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SSUフォーラム:James Crabtree 准教授

日時: 2018年3月2日(金)11:30 - 13:00
場所: 伊藤国際学術研究センター3F 特別会議室
講演: "The Rise of the Indo-Pacific: Can India and Japan Shape the New Global Order? "
James Crabtree 准教授 (シンガポール国立大学 リー・クアンユー公共政策学院)
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
概要: Prime Minister Shinzo Abe of Japan and Prime Minister Narendra Modi of India have drawn closer of late, as both leaders grapple with the challenges of China's rise. At their last meeting in September 2017, Mr. Abe said stronger ties between the two Asian nations could become the "basis to underpin the regional order”. Both have also pushed the idea of the "indo-pacific", while unveiling their own plan to rival the Chinese Belt and Road Initiative: the $40bn Asia-Africa Growth Corridor. But given their respective economic and military limitations, can a new partnership between India and Japan really shape a changing global order? And what would it need in terms of political will and economic resources to succeed?

2018年3月2日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、James Crabtree氏(シンガポール国立大学リー・クアン・ユー公共政策学院准教授)を講師に迎え、“The Rise of the Indo-Pacific: Can India and Japan Shape the New Global Order?” と題したSSUフォーラムを開催した。Crabtree氏はインドを中心とした南アジア地域の国際関係及び経済・金融問題の専門家である。司会は、イー・クアン・ヘン教授(東京大学公共政策大学院)が務めた。

「自由で開かれたインド太平洋」とはどのようなもので、何ゆえに提起され、なぜ重要なのか。この問題の淵源には中国の台頭があると、Crabtree氏はまず指摘した。この地域がアメリカと中国の影響の濃淡によって二分される傾向がみられるようになり、さらにアメリカでトランプ政権が誕生したことにより、日本、インド、オーストラリア、そしてアメリカからなる4か国の関係が注目を集めるようになったのである。Crabtree氏によれば、インド太平洋概念は安倍晋三政権によって2007年に提起され、4か国の安全保障ダイアログが計画されたが、オーストラリアの政権交代やインドとの対立、中国の批判などによって挫折したものである。

ではなぜ10年前の概念がいままた注目されているのか。それはアメリカのトランプ政権が、オバマ政権のピボットの代案を打ち出せない中で、日本が提起したインド太平洋概念を採用し、これを主軸に据えた政策構想を公表したからである。ではなぜ、インド太平洋であり、また上記4か国が特に注目されているのか。

Crabtree氏によれば、三つの要因があった。第一に、中国の対外行動の活発化である。中国は、東シナ海や南シナ海、さらにインド洋での活動を急速に活発化させており、この海洋における拡張は、日本、オーストラリア、インドの警戒を招いた。またインドとは、中国は内陸でも国境紛争を引き起こしている。

第二に、中国による一帯一路構想の展開が、4か国の不安をあおっていることを、Crabtree氏は挙げる。中国は巨大な資金と経済援助を各地に展開しており、これは何よりも経済政策として展開されている。だが、これは徐々に、中印国境の諸国への影響力拡大やグローバル・パワーの展開といった、戦略的含意を持つ経済外交へと変化しており、例えばシンガポールなどは会議への参加を拒否されるなどの圧力を受けている。日本をはじめとした諸国がこの中国の経済外交に対抗しようとすれば、インドやオーストラリア、アメリカといった諸国と協力せざるを得ないと、Crabtree氏は言う。

第三に、アメリカの信頼性が急速に低下していることが背景にあると、Crabtree氏は指摘する。トランプ政権の登場で、アジア太平洋地域諸国は、これまでの戦略の前提を再考し始めている。すなわち、Crabtree氏によれば、アジア諸国では、アメリカが何をしようとしているのか、アジア太平洋で何を追求しているのかが不明確だという認識が広がっている。したがってアジア諸国は、アメリカを繋ぎ止めることを追求しているものの、アメリカのリーダーシップに頼れないと考えている。トランプ政権が二国間協議を好み、TPPから離脱し、そのアジア戦略が極めて不透明になる中で、インド太平洋概念は、このギャップを埋めるものとして注目を集めているというのである。

以上を踏まえて、Crabtree氏は、インド太平洋概念の将来について展望した。まず、日印関係は、安倍総理とモディ首相の親密な関係もあり、この4か国の連携の試金石になるとの見通しが示された。しかしながら、同時にCrabtree氏は、この4か国には無視し得ない差異があり、特に中国に対する姿勢にも温度差がみられると指摘した。例えば、インドは一帯一路構想から得られる経済的利益が乏しく、これに参加しないという原則的立場を示して強い警戒感を示している。これに対して日本は、この構想が日本経済にも利益となり得ると考えており、より柔軟な姿勢を示しているのである。

Crabtree氏によれば、このような状況では、この構想の将来は中国の将来の行動と、これにいかに周辺諸国が対応するかにかかっている。インド太平洋概念も、4か国の連携も、現段階では中国の台頭に対する受動的対応にとどまっているからである。強大な経済で周辺諸国を惹きつける中国に対抗するためには、日本、インド、オーストラリア、アメリカが単なる現状維持に留まることなく、インフラ投資、経済、安全保障を含めた積極的なビジョンを打ち出す必要があると述べて、Crabtree氏は講演を締めくくった。