SSUフォーラム:Cedric de Coning上席主任研究員、青井千由紀教授
日時: | 2017年2月24日(金)17:30-19:00 |
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場所: | 伊藤国際学術研究センター3F 中教室 |
講演: | Is UN peacekeeping still relevant in a time of increasingly violent conflict? - A critical reflection on UN Peacekeeping Doctrine in a New Era Cedric de Coning上席主任研究員(ノルウェー国際問題研究所(NUPI))、 青井千由紀教授(東京大学公共政策大学院) |
言語: | 英語 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット、 東京大学公共政策大学院 |
2017年2月24日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、セドリック・ドゥ・コニング氏(ノルウェー国際問題研究所上席研究員)と青井千由紀氏(東京大学公共政策大学院教授)を講師に迎え、現在の国連平和維持活動に関するSSUフォーラムを開催した。両氏は、近編著、Cedric de Coning, Chiyuki Aoi, John Karlsrud eds., UN Peacekeeping Doctrine in a New Eraにおいて新たな平和維持活動の状況の実態を描いたこの分野を先導する研究者であり、本フォーラムは同書に基づいて行われた。司会は、藤原帰一教授(東京大学政策ビジョン研究センター副センター長)が務めた。
青井氏によれば、同書の目的は、近年急速な変化をみせている国連平和維持活動の実態をとらえることである。すなわち、現在平和維持活動は、かつてとは異なり、紛争当事者の合意がなくとも、またマリのように不安定な地域でも実施されるようになった。さらにコンゴ民主共和国における活動にみられるように、平和維持部隊が反政府勢力と対峙し、さらには住民に対する人権侵害を実施すると考えられる勢力に対しては、「介入旅団」(the Force Intervention Brigade: FIB)によって、「中立化」が実施される状況に至っている。こうした現実の変化にもかかわらず、青井氏によれば、こうした状況は現在のところ理論化されておらず、また国連でも定式化されていない。そこで、同書は、特に国連のドクトリンに注目して、この問題に取り組んだものであるという。また青井氏は、従来の平和維持活動と、新たな安定化(stabilization)に重点を置いた活動のドクトリン面の違いについて触れ、さらにこの新たな情勢に対する研究者、国連関係者、参加国の対応や認識の多様性があることにも注意を促した。
続いてドゥ・コニング氏が登壇し、現在の国連平和維持活動の状況を理解するには、1990年代からの議論を振り返ってみる必要があると指摘した。90年代には、ルワンダをはじめとした数多くの危機、虐殺、人権侵害が起こり、これに国連が無力であったことが関係者に大きな衝撃を与えた。この結果、国連平和維持活動は、「保護する責任」とよばれる市民の直接的な保護を、新たな任務とするに至ったのである。かつて、平和維持活動は、交戦当事者が国連の活動を受け入れることを前提とし、また平和条約の締結を目的としていた。しかし、これ以後、交戦当事者が受け入れなくとも、国連は市民の保護を目的に活動を実施するようになった。そしてこれに伴い、平和維持活動の武力行使の在り方も大きく変化した。すなわち、かつては自衛に限定されていた国連部隊の武力行使は、いまや、受け入れ当事国が合意しているとの前提の下ではあるが(反政府勢力等の他の交戦主体の合意なしで)、市民の保護にまで拡大されたのである。ドゥ・コニング氏は、現在の4つのミッション(ハイチ、コンゴ民主共和国、マリ、中央アフリカ)は「安定化」ミッションであると考えることができると指摘する。
では、この新たなミッションは、伝統的なミッションとどのようにことなるのか。これが、ドゥ・コニング氏が、青井氏等とともに、答えようとした問題である。ドゥ・コニング氏によれば、外交官や国連関係者は国連の活動が変化したことを否定する傾向があるが、実態が大きく変化していることは明らかである。そして、これを正確に捉えることができなければ、国連平和維持活動に関する理解が国連安保理や参加国で共有されず、ある国は伝統的な平和維持活動を想定し、またある国は新たなより積極的な行動を予定することになる。この結果、平和維持活動が失敗するリスクが高まり、また平和維持活動に従事する兵士の命を危険に曝すことになってしまう。この喫緊の問題に答えることがこの本を執筆した目的であると述べて、ドゥ・コニング氏は講演を締めくくった。