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SSUフォーラム / GraSPPリサーチセミナー:
Sheila Smith上級研究員(米国外交問題評議会

 
日時: 2019年2月14日(水)10:30-12:00
場所: 東京大学国際学術総合研究棟4F SMBCアカデミアホール
主題: トランプ時代におけるアメリカの同盟の運命
言語: 英語
報告者: Sheila Smith上級研究員(米国外交問題評議会)
言語: 英語
定員: 80名
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
東京大学公共政策大学院GraSPPリサーチセミナー
概要: Two years into the presidency of Donald J. Trump, U.S. foreign policy has undergone significant changes. Reversals on international agreements have left allies unsure of the durability of U.S. commitments. The Trump administration has often made foreign policy on impulse, whether unexpectedly agreeing to a meeting with Kim Jong-un, or pulling troops out of Syria. In Asia and globally, U.S. allies are in a difficult position, and it is possible the U.S. alliance system will emerge from the Trump era transformed.

トランプ時代におけるアメリカの同盟の運命

東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、この度公共政策大学院(GraSPP)と共催で米国外交問題評議会シニア・フェローのシーラ・スミス氏をお迎えしてお話を頂いた。

講演の内容は、トランプ政権下における米国の同盟がどのように変質しているかというテーマについてであり、とりわけ氏の専門とする地域でもある東アジアに力点を置いた解説を頂いた。 司会を務めたのは、SSUのユニット長でありセンター長でもある藤原帰一教授である。冒頭の挨拶で、司会は本学になじみ深いシーラ・スミス氏をまたお迎えするのは大変喜ばしいと述べ、2016年に行われた米大統領選挙の後にも氏が講演を本フォーラムで行ったことを振り返りつつ、感謝を述べた。また司会は、スミス氏の専門分野は安全保障にかかわる日本政治外交であり、非常に優れた業績を発表していることに触れた。

講演に当たり、スミス氏はまず主催者と聴衆に感謝を述べ、当時の講演の時の国際状況を振り返った。2016年11月当時は、トランプ氏が大統領選に当選したばかりで、米国社会はただただ驚きに打たれている状況であり、世界中も同じような状況にあったと述べた。おそらく日本も米国社会と同様かそれ以上の驚愕にみまわれたのであり、その当時からいままでに果たして何が変化し、何が起きたのかを振り返っておくことは有用であろうとした。

米国社会は2016年時点よりも分断を深めている。それを反映してか中間選挙で分割政府が生まれ、議会と大統領府が厳しく対立する状況が生まれている。外交政策は、それによって難しい局面を迎えていることは言うまでもない。

つづいて、スミス氏は、トランプ政権の外交政策における評価を試みた。選挙戦中から表明していた通り、トランプ大統領は貿易問題に最大の関心を有している。TPP離脱を政権のはじめの100日以内に実現させ、WTOと対立し、弱体化させている。これは公約をそのまま実行に移したのだと言えるだろう。カナダやメキシコに圧力をかけてNAFTAを見直したが、指導者個人に対する攻撃的言辞を厭わず、プロセスを混乱させたという問題がある一方で、当初の目的を果たしており、国内においてもその結果には満足している実務者は多いだろうとした。トランプ政権の通商政策は、いくつか重要な果実を生んでいることは確かである。トランプの個人的リーダーシップに頼り、歴史的に前代未聞なやり方を駆使しているという点を仮に脇においたとしても、長期的にはこのトランプ政権のやり方や施策は同盟を傷つける結果を生むであろうとした。

例えば、韓国や日本は対米貿易において圧力をかけられる立場にいる。日本は二国間交渉を拒んできたが、先般交渉開始を合意させられる羽目になった。確かにトランプ大統領と安倍総理との関係は良好だ。しかし、であるからといってトランプ大統領が同盟国を含めて世界中の国との貿易関係を根本から見直そうとしている今、日本がトランプ流の戦法と交渉術から免れることができるとは思わない、とスミス氏は述べた。

傍らで、米中貿易戦争が華々しく展開されている。しかし、この交渉もどのような結果に落ち着くのかは不透明だ。トランプ氏は多国間協調や多国間交渉を否定する傾向にあり、その結果米国が世界中に張り巡らしてきた同盟のネットワークは、細分化し弱体化しつつある、と氏は警鐘を鳴らす。

スミス氏によれば、日本の世論はこの同盟が直面する問題に関して、三つの要素を注意深く見ていくべきである。第一はNATOと米国の同盟関係の今後の動向である。これは、NATO諸国が東アジア諸国の先を行っており、そこで起きたことがそのまま東アジアで繰り返される可能性が高いと氏が考えるからである。第二に、トランプ大統領の言辞(レトリック)と彼が実際にできること、やるであろうこととの間の乖離である。つまり、言えば何でも実現するわけではないということだ。第三に、トランプ大統領の言動によって、米国のイメージがどのように変容しているかであり、それによってかつて信頼を享けていた同盟観が揺らぎつつあるという視点である。

まず、トランプ政権のNATO政策は良く言っても問題の多いものである。欧州の同盟諸国、とりわけフランスやドイツの防衛支出が少なすぎるといった問題は、実はトランプ政権より前から提起されている問題であるが、トランプ政権によってその論点が同盟の信頼性と紐づけられるようになってしまったのだ。

歴代米国大統領は、NATO諸国に対し、北大西洋条約の第5条、すなわち米国による防衛義務が適用されるという確約をほぼ機械的に確認してきた。しかし、トランプ政権に入ってからというもの、この5条適用の有無が論点化してしまい、そのような米国による安全保障が他の政治的取引や貿易摩擦問題とイシューリンケージされてしまった。NATO諸国に関しては、とりわけこの点が露骨に出ており、おそらくそのようなトランプ大統領の方針に同意しえないという理由から、ティラーソン国務長官とマティス国防長官の辞任に至ったのではないか、とした。

欧州の同盟諸国は防衛支出を増やそうと努力はしているが、国内的には抵抗も強い。日本に関しては、米国は取り立てて防衛支出の特定の水準を要求してこなかったが、NATO諸国がGDP比で2%水準を要求されている以上、そのような具体的な基準が課せられる可能性は捨てきれない、とした。

次に、スミス氏はトランプ大統領が個人的な交渉やイニシアチブに重点を置き、特異な政治過程を採用する傾向にあることを指摘した。その原因は、大統領自身が関係省庁や担当部局の考えを重視していないことにあり、その典型が金正恩委員長との直接会談、シリアからの撤退の決断などに表れているとした。

トランプ大統領とプーチン大統領との個人的関係は、目下モラー特別検察官の捜査対象であり、とりわけトランプ大統領が米露首脳会談の内容を秘匿しようとするために、同盟国は疑心暗鬼になっているとした。こうしたスタイルが結果的にはトランプ政権の掲げる目標の達成をも阻むことになるのではないか、とスミス氏は述べた。

最後に、スミス氏はピュー・リサーチ・センターの行った世論調査をいくつか紹介し、トランプ政権になってから対米認識がダメージを受け、米国の影響力がそがれてきている証拠であるとして説明した。

スミス氏は、それでも世界において米国が積極的な役割を果たすことを支持する意見が米国世論において高まっているとする世論調査を引用し、米国民の孤立主義的傾向はむしろ薄まっているとした。2020年には米大統領選が控えている。必然的に、2019年は選挙の思惑が絡んで、内政も外交も大変な難局を抱えることになるであろう、という展望を述べて、スミス氏は講演を締めくくった。