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SSUフォーラム:吉田文彦氏、Bill Emmott氏

日時: 2017年2月28日(火)10:30-12:00
場所: 伊藤国際学術研究センター3F 特別会議室
講演: 「ニューテクノロジーの台頭と安全保障への新たな挑戦:抑止と戦略的安定への示唆」
吉田文彦氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長)
コメンテーター: Bill Emmott氏(Wake Up Foundation会長、元エコノミスト編集長)
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

2017年2月28日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、吉田文彦氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長)を講師に、またビル・エモット氏(Wake Up Foundation会長、元エコノミスト編集長)を討論者に迎え、「ニューテクノロジーの台頭と安全保障への新たな挑戦:抑止と戦略的安定への示唆」と題したSSUフォーラムを開催した。吉田氏は朝日新聞論説委員を務め、核問題に精通した専門であり、またエモット氏は世界的に著名なジャーナリストである。司会は、藤原帰一教授(東京大学政策ビジョン研究センター副センター長)が務めた。

吉田氏は、現在が歴史上でも稀な技術的革新の時代であり、その戦争に対するインパクトは甚大であると指摘した。第二次世界大戦後の精密誘導兵器の劇的な発展に加え、ナノ・テクノロジーやロボット技術、人口知能や新素材といった様々な分野での発展が、しかも特定の国や地域ではなくグローバルに起こっている。吉田氏によれば、これが意味するのは、最新技術が容易に世界中の国家及び非国家主体に拡散するということであり、こうした軍事技術革命(Military Technological Revolution)がどのような意味を戦争に持つのか、検討する必要がある。

吉田氏は、軍事技術革命には、いくつかの異なる捉え方が存在すると指摘する。ストックホルム国際平和研究所は、現在の技術革新の行く末を見通すのは難しいものの、科学技術は軍事問題を、さらには将来の平和の条件を根底で規定するものと捉えている。アメリカ大統領府が発表した報告書では、最新技術の保持がアメリカの力の源泉であり、これを維持することの重要性を強調しつつ、技術革新がグローバルな現象となったことに注意を喚起している。また新アメリカ安全保障センター(The Center for a New American Security)はロボット技術に焦点を当てた報告を作成している。同報告によれば、米国防総省は、ロボット技術の積極的導入を進めながらも、人間による決定を維持することの重要性を強調している。しかしながら、即時の反撃が重要な状況や、あるいは、人間とロボットとの接続が不安定な場合、自律的な機械はより信頼し得る決定機構とみなされる可能性もある。

以上の状況の下で、吉田氏は、ジェームズ・ルイスの所説を引きながら、軍事技術の発展とそのインパクトが、抑止に関する計算を変化させ、国際関係を不安定化することに注意を促した。そこで、吉田氏は、ルイスの言うように、潜在的敵対者との共通理解の形成、一方的措置による信頼醸成措置、そして可能ならば、新技術の軍事利用の制限に関する合意の形成が必要だと指摘する。さらに、吉田氏によれば、この軍事技術の進展は、アメリカの同盟システムにも影響を与える。すなわち、アメリカは、先端技術に重点投資を行って技術的優位の維持を目指す「第三のオフセット戦略」を追求しており、日本のように高い技術力を持つ同盟国は重要な役割を果たすことになるのである。

以上を踏まえた上で、吉田氏は以下のような問いを投げかけた。技術はリスクと機会の双方を作り出すが、このバランスをいかにとるべきか。アメリカの第三のオフセット戦略は国際関係を安定させるのか、またそれはいかなる条件の下で成立するか。将来における核抑止の役割とは何か。日本にとって最善の選択肢とは何か。これらの問いに明確な答えは存在しないものの、近い将来に大きな影響を与えるものだと指摘して、吉田氏は講演を締めくくった。

吉田氏の講演に対して、エモット氏は、三点にわたってコメントを行った。第一に、現在のトランプ政権の位置づけである。エモット氏によれば、軍事技術革命にはパラドックスが存在する。イラク、シリア、イエメンの失敗に象徴されるように、戦争に関する技術が発展すればするほど、戦争の持つ政治的効果は減退するように思われることである。オバマ政権はこれに対して慎重な外交と不介入で対応した。だがトランプ政権は、より積極的な対応を取ろうとしており、特に国防費を増大させるという方針は、第三のオフセット戦略の枠組みと整合する。

エモット氏は、第二に、西側同盟の弱体化と分裂に注意を促した。イラク戦争と金融危機、さらに西側諸国の国内的危機の中、同盟の必要性は高まっているものの、その信頼性は弱まっている。エモット氏は、また、米国防総省は同盟の再確認を急いでおり、アメリカが同盟から後退することはないが、ヨーロッパ諸国は防衛費を増額し、またより自律的な技術力を発展させるとの予想を提示した。

最後に、エモット氏は、軍事技術革命の持つ意味について考えるべきポイントを提示した。まず、エモット氏によれば、アメリカにとっての現在最も注目すべき脅威は中国である。アメリカの技術的優位はどの程度維持することができ、これはいかなる影響をアジア太平洋地域に与え、あるいは、いかに中国に対する抑止として働くのか。また、ISISや北朝鮮等を対象とする非対称戦争において、軍事技術革命はどのような意味を持つのか。こうした現在の技術革新が軍事に持つ意味は、同盟にも大きな影響を与えるということを指摘して、エモット氏は講演を締めくくった。