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SSUフォーラム:Richard Barrons卿

日時: 2016年11月1日(火)10:30-12:00
場所: 東京大学 第2本部棟 610会議室
題目: Technology and the Transformation of British Defence for the 21st Century
講演者: Richard Barrons卿(英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)上級研究員、英陸軍大将(退役)、前英国統合軍司令官)
言語: 英語
主催: 東京大学公共政策大学院
共催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

*一般聴講募集はいたしておりません。

2016年11月1日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、リチャード・バロンズ氏(陸軍大将〔退役〕、前英国統合軍司令官)を講師に迎え、“Technology and the Transformation of British Defence for the 21st Century”と題したSSUフォーラムを開催した。バロンズ氏は、現在、著名なシンクタンクである英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute , RUSI )の上級研究員を務めている。バロンズ氏は、イギリス軍の高級将校として、バルカン半島、アフガニスタン、イラク等の紛争地域を転戦した経験を持つ。司会は青井千由紀教授(東京大学公共政策大学院教授)が務めた。

バロンズ氏は、講演会のテーマであるイギリスの国防の現状と展望を分析するにあたり、イギリス軍の歴史的起源を概観した。二つの世界大戦と冷戦は、厳しい地政学的衝突の時代であり、イギリス軍は、国家の生存に対する最大の脅威である大規模紛争に備えていたと、バロンズ氏は言う。しかし冷戦の終結によって、状況は一変した。国防に対する喫緊の脅威は消滅し、軍隊は低強度紛争における、グローバルな警察的活動が主たる任務となり、また国防費も大幅に削減されることとなった。そして、バロンズ氏によれば、1989年の冷戦終結以来、「戦争は外国で起こるもの」であり、かつ戦争は国家の国益を擁護するための破滅的な闘争ではなく、ほとんど、あるいはまったく死傷者の出ない限定的な行動とみなされるようになったのである。

さらに、とりわけ2008年の世界金融危機の後、イギリス政府は厳しい財政的制約の下に置かれることとなり、国防費の増額よりも減額を主張するほうがはるかに容易な政治状況になったと、バロンズ氏は指摘する。バロンズ氏によれば、この結果として、イギリス軍は非常に困難な状況に直面することとなり、新たな国防に対する脅威に対応することが難しくなったのであった。

バロンズ氏は、もはや、過去のように限定的な脅威の存在を想定すればよい時代は過ぎ去ったと言う。2015年のイギリスの「国家安全保障戦略及び戦略防衛安全保障見直し」では、テロのみならず、国家間の大規模な紛争に備える必要があると指摘されており、イギリス軍は、タリバンやアル・カイーダよりも強力な敵対勢力に備えなければならなくなったのである。

さらにバロンズ氏は、クリミア/ウクライナ、地中海、南シナ海といった、国際的緊張が高まる地域に言及し、ロシアや中国といった諸国が、対艦ミサイル、対空ミサイルをはじめとした装備の開発と配備に大規模な投資を行ったことに対する注意を喚起した。これにより、西側の軍事力が特定の地域に迅速に展開することが困難になり、またその海空における優勢が脅かされているのである。さらに、ハイブリッド・ウォー等のロシアによる新たな戦争に対するコンセプトの開発によって、平時と戦時の境目はさらに曖昧になっており、その中でも脅威であるのがサイバー戦争だと、バロンズ氏は指摘した。

バロンズ氏は、こうした新たな状況における国防とは、もはや一国の軍事組織によってのみ担われるものではないという。民間や学界の優れた研究者や技術者が軍と密接に協力することが必須であり、かつ他国との同盟システムの中で国防を考えなければならない状況にある。バロンズ氏は、戦略的思考方法を大幅に転換しなければ、十分な準備のないままに、深刻な安全保障問題に直面する可能性があると指摘して、講演会を締めくくった。