SSUフォーラム:Tai Ming Cheung教授
日時: | 2017年2月15日(水)10:30-12:00 |
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場所: | 伊藤国際学術研究センター3F 中教室 |
講演: | Understanding China’s Military Technological Rise and the Global Implications Tai Ming Cheung教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校) |
言語: | 英語 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット |
2017年2月15日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、タイ・ミン・チュン氏(カリフォルニア大学サンディエゴ校教授)を講師に迎え、“Understanding China’s Military Technological Rise and the Global Implications”と題したSSUフォーラムを開催した。チュン氏は高名な中国軍事問題の専門家である。司会は、小原雅博教授(東京大学大学院法学政治学研究科)が務めた。
中国の軍事的台頭の背景にある軍事産業と軍との関係はいかなるものか。またそれはどのような国際的な相互作用を持つのだろうか。チュン氏は、軍事技術問題を通じて現在最も重要な安全保障問題である権力移行を考えることの重要性を指摘した。
1990年代には後進的とみなされていた中国の軍事技術は、その後急速な進展を見せ、現在、西側諸国の先進技術まであと一歩のところまで迫っていると、チュン氏は指摘する。この急速な軍事技術の進展が南シナ海をはじめとした中国の拡張主義的行動を指させているわけだが、では、なぜこのような技術発展が可能となったのか。
中国軍事技術の発展のカギとして、チュン氏は、まず、習近平主席の強いリーダーシップの存在を指摘した。そして、実際の技術開発の現場で重要となるのが、リバース・エンジニアリングである。すなわち、他国の軍事技術を吸収し、模倣し、学習するのである。チュン氏によれば、これは、かつて日本が採用した方法であり、これによって技術基盤を蓄積している中国は、現在の日本と同様に、30年以内に技術革新の先頭に立つ可能性もある。しかし、将来のことはもちろん不透明であり、また技術革新を継続するには経済発展の持続が必要不可欠である。
チュン氏は、技術革新の要因には多くの要素が存在するものの、中国の軍事技術発展の触媒となった要因としては、特にリーダーシップと脅威認識が重要な役割を果たしていると主張する。前述のように、習近平は軍事技術に強い関心を持っている。このような強力なリーダーシップが存在する場合、多くの資源が軍事技術に投入されることになり、また優先順位の高い政策となるために官僚組織の問題点も克服される。このため、特に中国のようにトップダウンの一党独裁の権威主義国家では、チュン氏によれば、リーダーシップの存在は技術革新の促進に大きな意味を持つのである。
そしてこの背景に存在するのが、中国指導部の脅威認識だとチュン氏は指摘する。中国は、卓越した軍事技術を保持するアメリカを戦略的な競争相手と捉えており、またアメリカがイラクのような軍事技術の面で後進的な国家に一方的な勝利を収めたことに警戒感を抱いてきた。これが、中国指導部に軍事技術革新の重要性に関する共通認識を形成することとなったのである。
チュン氏によれば、中国の軍事技術開発は、現段階ではロシアをはじめとした他国の先進技術の模倣と学習が主であるが、徐々に独自の技術開発へと乗り出している。だが、全く新たなオリジナルの技術革新を行うには、リバース・エンジニアリングから基礎研究への重点の変化を行う必要がある。この面で注目すべきが、中国における民軍協力だとチュン氏は指摘する。習近平は、「メイド・イン・チャイナ2025」を打ち出し、民生面での技術革新の先頭を目指すことを宣言しているのである。
この観点から、チュン氏は、現在の中国が、かつての開発志向国家から、安全保障国家への転換点にあることに注意を促した。すなわち、中国は、かつての、経済発展とインフラストラクチャーの整備に重点を置く国家から、国家安全保障に重点を置く国家へと変貌しつつあるのであり、これはまた、かつてのウィン・ウィンの関係を志向する政策から、ゼロサム的世界観に基づく対外政策への転換でもあるのである。チュン氏は、かつての米ソ冷戦を髣髴とさせるような米中の軍事技術競争が起きていることを指摘しつつも、これが米中の直接の武力衝突につながる可能性は限定的だと指摘して、講演を締めくくった。