PARI

Read in English

SSUフォーラム:Sheila Smith上級研究員

日時: 2016年11月16日(水)15:00-16:30
場所: 伊藤国際学術研究センター3F 特別会議室
題目: Revisionism, Populism or Nationalism?: The Political Currents that Shape the U.S.-Japan Alliance
講演者: Sheila Smith上級研究員(米国外交問題評議会)
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

2016年11月16日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、シーラ・スミス氏(米外交問題評議会上級研究員)を講師に迎え、”Revisionism, Populism or Nationalism?: The Political Currents that Shape the U.S.-Japan Alliance”と題したSSUフォーラムを開催した。スミス氏は、近著、Intimate Rivals: Japanese Domestic Politics and a Rising Chinaをはじめ、多くの業績を発表してきた、日本外交と日米同盟を専門とする著名な研究者である。司会は、中国政治を専門とする高原明生教授(東京大学大学院法学政治学研究科)が務めた。

日米同盟の行く末を展望するにあたり、スミス氏は、まず、約1週間前に起きた同盟に大きな影響を与えるであろう出来事を概観した。すなわち、2016年11月8(火)の米大統領選挙における、ドナルド・トランプ共和党候補の勝利である。トランプ氏の米大統領就任は、いったい何を意味するのか。その米国内外に対する影響とは何か。スミス氏は、トランプ氏の成功は、世界的なナショナリズムの復活という文脈で理解されるべきである、と言う。ナショナリズムの急速な拡大はヨーロッパでも見られ、また数年前には、安倍晋三総理の登場とともに、日本におけるナショナリズムの増大が議論の的となった。

スミス氏は、米大統領選挙について、以下3点を指摘した。まず、今回の選挙は、統計データに基づく選挙予測が軒並み結果を大きく読み誤り、その限界が露呈した。また、総得票数ではヒラリー・クリントン候補が上回っていたが、現行の選挙人団制度の下での票の配分によってトランプ氏が勝利する結果となった。この米大統領選特有の選挙人団制度の見直しが議論される可能性もあると、スミス氏は言う。さらに、スミス氏によれば、今回の選挙結果は民主党にとって危機的事態でもあった。民主党に有権者登録をした人々の多くが、クリントン氏に投票しなかったのである。民主党予備選挙の過程で、バーナード・サンダース氏を支持した人々が、クリントン氏に背を向けたからであった。

トランプ氏当選の国際政治への影響については、スミス氏は、まず、全般的な不確実性の増大を挙げた。またスミス氏は、日本については、トランプ氏の核心的な選挙公約であった、アメリカの環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership: TPP)からの撤退を指摘した。しかしながら、スミス氏は、これはトランプ氏個人の志向に帰されるものではなく、民主共和両党を横断した超党派的な潮流を背景としていると言う。民主党のクリントン候補も、自由貿易の推進が米国の一般労働者(ブルーカラー)を豊かにすることはないとの見解に理解を示している。そして、スミス氏によれば、米国世論も全体としては自由貿易を支持しているものの、エリートと一般大衆の間には顕著な温度差が存在する。すなわち、エリートは自由貿易を強く支持しているのに対して、大衆はより懐疑的なのである。

同盟については、スミス氏は、トランプ氏の支持者を含むアメリカ人の多数派は、現在の同盟を支持していると指摘する。しかし、米国の新たな同盟関係の構築にはより支持が薄く、さらに、国際的な多国間条約へのコミットメントには懐疑的な意見が多い。

スミス氏は、現段階でトランプ次期政権の外交方針を展望するのは難しいと言う。ただし、トランプ氏が現在表明している三つの優先的課題はすべて貿易に関するものであると、スミス氏は指摘する。すなわち、北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement:NAFTA)の再交渉、TPP脱退、そして、中国を為替操作国と認定すること、である。スミス氏によれば、この貿易協定以外のトランプ氏の外交方針、例えば軍事力行使に関する方向性は判然としない。シリアに関するオバマ政権の方針にトランプ氏は反対を表明しており、反政府勢力への支援は撤回するかもしれない。またロシアとの間に合意を形成しようと試みるだろう。しかし同時に、ロシアも調印国であるイランとの核合意に対しては見直しを示唆するなど、不明瞭な点が多いと、スミス氏は言う。

北東アジアについては、スミス氏によれば、北朝鮮のトランプ次期政権への対応が予測し難い。北朝鮮はこれまで米国の新政権の方針を試すための挑発行動を行ってきたために、もしかすると何らかの行動を起こすかもしれない。

トランプ外交は、ジョージ・W・ブッシュ政権第二期と、レーガン政権の中間となるのではないかとの予測もある、とスミス氏は指摘する。スミス氏は、トランプ氏の全体的な政策な方向性は見通しは不明であるとしながらも、トランプ氏の側近の対中姿勢が極めて強硬であると指摘した。トランプ氏を孤立主義と捉えるのは時期尚早かもしれないし、またそもそも体系的な戦略観があるのかどうかも不明であると、スミス氏は言う。

このようにトランプ外交については不透明な点が多いが、スミス氏は、最後に、可能性が高いと思われる展望を、2点示した。すなわち、アメリカ国内が分断され、混乱すること、そして、トランプ外交はリベラルな価値を追求するものではなく、利益の獲得を重視するものとなるだろうということである。