五大学会議の報告 2013年12月13-14日 於 シンガポール
2013年12月13‐14日、シンガポール国立大学主催の第五回「五大学会議」が開催された。この会議は、プリンストン大学、北京大学、東京大学、高麗大学校、シンガポール国立大学による意見交換の場として年に一度開催される。開始から五周年を迎える今回を含め、これまでの会議は成功裏に終了した。当センターからは、城山英明教授、藤原帰一教授、高原明生教授、飯田敬輔教授、大場三枝教授(東京理科大学)、ロベルト・オルシ特任教員が参加した。
会議では、異なる見解を持つ各国の専門家の間で、非常に活発で率直な意見交換が行われた。特に、協調的な雰囲気で参加者を温かく歓迎していただいた、シンガポール国立大学リー・クワン・ユー公共政策大学院のKishore Mahbubani院長に感謝の意を表する。
今回の会議においては、複数のパネルを通して、北東アジア地域−特に日中、日韓間−における最近の地政学的な緊張により失われた相互信頼の回復の緊急性に焦点が当てられた。東南アジアにおいてASEANが効果的で積極的な貢献を行っているのに対して、北東アジアにおいては、対外交渉のみならず交渉官の間の個人的面識を構築するための制度的枠組みさえ欠如していると言う見解が様々な文脈の中で提示された。
北東、東南アジア地域は、経済的・軍事的超大国としての中国の台頭と、米国とその他の国々によって進められている封じ込め・均衡維持のための対抗戦略により分極化し続けるであろう。東南アジア地域においては、このような分極化は、ASEAN諸国に対する影響力の行使をめぐる米中間の競争の激化を生み出している。これには、Mahbubani 教授が強調したように、ASEAN諸国が多くの注目と投資を集めるという肯定的な影響もあるが、地域内の地政学的な混乱を招くという否定的影響もある。北東アジア地域においては、分極化による大国間の直接的な対立が懸念される。
経済的相互依存と地政学的な対立という矛盾した関係が、幾度となくこの地域の政治を左右する重要な要因となっている。一方では、多くの国の経済が生産チェーンや技術移転、財務フローなどの世界経済(米国の経済と財務システムへの繋がりを含む)に統合されているのに対し、他方では、この活発な相互関係が国家間の政治情勢を改善するためのカンフル剤にはなっていないのが現状である。
このことは、今回の会議で度々話し合われた領土問題と歴史記憶の役割という二つの論点について特に当てはまる。多くの参加者が、国際的な論争となっている国境や領土をめぐる問題に注目した。特に南シナ海における境界画定および各国の南沙諸島に対する領有権の主張、そして中国の尖閣諸島に対する主張に注目が集まった。経済的相互依存と地政学的対立の矛盾が明らかになる一方、特にTPPに言及しながら貿易の新規ネットワークの構築や、東アジアにおける通商圏の二極化の可能性に伴うその政治的解釈についても討論された。 予想通り、北東アジアにおける地政学的な闘争や国家間の対話の欠如の根本的な問題は、歴史記憶の問題、政治家や一般世論の過去の出来事、またその解釈を固持する政治姿勢に由来する。この文化的な背景により、政治分野における安定した討論を行うのは非常に難しく、幾名かの会議出席者によっては、欧州とアジアにおいての歴史的記憶や政治の関係の問題に対する異なった対応の批判的比較が行われた。
最後に、参加した全ての五団体が、第一のサイクルを完了したことに非常に満足し、次のサイクルの会議開催に対しても快諾する意を示した。また、東アジアにおける国際情勢の改善へ向けた期待が表明された。参加者は、このようなイベントが国際的対話を促進し、学識者の意見交換を通じた文化交流を深めるものであると称賛した。
以上