PARI

Read in English

SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー:
Giulio Pugliese 先生

日時: 2018年7月11日(水)10:30 - 12:00
場所: 国際学術総合研究棟4F SMBCアカデミアホール
講演: Sino-Japanese Power Politics: Might, Money and Minds
Giulio Pugliese, Lecturer, War Studies at King’s College London
言語: 英語
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット/
GraSPPリサーチセミナー
概要: In recent years, China’s rapid emergence as a central actor in world politics has coincided with a more assertive and risk-taking foreign and security policy. Under Xi Jinping, especially, Beijing’s push to secure hotly contested territorial and maritime claims has ruffled the feathers of several regional states. The Japan-China standoff over the disputed Senkaku/Diaoyu Islands has unveiled the antagonistic quality to contemporary Sino-Japanese relations, with important additions to standard balancing behavior: economic statecraft and, notably, active engagement with government-led strategic communications. Under the Xi and Abe administrations, China and Japan have insisted on their moral position as benign and peaceful powers, and portrayed their neighbour as an aggressive revisionist. These strategic narratives, conveyed internationally and domestically, have cemented the two states's rivalry.
Dr. Giulio Pugliese will give an account of Japan-China power politics in the military, economic and propaganda domains. His assessment of the diplomatic, economic and identity clash between the world’s second and third wealthiest states will provide a window in understanding the international politics in the early 21st Century. In particular, by highlighting great power rivalry, he offers his empirical findings in favour of the power politics behind Sino-Japanese identity construction. This talk will be multi-disciplinary in spirit and will speak to both academics and to members of the public who might be curious of understanding this fascinating —if worrisome— facet of Sino-Japanese relations.

参考資料 book1

講師プロフィール: Dr. Giulio Pugliese is Lecturer in War Studies at King’s College London. He holds a Laurea (B.A.) in Political Science and East Asian Studies from the University of Naples, “L’Orientale” (cum laude), an M.A. in International Economics and International Relations (concentrating on East Asian Studies) from the Paul H. Nitze School of Advanced International Studies, Johns Hopkins University, and a PhD from the University of Cambridge. He specialises in the politics, both domestic and international, of the Asia-Pacific with a focus on Japan, China and the United States. In addition, he has worked in Japan for four years, including at the Mitsubishi Research Institute writing on arms export regulations for a study commissioned by Japan’s Ministry of Economics Trade and Industry (METI). He is a recipient of a three year post-doctoral fellowship by the British Academy.

「日中権力政治:軍事、経済、情報」

政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)はこのたび、ロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部(Department of War Studies:DWS)から、ジュリオ・プリエセ氏をお迎えして講演会を開催した。本講演は、プリエセ氏の新著Giulio Pugliese and Aurelio Insisa, Sino-Japanese Power Politics: Might, Money, and Minds(Palgrave Macmillan, 2017)に基づくものである。

開会に際して、SSUメンバーである高原明生公共政策大学院長は、東アジア国際政治の分野における若く非常に優れた研究者であり、多くの聴衆を魅了する講演者としてプリエセ氏を紹介した。    

プリエセ氏は、リアリストの観点に立脚して、多様な視点から幅広く日本と中国の関係を分析する講演を行った。

尖閣諸島をめぐる危機の結果は、日本と中国の関係が、国家関係を権力政治ゲームとして理解するリアリズムの特性を顕著に示すことを明らかにした。権力政治ゲームは、軍事と安全保障の分野に限定されない。中国の能力強化と国際社会に対する独断的(あるいは攻撃的)な姿勢の結果として、このゲームは経済と情報およびプロパガンダの分野にも拡大している。日本もまた、これらの分野で過去数年にわたってイニシアティブを示してきた。日本政府は、対外経済活動を安全保障の観点に沿って行う一方で、日本にとって好ましい外交的・政治的環境を整えるために外交やその他の手段を活用している。言い換えれば、経済政策も外交政策も安全保障化している。中国の軍事的および経済的な台頭によってもたらされた新たな勢力図の中で、意図的か否かにかかわらず、日本は“社会主義化”している。

プリエセ氏は、“might(軍事的な力と態度)”、“money(経済力)”、“minds(プロパガンダと情報戦)”という3つの側面からの分析を行った。プリエセ氏は、これら3分野には基本的なゼロサム・ゲームが存在すると主張している。この観点は、彼の共著で採用された、構造的リアリズムを精緻化した新古典的リアリズムの理論枠組みに表れている。中国は、経済的および軍事的な成長によって、国際社会における独断的な行動を強めている。その一方で、第二期ジョージ・W・ブッシュ政権以降のアメリカは、中国との衝突を避けるようになっている。特に、外洋海軍力を増強する中国の動きは、日本が脅威を認識するきっかけとなり、対策が行われている。

こうした状況の一方で、対外政策の結果が必ずしも日常的な展開に反映されるわけではない。多様な国内要因、とりわけ指導者の役割によって対立が緩和されるためである。日本と中国の場合、ドナルド・トランプ米大統領の登場によって世界情勢が大きく変化している中、アジアの変化における安倍晋三首相と習近平大統領の役割は非常に重要な役割を担っている。習政権は前政権よりもリスクをとる傾向にあり、それは特定の国際的経験が不足していることに起因している。習大統領自身が海軍力の強化に関心があり、中国の海洋権を主張している。一方で安倍首相は、日本の近代において最も長期の政権になりつつあり、強い指導力は強固な安全保障政策をともなう必要があることを証明している。安倍首相が安全保障分野に最も力を注いできたことは、彼の安全保障アドバイザーに卓越した役割が付与されていることに反映されている。安倍首相は、中国が強さを重んじていることを理解している。また、安全保障問題の管理のために中央集権化を進めたり、臨時の諮問機関を設置したり、官僚機構に対する管理を強化したりするなど、安倍首相と習大統領の行動には重要な類似性がみられる。

Might(軍事)について、2013年以降に中国の海警局が発足して軍事化したことは注目に値する。海警局は現在、中央軍事委員会の指揮下に置かれている。中国の軍事支出が2桁増やされる中で、海警局が保有する軍艦の数と規模、および運搬できる武器が増強された。一方の日本は、軍事支出の増加が限られる中で中国と勢力を均衡させるために、オーストラリアやインドを含む幅広い地域の国々との軍事協力を拡大している。このイニシアティブは、「自由で開かれたインド太平洋戦略」として打ち出されている。この概念がAlfred Mahanによる海洋戦略などの地政学者の影響を受けていることは注目すべきである。インド太平洋戦略は、日本政府によって提唱されたのち、アメリカによって採用され、日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4か国協力に発展した。

Money(経済)について、地政学的な目的を達成するために経済手段を活用することに対しては、日本も中国も積極的になっている。冷戦終結後の1990年代、民主化の進展と市場経済のグローバル統合は必然であるという考えが西欧と日本の陣営において支配的であり、それは中国にも当てはまると考えられていた。この信念のために、1989年に学生の抗議が武力鎮圧された際にも中国への国際的な圧力は限定的であり、WTOへの加盟も認められた。しかしながら中国は民主化しなかった。今日、中国はアジアの経済的なリーダーになっているが、ユーラシアや太平洋の諸国に対して中国が「アメとムチ」を利用するという経済的非対称性が起きている状況が見受けられる。中国が推進する一帯一路構想はこうした文脈で理解されるべきである。一方の日本は、TPPに参加し、地域諸国が中国への依存を低下させる経済ブロックを構築することで対応している。日本は、自国の戦略的利益にかなうプロジェクトや地域をJICAの対象に選定することで、連携と能力強化にODAを活用している。また、南シナ海の複数の国に、船、装備、訓練を提供することで沿岸警備隊の整備を支援している。

Minds(情報)について、情報戦やプロパガンダに関しては、より組織的なアプローチが行われている。なお、プリエセ氏は、「プロパガンダ」という用語を、「情報の受け手の行動や行動停止を意図して行われる一連の活動と技術」という中立的な意味で使った。プロパガンダの例としては、1990年代に日本政府がソフト・パワー大国「クール・ジャパン」という日本のイメージを海外に広めたことが挙げられる。近年では、高まる中国の脅威に対する意識を高めようとするメッセージを、国内外の両方の聴衆に対して広めようとするプロパガンダが行われている。日本は法の統治に基づく国際体制の重要性を主張している。他方の中国は、日本がアジアにおける修正主義の大国である、つまり、第二次世界大戦の結果としてもたらされた地政学的な安定を変えようと意図し、地域の平和にとって脅威になる存在である、というイメージを示そうとしている。

最後にプリエセ氏は、日中関係の最新の展開について言及した。現在、日中双方が検討に値する策略を持っている。安倍首相は中国の一帯一路構想への協力に極めて限定的ながら関心があることを表明した。他方の中国は、悪化する米中関係に対処する傍らで、日本政府に対する姿勢を和らげている。しかしながら、日本と中国の真の緊張緩和は、いまだ見られていない。