SSUフォーラム:Sheila Smith 上級研究員
日時: | 2017年6月23日(金)11:00 - 12:30 |
---|---|
場所: | 伊藤国際学術研究センター3F 中教室 |
講演: | “The U.S-Japan relations in the age of the Trump administration” Sheila Smith上級研究員(米国外交問題評議会) |
言語: | 英語 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット |
2017年6月23日(金)、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、シーラ・スミス上級研究員(米国外交問題評議会)を講師に迎え、“The U.S-Japan relations in the age of the Trump administration”と題したSSUフォーラムを開催した。スミス氏は、日本研究と日米関係を専門とし、学術研究のみならず、現状分析と政策提言の分野でも著名な研究者である。司会は藤原帰一氏(政策ビジョン研究センター長/東京大学教授)が務めた。
ドナルド・トランプ政権が誕生して以来、アメリカ外交は、また日米同盟はどのような状況にあるのだろうか。スミス氏は、まず、トランプ政権の誕生が世界各国にとって大きなショックであったこと、またトランプ大統領が選挙中のスローガンに対する強い警戒感がアメリカ内外であったことを指摘した。日米同盟についても、日本の核武装や負担分担に言及するなど、トランプ氏の言動は懸念すべきものであった。
では、現時点で、トランプ外交はどのように評価できるのか。まず、スミス氏は、トランプ政権の大きな特徴は、選挙中の混乱を引き継いで、トランプ政権の陣容が固まっていないという点に注意を促した。過去の政権の例を見ても、政府ポストが固まるには相当の時間が必要となる。しかし、トランプ政権は、特にこの点で困難を抱えているとスミス氏は言う。通常、アメリカ大統領選挙では、選挙候補は、キャンペーン中に新政権のスタッフのリストアップを行い、また各種専門家もポストを求めて猟官活動を行う。しかしながら、トランプ政権に関しては、選挙中に共和党系の外交専門家集団がトランプ氏は大統領に相応しくないとの立場を公にしたため、大統領と共和党専門家集団との関係が著しく悪化した。このため、トランプ政権は現在に至るまで十分な人材を確保できておらず、多くの外交・安全保障問題の実務ポストが空席のままとなっている。さらに、トランプ政権は、政権発足直後より、選挙公約を、大統領令を通じて実施することに傾注したと、スミス氏は指摘する。すなわち、雇用問題や保険問題、あるいは移民問題をはじめとした国内問題と、貿易問題である。こうした国内問題をめぐる議会共和党と政権の関係の行く末も不透明であり、トランプ政権は、このような政権内部に大きな問題を抱えているのである。
外交については、以上のような政権の問題を反映して、トランプ政権は様々な問題に直面しているとスミス氏は言う。特にヨーロッパ諸国に対しては、トランプ大統領が、防衛費の負担分担問題を提起し、またアメリカの欧州へのコミットメントを確約しないといった行動をとったために、強い軋轢が生じている。
他方で日米関係については、安倍晋三総理が、政権発足以前の段階でトランプ大統領と会談するというリスクをとったことで、首脳間の個人的関係が形成されたと、スミス氏は指摘する。またマイク・ペンス副大統領が日米関係に関与し、さらにジェームズ・マティス国防長官やレックス・ティラーソン国務長官といった外交問題の責任者が早期にアジアを歴訪したことも効果的であった。スミス氏によれば、アメリカ側の担当者が十分にそろっていないこともあって、日米首脳会談は日本側のイニシアティブが大きなものとなったが、米豪関係などの他のアジア太平洋諸国と比しても、日米関係は安定的に推移しているのである。
今後のアメリカの東アジア政策を展望したとき、総合的な東アジア戦略がトランプ政権の下で形成される可能性は必ずしも高くないと、スミス氏は言う。そもそも、トランプ政権の東アジアについての関心の中心は貿易にあり、安全保障問題への定見はなかった。しかし、その後、北朝鮮問題が急速に注目を集めたことで、現在は安全保障問題の優先度が上昇している。これは対中政策にも影響を与えており、スミス氏によれば、中国への北朝鮮への対処によって、トランプ政権の中国への姿勢にも変化が起こる可能性がある。また、スミス氏は、北朝鮮に対する対応が、まず、日米同盟の問題として提起されたことはこれまでにない事態だと指摘する。従来、北朝鮮問題は主として米韓同盟の懸案だったからである。だがいずれにしても韓国の協力は北朝鮮問題解決に不可欠である。スミス氏は、文在寅韓国大統領の政策についても、発足以前より懸念すべき点は低下していると述べ、日米韓の協力関係の形成が不可欠だと主張した。
スミス氏は、最後に、トランプ政権がアメリカ外交に与える影響を展望し、三つの可能性を指摘した。すなわち、①トランプ政権はアメリカが国益優先の外交に回帰することを示すものなのか、②トランプ政権の現時点での政策は一時的な逸脱であり、トランプ政権ですらいずれは従来の国際主義的なアメリカ外交に回帰するのか、③あるいは、トランプ政権の方針はアメリカの政治的価値とかけ離れているために混乱を続ける、という三つの可能性である。スミス氏は、第一の可能性ほど悲観的になる必要は現段階では高くないが、第三の可能性、つまりアメリカ外交の混乱が続く可能性はあると述べて、講演を締めくくった。