SSUフォーラム / GraSPPリサーチセミナー:
Mr. Peter van der Vliet(Director, Multilateral Organisations and Human Rights, オランダ外務省)
岩井文男氏(前駐イラク日本国大使、内閣府国際平和協力本部事務局長)
日時: | 2019年2月6日(水)10:30-12:00 |
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場所: | 東京大学国際学術総合研究棟4F SMBCアカデミアホール |
主題: | The Future of Peace Cooperation |
言語: | 英語 |
報告者: | Mr. Peter van der Vliet(Director, Multilateral Organisations and Human Rights, オランダ外務省)
岩井文男氏(前駐イラク日本国大使、内閣府国際平和協力本部事務局長) |
コメンテーター: | 青井 千由紀 (東京大学公共政策大学院教授) |
司会者: | イー・クアン・ヘン (東京大学公共政策大学院教授) |
言語: | 英語 |
定員: | 80名 |
主催: | 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット 東京大学公共政策大学院GraSPPリサーチセミナー |
概要: | Director Van der Vliet and Director-general Iwai will be discussing the future of international peace cooperation by drawing from their own extensive experience. How have peacekeeping missions evolved? What are the challenges of past and ongoing operations? And, more importantly, how can we learn from them? Using examples of recent operations, both speakers will shed their light on the question of how we can boost the effectiveness of international peace cooperation. How can we improve and reform the United Nations system and make multilateral cooperation in this field more sustainable? |
平和協力の未来
東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットはこのたび、本学の公共政策大学院との共催により、オランダ外務省国際機関担当官のピーター・ヴァン・デル・ヴリエット氏および、前駐イラク日本国大使で内閣府国際平和協力本部事務局長の岩井文男氏をお迎えしてSSUフォーラム「平和協力の未来」を開催した。公共政策大学院のヘン・イー・クアン教授が司会進行役、青井千由紀教授が討論者を務めた。
ヘン教授が開会のあいさつを述べた後、2人の講師を紹介し、講演に移った。
岩井大使は、主催者と参加者への感謝を伝え、ヴァン・デル・ヴリエット氏と一緒に講演する機会を持つことを光栄に思う、世界の平和と安定の促進に貢献すべくこうした議論の機会を持つことは重要であると述べた。2019年は日本にとって、平成が終わりを迎える年である。平成は、日本の国際平和活動への参加が始まり、発展した時代であった。岩井大使は、日本の国際平和活動の経緯と概要を説明した。1988年に当時の竹下首相は、3つの基本方針からなる「国際協力構想」を掲げた。(1)平和のための協力強化、(2)政府開発援助の拡充、(3)国際文化交流の強化である。イラクのクウェート侵攻によって発生した1989年から1991年にかけてのペルシア湾岸危機に際して、クウェートを解放するための連携に日本も加わるよう、国際社会は求めた。しかしながら当時の日本には、そのような活動に参加する準備がなく、自衛隊の海外派遣を可能にする法的な基盤が整っていなかった。そのため、資金面を含む日本の多大な貢献にもかかわらず、国際的な取り組みへの日本の貢献は評価されずにむしろ批判を受ける結果となった。国会および国民間での激しい議論の末、1992年に日本は初めて、自衛隊を国連平和維持活動(PKO)や人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視などに派遣する法的枠組みを採択した。同年には、自衛隊が初めてカンボジアに派遣された。以降、日本は数多くのミッションに1万2500名を超える要員を派遣してきた。その間に国内法は数回改正され、より複雑で政治的な活動にも参加できるようになった。例として、2001年の改正では国連平和維持部隊への参加が可能になり、2015年に成立した国際平和支援法では、国連のみならず国際連携による協力支援活動への参加が可能になった。こうした平和協力に関する政治的意思決定や活動内容をめぐっては激しい議論があるにもかかわらず、日本が平和協力に携わることへの世論の支持は向上しているという調査結果がある。当然ながら、日本が参加したミッションの成果も重要な要素のひとつである。イラクにおける日本のミッション(2004~2006年)では、日本の努力がイラク人と国際社会の両方から高く評価された。しかし、「イスラム国(ISIS)」の侵攻後は、建設されたインフラの大部分が破壊され、イラクにおける民主的国家の建設は失敗したように見える。岩井大使は、紛争影響下にあるすべての国に平和を築くためにできる限りのことを行う義務が国際社会にはあること、平和、安定、開発は社会の中からの変革によってしか達成できないことを強調した。その点において、岩井大使はイラク滞在中に「政治の特別待遇」を実感したと語った。民主的体制が国内において強固にならなければ、国は(ISISのような)攻撃によって簡単に瓦解してしまう。
最後に岩井大使は、日本が国連部隊の訓練に尽力している事例を紹介した。国連部隊の多くは、人員の提供によって貢献しようとする途上国からの派遣要員で構成されている。こうした部隊ではしばしば、装備や訓練が不足していることがある。日本政府は、国連施設部隊早期展開プロジェクト(UN RDEC)の一環として、自衛隊による外国人工兵要員の訓練を行っている。
ヴァン・デル・ヴリエット氏は、主催者と岩井大使に感謝し、彼の来日中に日本のカウンターパートが平和協力について議論する機会を設けてくれたことへの感謝の念を強調し、こうした機会を通じて協力がさらに進むことへの望みを述べた。
ヴァン・デル・ヴリエット氏は初めに、国連の幅広い任務の中における平和協力とは、平和と安全保障、人権、持続可能な開発の3つを柱にしたものであるという枠組みを示した。平和と安全保障の分野においては、平和維持活動(PKO)が最も知られた国連の活動である。現在は14のミッションに軍事要員だけで10万人が派遣されている(警察要員と文民要員は含まない)。国連は独自の軍隊や装備を持っていないため、要員と装備は加盟国から提供される。この点が、国連が独自のスタッフと機器を所有している開発分野の機関と異なる点である。PKOは創設時から大きく変化している。初期のPKOの主なミッションは、交戦国間の兵力引き離しと、休戦期間中の停戦監視であった。長年を経て、PKOのミッションは大きく変わり、はるかに困難な状況に取り組むことになっている。和平合意が破棄されたり、「維持するべき平和が存在しない」状態が生じたりしているのである。マリ共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国でのミッションはその典型例である。これらのミッションでは、当事国政府が非協力的であったり、紛争の当事者であったり、あるいは政府としての機能を有していなかったりする。そのような状況の中で、PKOは大きな転換を迫られてきた。リスクは増大し、国連要員の犠牲者数が劇的に増加している。最近出された報告書「国連平和維持要員の安全性の向上」(通称:クルス報告書)は、国連部隊の安全が確保できていないことを強調し、安全対策の改革を求めた。
続いてヴァン・デル・ヴリエット氏は、オランダの政治状況における平和協力について説明するため、憲法について指摘した。オランダ憲法第100条は、オランダが民主的な国際秩序としての法の支配の促進に携わることを定めている。また、議会と国民の両方が、原則としてPKOを強く支持している。ただし、支持は無条件なわけではなく、ミッションに左右される。政府はミッションごとに、参加の是非を問わなければならない。合意を得るためには、部隊が抱えるリスク、万全の安全対策、負傷者の救護方法などの検討が必要となる。国民にとっては、ミッションが何かを達成しているという認識や、無制限のコミットメントではないという認識が重要と思われる。PKOのミッションはそれ自体が目的ではなく、平和と開発という政治的な目的を達成するための手段なのである。
2018年にはオランダは国連安全保障理事会の非常任理事国を務めた。新規のミッションは設立されなかったものの、PKOから見ると多忙な一年であった。3月にアントニオ・グテーレス国連事務総長がPKOミッションを改善するための戦略を開始した。この改善の鍵となるのは、岩井大使が語った日本の取り組みのような、訓練プログラムを通してより強靭な国連要員を形成するための国際協力の強化にある。特定の技術的能力、重機、情報、最先端の野戦病院などは、世界の比較的少数の国からのみ提供されている。グレーレス氏の計画は、この重要な側面に焦点を当てており、近いうちに閣僚級の国連会合においても議論される予定である。
最後にヴァン・デル・ヴリエット氏は、PKOが急速に変化していることと、PKO要員による性的搾取などいくつかの重要な課題が残っていることを強調して講演を締めくくった。
コメンテーターの青井教授は、PKOに関する日本とオランダの協力の重要性を強調した。例として、日本の自衛隊がイラクに派遣されたときには、オランダ軍が治安維持を担当している地域に駐留した。2005年に出版されたThijs Brocades Zaalberg とArthur Ten Cateの著書『A Gentle Occupation: Dutch Military Operations in Iraq, 2003-2005』には、その詳細が描かれている。青井教授も、PKOが変化し、より困難になっていると語った。
そのうえで岩井大使には、日本では政府がPKOへの高い支持を維持しようと尽力しているが、このようにPKOがより困難で危険なミッションになりつつある中でも、国民からの支持を維持できるのかどうか。また、国民の支持は時代遅れのPKOのイメージに基づいたものであり、合意が脆弱なのではないかと質問した。
ヴァン・デル・ヴリエット氏には、オランダの将来のPKOへの参加について質問した。確かに、オランダは特定の種類の治安維持活動に特化しており、多くの現場に最初に到着し、最初に撤退する。しかし、撤退は特定の作戦においてはますます困難になっている。
岩井大使は、PKOに関する日本の語りは時代遅れのイメージに基づいていることを認めた。しかしながら、危険をともなうPKOへの参加が国際情勢を改善し、日本の地位の向上に貢献すると日本の国民が確信するならば、支持は続くであろう。岩井大使はまた、国民は自衛隊の海外派遣に関してゆっくりではあるが確実に理解を成熟させていると述べた。しかしその一方で、25年間にわたって自衛隊が多様なミッションに派遣された中で、いまだに一発の弾丸も日本の隊員からは発射されていない。もしより困難な環境で将来の派遣が行われるならば、それが維持できるかどうかは試されることになるであろうと述べた。
ヴァン・デル・ヴリエット氏は、青井教授の質問に回答し、オランダ人の要員が悲しくも命を落とすような危険な環境にオランダ部隊が関与することは、深刻な倫理的、政治的問題を引き起こすと述べた。過去にそのような事態が起きた時には、国民の支持は低下した。しかし、国際の安定と平和のためにオランダの貢献が重要であるという感覚は、基本的に強固なままである。ここでの重要なポイントは、政府がリスクを隠すことなく、各ミッションの意義と重要性を議会と国民の両方に説明する明確なコミュニケーション戦略を持つことである。リスクをともなうからこそ、優れた安全対策、訓練、負傷兵救護を実施し、絶えず向上させることが不可欠なのである
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