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SSUフォーラム:Christina Davis 教授

日時: 2017年7月12日(水)11:00 - 12:30
場所: 伊藤国際学術研究センター3F 中教室
講演: “International Organizations and Foreign Policy: The Case of Japan”
Christina Davis 教授(プリンストン大学)
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

2017年7月12日(水)、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、クリスティーナ・デイビス氏(プリンストン大学教授)を講師に迎え、 “International Organization and Foreign Policy”と題したSSUフォーラムを開催した。デイビス氏は、国際政治における経済と安全保障に関する研究で知られる著名な研究者である。また、司会は藤原帰一氏(政策ビジョン研究センター長/東京大学教授)が務めた。

デイビス氏によれば、この講演は、日本に焦点を当てて、国際組織におけるメンバーシップと、国際組織に対する国家の政策を決定する政治・経済的な要因を明らかにするものである。ドナルド・トランプ大統領の下で多国間主義に対する疑義が表明されている現在、国際組織に対する国家の姿勢や政策を明らかにすることの重要性は、特にアメリカにおいて大きなものとなっている。また日本については、その外交政策において国際組織が大きな役割を占めており、特に近年は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が重要な論点となっているため、この講演でもTPPに焦点を当てたいとデイビス氏は述べた。

デイビス氏は、以上の問題を考えるうえで、基礎的な問いを考えることが重要だという。すなわち、なぜ国家は国際組織に参加するのか、という問いである。デイビス氏によれば、日本は、明治以来、国際電気通信連合をはじめとした国際組織への参加に強い関心を示してきた。国際的なステータスを確保するためである。だが1930年代には、国際連盟から脱退し、戦争への道を歩んだ。だが占領が終結すると、再び日本は国際組織への参加を希求し、1956年には国際連合に加盟したと、デイビス氏は指摘する。

デイビス氏によれば、この日本の事例は、国際組織におけるメンバーシップと、国家の外交政策との関連を象徴するものである。また、ウクライナのヨーロッパ連合(EU)加盟問題のように、国際組織のメンバーシップは、国際紛争の火種となることもある。国際組織のメンバーシップには、対立する陣営のいずれに与するのか、という選択という側面があるからである。

これはTPPをめぐってより顕著に観察することができると、デイビス氏は言う。TPPは、経済連携協定でありながら、台頭する中国に対する対抗という地政学的利益抜きに理解することはできない。特に、日本のTPP加盟は、デイビス氏によれば、この好例である。日本はすでに二国間の自由貿易協定を東南アジア諸国と結んでおり、またアメリカの関税はそれほど高いわけではない。したがって、日本にとっては、中国をTPPに引き込むことこそが経済的利益になるはずであるが、TPPから中国が排除されているのは、これが中国に対抗する政治的意図が背景にあるからである。    

    

以上のような事例を念頭におけば、国家はいかなる動機から国際組織に参加すると考えることができるだろうか。デイビス氏によれば、これまでの研究では、国際組織への加入から得られる直接的な経済的、あるいは政治的利益が重視されてきた。これはもちろん無視することはできない。しかし、デイビス氏によれば、事態はより複雑である。

デイビス氏は、国際組織とは「会員資格の限られたクラブ」への加入のような特徴があると指摘し、新たなメンバーを特定の国際組織に迎えるか否かにおいては、経済のみならず、安全保障上の考慮が重要となるという。統計データを紹介することで、デイビス氏は、安全保障面の要素が大きな意味を持つことを示し、また特に日本については、1990年代より、安全保障上の考慮が国際組織への加入において重要性を増していると指摘した。デイビス氏は、日本の国際組織への加入に関しては、1950年代の関税及び貿易に関する一般協定(GATT)から現在のTPPに至るまで、安全保障における利益が重要な役割を果たしていると述べて、講演を締めくくった。