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SSUフォーラム / 第9回山川健次郎記念レクチャー
Steven Wilkinson 教授

日時: 2017年5月19日(金)11:00 - 12:30
場所: 伊藤国際学術研究センター3F 中教室
講演: “War and Political Change”
Steven Wilkinson教授(イェール大学 政治学部長)
コメンテーター: 石田 憲 教授(千葉大学)
言語: 英語
共催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット、
イェール大学・ウイットニ―&ベッティ・マクラミラン国際地域研究所、東大友の会(FUTI)

2017年5月19日(金)、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、スティーヴン・ウィルキンソン氏(イェール大学教授)を講師に迎え、 “War and Political Change”と題したSSUフォーラム / 第9回山川健次郎記念レクチャーを開催した。本セミナーは、イェール大学・ウイットニ―&ベッティ・マクラミラン国際地域研究所及び東大友の会との共催で開催された。ウィルキンソン氏は、近現代インド史の研究で知られる研究者である。ヨーロッパ政治史を専門とする石田憲教授(千葉大学)が討論者を、また藤原帰一教授(東京大学政策ビジョン研究センターセンター長)が司会を務めた。

“War and Political Change”という研究課題の特徴は、戦争の国家への影響のみならず、個人への影響に注目するところにあると、ウィルキンソン氏は言う。すなわち、戦争が個人に影響を与え、その個人の行動が国内政治において革命的な影響を及ぼすという政治力学もまた存在するというのである。
この最もよく知られた実例は、1789年7月14日の事件だと、ウィルキンソン氏は指摘する。フランス革命におけるバスチーユ監獄の襲撃である。この事例では、アメリカ独立戦争(1775年~1783年)に従軍し、砲兵としての専門知識を持った退役軍人が指揮をとったことで、反乱軍は要塞の攻略に成功したのだった。暴力には技術が必要なのであり、過去の従軍経験は戦後の暴力的な政治変動と関連しているのではないか。すなわち、ウィルキンソン氏によれば、実戦を経験した退役軍人・帰還兵の存在と、革命のような国内の政治的暴力の発生と政治変動との関連を検討することが、この研究プロジェクトの課題である。

この研究課題に関するこれまでの研究は、退役軍人に対する個別のインタビューや回顧録に基づくものであり、重大な限界を抱えていたと、ウィルキンソン氏は指摘する。すなわち、個々の帰還兵の経験、実際に戦後の政治変動で各々が果たした役割、またその記憶の間には多くの齟齬があり、あるいは無意識の改変が加えられるからである。そこで、ウィルキンソン氏は、数量的アプローチをとることで、この問題への回答を試みた。つまり、実際に、退役軍人・帰還兵は、他のグループに属する人々よりも、より積極的に戦後の政治的暴力や紛争に参加したのか否かを、数量的データに基づいて検討したのである。
ウィルキンソン氏は、二つの事例を挙げる。第一に、インド独立後の、インド・パキスタン間の紛争である。第二次世界大戦で連合国軍として参戦したインド出身の兵士の多くが、戦後この紛争に参加したことはこれまでも知られていた。ここで検討されるべきは、他のグループと比して、この帰還兵グループが統計的により積極的に暴力・紛争に参加したのか、ということだとウィルキンソン氏は言う。多くの様々なデータと解釈を提示した上で、ウィルキンソン氏は、暴力の烈度が高い地域と、帰還兵の居住割合に、また特に熾烈な戦争経験した帰還兵の居住割合には相関関係が見いだせると指摘した。
第二の事例としてウィルキンソン氏が挙げるのは、フランス革命である。革命の直前に起こったアメリカ独立戦争にフランスは兵士を送っており、この帰還兵の居住割合と、革命運動の烈度、民主的思想の普及度、あるいは政治的結社の数といった変数の間には相関関係が見いだせるとウィルキンソン氏は指摘する。アメリカ独立戦争に派遣されたフランス軍部隊と、国内に残留したフランス軍部隊の間に、身分、階層、文化等において大きな差異は見いだせないことから、従軍経験によって、兵士たちがより政治的な存在となったのだと考えることができるかもしれないと、ウィルキンソン氏は述べて、講演を締めくくった。