SSUフォーラム:Mikkel Rasmussen教授
日時: | 2017年1月17日(火)10:30-12:00 |
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場所: | 伊藤国際学術研究センター3F 中教室 |
講演: | Crisis and Cohesion:The Western Alliance and the End of European Integration Mikkel Rasmussen教授(コペンハーゲン大学) |
言語: | 英語 |
共催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット、 東京大学公共政策大学院 |
2017年1月17日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、ミッケル・ラスムッセン氏(コペンハーゲン大学教授)を講師に迎え、“Crisis and Cohesion:The Western Alliance and the End of European Integration” と題したSSUフォーラムを開催した。ラスムッセン氏はヨーロッパを代表する安全保障研究の専門家である。藤原帰一安全保障研究ユニット長から開会の言葉が述べられ、その後の司会はイー・クアン・ヘン教授が務めた。
ラスムッセン氏は、議論のはじめとして、イギリスのEU離脱(Brexit)とドナルド・トランプ米大統領の登場という西側世界の大きな変化に言及し、特に、欧州統合の終焉に焦点を当てると述べた。ラスムッセン氏によれば、現在の状況を理解するには、ジョン・デューイの教育に関するモデルからインスピレーションを得ることができる。すなわち、政治の捉え方には、絶えざる実験の積み重ねと、ある特定の原則やアジェンダの適用、という二つの異なる理解が存在するということである。ではこの枠組みは、どのように国際政治に当てはめることができるだろうか。
ラスムッセン氏によれば、今日の状況は、冷戦の終結と、その解釈がもたらした結果であると考えることができる。歴史を振り返れば、冷戦が終わる10年前、1970年代には、西側世界はベトナム戦争と経済危機によって危機的状況にあると考えられていた。この状況から出現したのがロナルド・レーガン大統領であり、安全保障でも経済でもそれまでとは大きく異なる政策を「実験」したのだと、ラスムッセン氏は言う。
しかしながら、ラスムッセン氏によれば、これがあまりにも大きな成功を収めたために、レーガンのプラグマティックな実験は、冷戦終結後、常に政治と経済の運用に適用されるべき原則、「アルゴリズム」と理解されるようになってしまった。1980年代初期のアメリカにおける実験が、世界のどの地域にも当てはめることのできるものとみなされたのが、1990年代から2008年までの世界だったと、ラスムッセン氏は言う。そして、その時代はもはや終わった。この意味で、グローバライゼーションは、2016年11月8日に終焉を迎えたのだと、ラスムッセン氏は指摘した。
ラスムセン氏は、世界は再び、アルゴリズムの時代から実験の時代へと回帰したという。トランプ大統領とBrexitは、まさにこの実験だというのである。ラスムセン氏は、とりわけEUについて、今回の危機が制度自体の崩壊を招く可能性のあるものだと指摘する。この危機にあってEUにおけるドイツの重要性は増しているが、ドイツのイニシアティブは他国からの反発を招く状況にある。またロシアの役割が増大していることにも注目が必要だと、ラスムッセン氏は言う。
ラスムッセン氏は、この背景にある理念の解釈の変化にも注意を促した。これまでは、国際間の交流が深まれば深まるほど、相互理解が促進され、平和と繁栄が実現するという理念が語られてきた。グローバライゼーションとEUは、この理念に基づくものであったといってよい。しかしながら、現在、相互交流の深化と拡大は、むしろ差異の発見と摩擦の増大を招くとの議論が説得力を持ち始めている。そしてラスムッセン氏は、この考え方を主導してきたのがロシアのプーチン大統領であると指摘した。
こうした新しい危機の時代、「リスク社会」ならぬ「クライシス社会」に、いかにすれば対応することができるのか。ラスムッセン氏は、いまできることは、これまでのアルゴリズムを当てはめるのではなく、新たな方策を「実験」していくことのみだと述べて、講演を締めくくった。