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SSUフォーラム:Céline Pajon研究員

日時: 2016年7月12日(火)10:30-12:00
場所: 東京大学 経済学研究科学術交流棟(小島ホール)1F 第2セミナールーム
題目: 日米同盟の長期的ダイナミクス
講演者: Céline Pajon研究員(フランス国際関係研究所)
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

2016年7月12日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、フランス国際関係研究所(IFRI)のCéline Pajon氏を講師にお迎えしてSSUフォーラムを開催した。Pajon氏は、「日米同盟の長期的ダイナミクス」と題して講演を行った。

冒頭、藤原帰一安全保障研究ユニット長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が開会の挨拶を述べるとともに、Pajon氏の紹介を行った。Pajon氏は、日本の国際政治問題について非常に優れた研究を行っており、日米同盟についても日米以外の第三国-すなわち、フランス-の観点から分析を行っている。これは、しばしば議論が二極化する日本の同盟論議に新たな視点をもたらすものとなるだろう。

Pajon氏は、最初に講演のテーマと全体像を簡単に紹介した。今回のテーマは、Pajon氏が最近共同執筆された文献 Japan and Its Alliance with US: Structure, Dynamics and Evolution(2016年5月)に基づくものであった。この文献は、オンラインで入手可能である。まずPajon氏は、同盟に関する一般的な評価とその地政学的な意味について解説を行った。日米同盟は、確かに地域的あるいはグローバルな秩序の礎石として捉えることも可能である。同時に、それは日本の防衛および外交姿勢の基礎ともなっている。一方で、米国は日本を防衛する反面、日本が米国を防衛することはないといったように、日米同盟は非対称的な要素を持っている。その代わりに、米国は日本に軍事基地を置く権利を持っている。また日米同盟は、政治的な展望ととともに常に変化してきたと言える。しかし、2015年以降は、これまでになかったような何が生じているように見える。つまり、同盟のダイナミクスの変化において、日本が積極的な促進剤になっているのである。

これについて、Pajon氏は三つの要素を指摘した。一つは、同盟の補強・強化である。第二に、日米同盟を支える戦略的ストーリーである。そして最後に、日米同盟に長く存在する潜在的な緊張である。

まず、最初の点に目を向ければ、日米同盟の強化は「中国の台頭」や、世界的・地域的な「パワーシフト」に対して生じていると言える。共同訓練など、オペレーショナルな面での統合も拡大・深化している傾向が見られる。加えて、計画や行動の面では、より「グローバル」なスコープが強く求められるようにもなっている。同時に、オーストラリアなど第三国との関係強化も進められるようになっている。同盟に対する日本のアプローチは、地域に米国を引きつけておくという必要性によって変化しており、日本は米国が地域におけるプレゼンスを維持するためのインセンティブを可能な限り与えようと努めている。

第二に、同盟を支える日本の戦略的議論について、Pajon氏は、道下・サミュエルズ・モデルを用いて、日本の戦略の理論的選択肢を示した。その上で、Pajon氏は、多くの日本の政府関係者の意見を集約すれば、現在の一般的な認識は日米同盟の強化以外に現実的な選択肢がないことを示唆していると指摘した。とりわけ、台頭する中国に対して日本が自律性を維持したいのであれば、日米同盟は不可欠な要素となる。

一方、第三の点について、ワシントンと東京との間には幾つかの問題や潜在的な摩擦が存在するとPajon氏は指摘した。それらは、大きく三つに分けることができる。一つは、日本が実現したいことと、米国が関心を持つこととの間に存在する期待値のギャップである。一般的に、米国はグローバルな観点での戦略状況を考える一方、日本は東アジア地域の問題に集中しがちである。二つ目は、日本の支配層や有権者の間には、より自律性を求める声が一貫して一定の割合で存在するということである。それによって、日本がより独立した政治的アクターとしての立場を回復したいと考えているのである。これは、日米同盟を強化する合理的根拠-すなわち、中国の対応-が、将来においてある程度弱まるという場合においても当てはまると言えるだろう。そして最後に、日本、とりわけ沖縄における米軍基地の問題も依然として根深い。

Pajon氏は、結論として、日米同盟の問題に対処する最良の方法は、相互の認識をよりよく調整することであり、また他の友好国との結びつきを深化させるとともに、戦闘を伴わない非軍事分野での協力を拡大していくことであると指摘し、講演を終えた。