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SSUフォーラム / GraSPPリサーチセミナー:
David Sanger氏(ニューヨーク・タイムズ ワシントン主任特派員)

 
日時: 2019年3月19日(火)16:00-17:30
場所: 東京大学国際学術総合研究棟4F SMBCアカデミアホール
主題: 完全な武器:サイバー時代の戦争・サボタージュ・恐怖
言語: 英語
報告者: David Sanger氏(ニューヨーク・タイムズ ワシントン主任特派員)
言語: 英語
定員: 80名
主催: 東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
東京大学公共政策大学院GraSPPリサーチセミナー
概要: The Perfect Weapon: War, Sabotage and Fear in the Cyber Age is the startling inside story of how the rise of cyber weapons transformed geopolitics like nothing since the invention of the atomic bomb. Cheap to acquire, easy to deny, and usable for a variety of malicious purposes—from crippling infrastructure to sowing discord and doubt—cyber is now the weapon of choice for democracies, dictators, and terrorists. Two presidents—Bush and Obama—drew first blood with Operation Olympic Games, which used malicious code to blow up Iran’s nuclear centrifuges, and yet America proved remarkably unprepared when its own weapons were stolen from its arsenal and, during President Trump’s first year, turned back on the US and its allies. The government was often paralyzed, unable to threaten the use of cyber weapons because America was so vulnerable to crippling attacks on its own networks of banks, utilities, and government agencies. Moving from the White House Situation Room to the dens of Chinese government hackers to the boardrooms of Silicon Valley, New York Times national security correspondent David Sanger—who broke the story of Olympic Games in his previous book—reveals a world coming face-to-face with the perils of technological revolution. The Perfect Weapon is the dramatic story of how great and small powers alike slipped into a new era of constant sabotage, misinformation, and fear, in which everyone is a target.

完全な武器:サイバー時代の戦争・サボタージュ・恐怖

政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、ピューリツァー賞受賞ジャーナリスト・作家である、ニューヨーク・タイムズのワシントン主任特派員デビッド・サンガー氏を招き、サイバーセキュリティに関する講演会を主催しました。

司会を務めた国際政治学者の東京大学法学政治学研究科小原雅博教授は、国家安全保障を分析する現代アメリカのジャーナリストの中で卓越した人物として、サンガー氏を紹介しました。

サンガー氏は主催者と聴衆に感謝を述べてから、講演を始めました。彼は本講演の主題と同名の著書を昨年出版しており、4月には日本語訳の出版を予定しています。同書は、サイバーセキュリティを地政学の観点から描き出すものです。近年、サイバーセキュリティの技術的な側面に関しては、数多くの分析が行われています。しかし、こうした分析では、ロシア、中国、北朝鮮、イランなどによって行われる日常的な小競り合いや低強度のサイバー紛争対して、アメリカとその同盟国がどのように対処してきたかという分析を欠いています。

サンガー氏は、核兵器が地政学的情勢と紛争のあり方をどう変えるかを知識人や実務家が説明しようと尽力していた1950年代の核戦略の初期段階と、現在のサイバーセキュリティの状況を比較しました。しかしながら、これら2つの事例の類似点はあまり多くありません。核戦略はごく少数のプレイヤーによって担われ、アメリカから見れば、主な敵対相手はソ連のみでした。アメリカの政策担当者は、戦争によって何が起きるか、どの方向から攻撃が来るかを予測できました。

サイバーセキュリティではすべてが異なります。サイバー攻撃はほとんどの兵器に比べて安価でありながら、大きな損害を引き起こすことができます。そのため、小国が実行することもできます。サイバー攻撃は目に見えない方法で行われるため、その発信元を突き止めることが困難です。これまでのところ、数多くのサイバー攻撃が行われ、なかには劇的な結果をもたらした攻撃があったにもかかわらず、サイバー攻撃が軍事衝突を招いた事例はありません。

さらにサンガー氏は、航空機との比較を示しました。航空機が1900年代初頭に導入された時期には、主に軍の偵察に使うことが想定されていました。戦闘用に使われるようになるのは、第一次世界大戦が始まってからでした。しかも、この新技術は第一次世界大戦中には戦略的に大きな影響力を持ちませんでした。その後、ほんの20~30年の間に、航空戦は軍事作戦の重要な中核となり、核弾頭が登場したためにその輸送手段としてさらに飛躍的に重要になりました。現在のサイバーは、第一次世界大戦期の航空機に類似した段階にあるといえるでしょう。兵器ではあるけれども、戦略的な影響力をまだ持っていません。ですが、近い将来には持つことになるでしょう。

12年前まで、アメリカ政府が制作する「Worldwide Threat Assessment(世界の脅威に関する年次報告書)」は、サイバー攻撃についてまったく言及していませんでした。存在は認識されていたものの、その脅威評価は困難でした。近年では、iPhoneのようなユビキタス・モバイル・コンピューター・デバイスの普及と相まって、状況は劇的に変化しています。同一人物の操作によって、ウイルスはどのようなネットワーク環境にでも素早く拡散できるようになっています。何十億ものIOTデバイスは、今後数年で何百億に増加すると予測され、サイバー攻撃は脅威評価の最上位に来ることになったのです。

近年起きている別の変化もあります。主要なサイバーセキュリティのリスクが一種の“サイバー上の真珠湾攻撃”として概念化されたと同時に、国家のすべての主要インフラが常時リスクにさらされていると認識されました。ここでのポイントは、「常時」という点にあります。私たちはこのような状況にどう対処できるでしょうか。サンガー氏は、サイバー上の解決と政治的解決を同時に行うことで問題を緩和できると考えています。しかし、解決できるとは考えていません。なによりも、抑止の新しい概念を検討することが必要です。サイバーが、非常に多様な方法で、多様な目的を達成するために使われることに鑑みると、その概念はわかりにくいものになるでしょう。

こうした考えをもとにして、サンガー氏はサイバーが軍事目的に使われる4つの方法を示しました。スパイ活動、データ操作、破壊活動、政治目的の達成です。そして彼はいくつかの事例を示しました。例えば、イランの核関連施設を標的としたスタックスネット・ウイルスや、北朝鮮によるソニー・ピクチャーズへの攻撃が挙げられます。特に後者は、アメリカの油断、民間セクターの脆弱性、そしてそのような攻撃にどう対処するかという明確な政策の不在を露見させました。政治目的の達成に関しては、2016年のアメリカ大統領選挙に対するロシアの干渉と、数多くのフェイク・ニュースの拡散、および世論操作が、ここ数年で最も悪質な事例として挙げられます。

サンガー氏は、この傾向は将来的に悪化するという予測を強調しました。そのような操作を制限するために、「サイバーのためのジュネーヴ条約」のような形式の国際規制を制定することはできるでしょうか。望ましいけれども、実現は非常に難しいとサンガー氏は考えています。基準や原則に関する宣言を出すことは有効でしょう。しかしながら、軍隊とその他の安全機構が、この強力で安価な武器を安易に放棄することを望んでいないため、アメリカでさえもそのような規制の制定に関心を持っていません。サイバーは、はるかに高額でリスクの高い従来の兵器に代わって、作戦上のオプションとしてかなり多くの機会に利用されるかもしれません。

サンガー氏は、彼の著書がサイバーセキュリティに関する国際的なしくみづくりに貢献することに期待すると述べて、講演を締めくくりました。