるいは対露政策が時に覇権主義的であると指摘している点を取り上げ、これらの指摘が過大に強調されている点を指摘した。レクシューティナ氏によると、中国は現在、南への勢力拡大に興味を示しており、北への勢力拡大の願望はまだみられず、またロシアへの中国人による大規模な移住計画もない。ロシアと中国は領土紛争をすべて解決したとされており、国境付近に駐在してきた軍隊の数も大幅に削減された。そして、貿易、交通、エネルギー分野において実に100個近くの協定が結ばれてきた中で、両国関係は急速にそして非常に良い方向に好転してきているという。
この流れの中で、中露関係にとって重要な二つの枠組みとしてレクシューティナ氏は上海協力機構(SCO)とBRICsの存在を指摘した。前者は中央アジアにおける問題の解決を図るための枠組みとして機能し、後者は多極化した世界に関する議論と発展に関する枠組みとして機能してきた。リクシューティナ氏は特にBRICsの機能の重要性について触れ、中露両国はともにアメリカという超大国による単独覇権の構造ではなく、国際法、内政不干渉の原則、そして国連安全保障理事会による救済措置などに基づいて複数の大国による調和の必要性を訴えている点を強調した。中露両国はまた、現在リビアとシリアで起きている危機に関しても考えを共有しており、この点は国連安全保障理事会での拒否権の発動を含む投票行動の類似性からも窺えるという。加えて、中国政府とロシア政府はともに現在の国際経済・通貨制度におけるアメリカや西洋諸国の優位性に憂慮し、制度改革の必要性を推進する点でも協働する。新たな金融インフラの整備や中国人民元の国際通貨化を目指す思惑が背後に見え隠れしているという。
最後に、レクシューティナ氏は昨今みられるロシアの親中姿勢と東方政策について、ウクライナ危機との関係で述べた。中国やほかのアジア諸国へのパイプライン提供の拡大、軍事演習を含む軍事協力の推進、そしてロシア極東部を太平洋地域への窓口として機能さえるための努力などが例として挙げられると指摘した。
-
サンクトペテルブルク州立大学国際関係学部准教授