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クレアモントマッケナ大学・ケック国際戦略研究センター/SSU 合同ワークショップ

日時: 2018年3月13日(火)
場所: 東京大学 法学部3号館801会議室
主題: The Decline of Western Liberal Order and Its Impact on East Asia
言語: 英語
共催: クレアモントマッケナ大学・ケック国際戦略研究センター
東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)

2018年3月13日、東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、Claremont Mckenna CollegeのKeck Center for International Strategic Studiesと共催で、“The Decline of the Western Liberal Order and Its Impact on East Asia”と題した研究会を開催した。

第一セッションでは、Minxin Pei氏 (the Tom and Margot Pritzer ’72 Professor of Government and the Director of the Keck Center for International and Strategic Studies at Claremont McKenna College)から、"The Decline of the Liberal Order and the Future of Democracy in East Asia"と題して、リベラルな国際秩序の「衰退」とは何かという点について、経済、安全保障、リベリズムというイデオロギーや価値、そして民主主義諸国の国内制度という四つの側面に注目した、理論的検討が行われた。
また飯田敬輔氏 (東京大学教授)から、“The Decline of the Liberal International Order from the Economic Perspective”と題して、特に経済面に着目した秩序の衰退についての議論が提示された。飯田氏は、アメリカが保護主義に向かっていること、そして「キンドルバーガーの罠」、すなわち貿易戦争がWTOをはじめとした自由貿易体制を崩壊させる可能性に危惧を表明した。

第二セッションでは、Yun-han Chu氏 (国立台湾大学教授)から、“Taiwan: Is Democracy Losing Luster?”と題した報告が行われ、アジア諸国における民主主義の理解に関する調査結果が提示された。多岐にわたる調査結果でも特に論点となったのが、日本、韓国、台湾といったアジアの民主主義諸国では現在の自国の民主的制度への信頼が低いという結果であり、その原因は民主主義という言葉で想起される内容が多様だからではないかとの議論が行われた。また園田茂人氏 (東京大学教授)より、“‘China Threat’ in the Eyes of East Asian Elite University Students”と題して、東アジア諸国の将来を担う学生の中国に対する意識調査の結果が提示され、中国に対する抽象的な意識と具体的な学生の行動の間に乖離がみられることが指摘された。


第三セッションでは、Roderic Ai Camp氏 (the Philip McKenna Professor of the Pacific Rim at Claremont Mckenna College)から、"Latin America: New Democracies in Distress – the Case of Mexico?"と題した報告が行われ、メキシコにおいて、民主的政府が経済や統治で十分なパフォーマンスを発揮できず、特に法の支配を強調して犯罪集団との妥協を放棄したことが治安の急速な悪化を招き、民主主義への信頼が毀損されたことが指摘された。
また、大串和雄氏 (東京大学教授)からは、“Transitional Justice in Latin America: Victims' Needs and Perceptions”と題して、ラテンアメリカ諸国を事例として、民主主義への体制転換に伴う権威主義体制期の人権侵害に関する問題、すなわち「移行期の正義」に関して、国内における和解とその限界、また被害者のニーズを重視する必要性についての報告が行われた。


第四セッションでは、Hilary B. Appel氏 (the Podlich Family Professor of Government and George R. Roberts Fellow at Claremont Mckenna College)から、“Russia and Eastern Europe: Back to the Future?”と題した東ヨーロッパ諸国におけるリベラル・デモクラシーの後退についての報告が行われ、ポーランドとハンガリーという民主化・自由化の先頭を切った国家において、民主的政府が、民主化当初の高い期待と比して十分なパフォーマンスを発揮できていないことへの不満が鬱積していることが、現在の危機の背景にあると指摘された。
また松里公孝氏 (東京大学教授)は、“The Donbass War and Politics in Cities on the Front: Mariupol and Kramatorsk”と題したウクライナ情勢の分析を行い、東ウクライナにおけるマリウポリ及びクラマトルスクという二つの企業城下町で成立した、job-giversとよばれるクライエンテリズムに基づく政治体制が、紛争にいかに対応したのかについての議論が提示された。

第五セッションでは、David C. Kang氏 (Professor of International Relations and Business at the University of Southern California)より、"Korea: Bucking the Trend of Illiberalism?"と題した報告が行われ、韓国は明確にリベラル・デモクラシーであり、民主化・大衆運動が活性化している状況にあるが、その対外政策はアメリカと一致していないことが指摘された。
また藤原帰一氏 (東京大学教授)からは、
“Illiberal Democracies and the Fate of Liberal Internationalism”と題した報告が行われ、現在の危機の淵源は民主主義諸国の非自由主義化にあること、またリベラルな国際秩序はエリート間の合意に支えられたものであって国内的支持は十分ではなかったこと、そしていかに国際的な多元主義を擁護するのかが課題であるとの議論が提示された。

第六セッションでは、Wu Guoguang氏 (Professor of Political Science and History as well as Chair in China & Asia-Pacific Relations at the University of Victoria)から、“China: Hard Authoritarian Rule Gets a Boost”と題した報告が行われ、中国共産党が、イデオロギーや監視の強化をはじめとして、権威主義体制から全体主義体制に移行する兆候を見せていることが指摘された。
また高原明生氏 (東京大学教授)からは、“The ‘Principal Contradiction’ in China: Does the CCP Have a Solution?”と題して習近平体制に関する分析が提示され、改革開放による近代化という「放」と党の領導の強化という「収」の二つの力学のディレンマの中で、現在は習近平体制における権力の集中という「収」のサイクルに入ったこと、またこれが政治決定の遅れや歪みを生み出す危険性が指摘された。