対談:地域金融のビジョン

西武信用金庫 理事長 落合寛司氏
東京大学政策ビジョン研究センター センター長、工学系研究科 教授 坂田一郎

1. 相互扶助の協同組織をつくる
2. 資本家の論理を超えて
3. 個人をカバーするプラットフォーム

2015/1/23

2014年6月10日、超高齢化社会を成熟社会と捉え意欲的な取り組みを続けている、西武信用金庫の落合寛司理事長と政策ビジョン研究センターの坂田一郎センター長との対談を行いました。地域金融だからこそ可能な相互扶助の仕組み、新しい資本主義のあり方、個人の活動をカバーするプラットフォーム等、これからの社会を考察する論点が多岐にわたって展開された対談内容を、3回の連載でお届けします。(末尾に目次あり)

1. 相互扶助の協同組織をつくる

超高齢化社会への再設計

坂田 現在大多数の地域金融機関は、預貸率が下がってきています。新しい地域金融の役割を見出していかないといけないのですが、そのときに、チャンスを見出す切り口が、超高齢化社会ではないかと思っております。政策ビジョン研究センターでは発足当初から、超高齢化社会を最も重要なテーマとして掲げてまいりました。1970年代であれば、人口層が一番多い30代から40代を標準に社会を設計するのは当然のことかと思いますが、これからは年齢構成も変わったので、標準となる年齢を上げて、社会を再設計し直すことになります。これが私どもの打ち出した「高齢者標準」の考え方1です。

落合 私たちは年齢による定年をなくしました。去年は70歳ぐらいの人を中途採用もしています。新人は2万人ぐらいの応募の中から100人ほど採用するのですが、今までの業務の延長では育たなかった人材は中途採用で外から採っているんです。年齢で判定する生産労働人口の定義を変えていかないといけないと思っています。

坂田 最大のテーマは雇用、定年、もしくは、年金の問題だと思います。西武信金さんは特別な存在ではないかと思うのですが、ほかの金融機関でもそういう試みをされているところはあるんでしょうか。

落合 まだ私の知る範囲内ではないですが、これから出てくると思います。私たちの場合、総合コンサルタント機能も持つ課題解決型の金融を目指していますから、実はある程度、年齢が高い方がプラスの効果があるのです。それから、高齢化社会になってくると、個人差が大きくなります。年齢という定義は、極端に言えばその人の能力とは全く関係ないですよね。年齢は1つの目安ではあるけれども、それをもって定年を決めるというのは、私どもの成果主義の給与体系に合わないのです。

坂田 2つあると思います。1つは、今おっしゃったような個人差の問題。もう1つは身体的な状況変化の問題です。この10年、20年、同じ年齢での身体的な状況はかなり良くなっていますので、我々もそれをよく認識をするべきじゃないかというふうに思っております。先ほどの高齢者標準は、今の65歳は、昔の65歳とは違うということも含めた考え方です。

私どもも産業界と一緒になって提言をしておりますが、高齢者標準を実現するための超高齢化社会の基本法を政府はつくるべきじゃないかと思っています。それによって、国全体がいろんな形で変わっていけば、高齢者の雇用の問題も解決しやすくなると思います。

実はこの4月に復興庁が、新しい東北というビジョンの中で、東北の5つの姿を出しました。子どもの成長、超高齢化、エネルギー、レジリアンス、地域振興の5つです。2番目の高齢化につきましては、高齢者標準による超高齢化社会の課題を解決しようということになっていおり、今年の骨太方針にもそのまま掲載されると思います。

落合理事長

利用者保護の金融機関

落合 西武信用金庫の特徴は、協同組織金融機関であることです。金融機関は大きく分けて、協同組織と株式会社に分かれています。協同組織の金融機関の中心理念は、利用者保護なんです。株式会社の銀行というのは利益追求ですから、投資家を保護するわけです。

経済が発展している時代は、投資家保護でどんどんお金を集めて、強者を育てていく試みが金融としては重要な役割を果たしていました。しかし成熟社会では、利用者保護になっていく必要があります。今や、利用者の中で一番大きな比重を占めているのは高齢者だと思うんですね。世界の経済の主役が先進国から新興国に代わり、この大きなイノベーションの中で、先進国とか日本は高齢化社会を迎えている。成熟社会の中の金融のあり方を根本的に考える必要があります。

成熟社会の中では当然資金需要は減るんですね。では資金需要はなくなるのかといったら実は結構あるんです。ただお金を貸すということから、利用者保護の原点に立った体制、つまり企業、まち、個人をそれぞれ守る体制が、実は成熟社会には非常に有効になってきているんですね。

私たちは、地域には街づくり支援、個人には資産管理あるいは資産形成支援、事業者には事業支援という3つの大きな柱を打ち出しております。東京大学をはじめ千の専門支援機関と提携しており、中小企業診断士など3万を超える人たちがいますが、こうした専門能力を活用しながら課題を解決していこうとしています。

地域力の2つの柱

今後は、税収不足によって中央集権体制から地方分権体制にならざるを得なくなると思います。各地域が独自に自主運営すると自動的に格差ができますが、このときに私たちの地域が負け組になっていったら、私たちのお客様も不幸だし、結果的に私たちも不幸になると思うんです。ですから、地域力を高めるための街づくり支援をしています。

地域力として私は2つの柱を揚げています。1つは経済力です。地域の事業者をどんどん育成して経済活動を活発にしていく。それで税収も増えて、皆さんが安定した生活ができるようになります。もう1つは環境力です。地域の経済力をバックアップするものに環境力がありますが、この環境力の主役はNPOだと思うのですね。高齢者の生活支援や育児支援を行うソフト面では、NPOを育てなきゃいけないと思います。私たちは杉並区で家賃を安くしてNPOのインキュベーション施設をつくっていますし、固定金利で0.1%のNPO専用ローンもあります。実は、このローンにはコンサルタントがついているんです。NPOの特徴を見ていると、社会性と目的意識はすごく強いんですが、持続的に発展させたり、継続させていくための組織を運営する力が弱いので、ここにコンサルタントをつけてサポートしているんです。

落合理事長

リノベーションした施設の活用

坂田 自治体とはどういうご関係なのでしょうか。

落合 自治体とは、街づくり支援の連携を組んでいます。たとえば羽村市。政策の実行部隊である金融機関とか大学、あるいは専門のコンサルタントが政策実行のための研究会をやるんです。そこで出た反省点等を来年度の政策に生かしてくこともやっています。

建物の耐用年数も検討しています。今、経産省や国交省でも見直していますし、環境省でも違った意味で検討していますが、日本の木造建築物の耐用年数は25年なんですね。でも、京都や奈良に行くと、木造で千年、二千年の神社仏閣がいっぱいあるわけです。耐用年数を25年にしたために、10年以上経つと建物の価値がなくなる。ですから、建ててから15年程度でも壊して新しく家を建てないと、住宅ローンが借りられなくなってしまう。でも、これをたとえば150年にすると、実は10年、20年では、まだ充分価値が発生してくるのです。

2050年になると、1.2人の若者が1人の高齢者を支えるような、大変高い税負担を負うようになる。そして、今、若い人の所得がどんどん減っているわけですね。私たちの頃は4,000万、5,000万の住宅ローンも借りられたんですが、きっと今の人たちは、2,000万円ぐらいしか借りられなくなると予想しています。そのときに、リノベーションしたマンションを活用するんです。たとえば、外側を見れば新品で、中側を見ればホテルみたいな内装の建物で、建築後すでに70年ほど経っているんだけど全然強度には問題ないような建物が2,000万とかで買えるんです。このように中古住宅の流通が拡大すると、若い人たちが自分のライフスタイルに応じて、また高齢者もどんどん自分のライフスタイルで、建物の住み替えができるようになります。

今までは、古い建物を売っちゃうと、次の家が買えなかったんですが、古い建物の方が価値あるとなると、いくらでもそういうことができるようになるんですね。自治体の財政が少子高齢化で厳しくなっていますが、施設をリノベーションして、まだ当分使えるとなると、インフラ整備の税金を少なくし、生活支援の方に充てることもできるわけです。このように、今の社会の課題になっているものをどんどん解決することが、真の課題解決なんですよ。

坂田 また、そこに新しいビジネスと付加価値がある。

落合 当然出てきます。学生に室内のデザインしてもらうと、結構いろんなものが出てくるんです。内装なんて、100万、200万かけると、ホテルみたいなきれいな内装になるわけですね。

リバース・モーゲージみたいなこともやっています。年金が減って、寿命が延びていくと、自分のお金だけで対応できないんじゃないか。そうすると、自分たちの財産を切り崩して生活している人々の援助をしていく必要が生じます。リバース・モーゲージや財産信託の活用をしながら資産管理の支援をしていく必要性が高まっています。

特に相続税が非常に高くなり、その課税対象が広がりましたから、その対策を取ってないと、実は将来の自分の生活の糧まで失っちゃう可能性があるわけですね、そういうことにならないための、相続税対策支援も実施しています。

2030年になると、日本の建物の30%が空き家になると予想しています。その時、もう700とか800の街がつぶれていく。これほどどんどん少子高齢化していく地域の中で、少なくとも我々の地域だけはそうならないようにしようという活動を一生懸命やっているわけです。

2. 資本家の論理を超えて

地域の役割、再定義を

坂田 私は荒川区の教育委員とか、顧問をやっているのですが、荒川区でも、グロス・アラカワ・ハピネスという指標をつくりまして、そのうちの1つが経済力、残りは今おっしゃったような広い意味の環境力です。環境力の中に、子育て力だとか、高齢者が健康でアクティブに過ごせるとかいうような力、それから教育力とかいろんなものが入っているのですが、それを指標化して、市民にアンケート調査をしました。今年は2000人の区民から回答をいただきまして、45項目もあるものですから、どれぐらい回答してくれるか、かなり心配だったのですが、回答率が50%だったんです。

落合 選挙の投票率より高いですね(笑)。

坂田 高いんです。そういう意味で、環境力改善のための区の取り組みに対しては、非常に期待が高いと私は認識しています。一方で自治体も、次から次へと仕事が増えていくという状況で、あらゆることが自治体の仕事になってきています。もうこのままでは、自治体の経営はサステナブルではない。そうしたときに、やはり金融機関とかNPOとかと組んで役割をシェアしていくことが必須ではないかと思います。

たとえば私の地元でもシルバー人材センターがあるのですが、名前を変えたらいいのではないかと思っています。実際には、もっとお願いできることの幅は広いはずですし、名前も変えて、従来の役割を超えたことにも参画していただくということが必要じゃないかと思っています。従来の地方自治体と、民や金融機関の役割とか、境目のあることについて何らかの制度的制約があるのであれば、それを直していくようなことが重要だと思います。自治体の仕事のウエイトが非常に大きいので、それをどう動かして、どう補完的に組むかというような設計がやはり全体としては非常に重要ではないかと。

荒川区では、学校に関しましては、すでに高齢者の方にかなり入ってもらっていまして、学校運営の協議会もありますし、子どもの自然観察に高齢者の方が来たりしています。地域の役割を再定義して、特に自治体という公や民、金融機関の役割を変更していく。もしくは協力をしやすい制度とかルール構築をするのが重要ではないかと思っています。

インタビュー光景1

落合 本当にそうですね。この成熟社会の中では、利用者保護の金融機関がきちんと役割を認識して、体制をとっていかないと地域がだめになる。地域を良くしなければならないのは、区長さんも、私たちも全く同じで、地域がだめになると、私たちは生き残っていけないんです。これが株式会社だったら、儲かるところに支店をどんどん変えれば良いのですが、地域金融機関は地域を限定していますから、儲からなくてもここから動けないわけです。だから、自分たちが地域を育てたり、地域の魅力を高めないといけないわけです。

そこで、NPOを育成するための定期預金を設けているのですが、この定期預金は金利が少し高いのです。高い分を預金者に寄付していただくと、その同額を当金庫は寄付します。それで何百億と定期預金を集めたのですが、その利息の部分を各NPOに寄付しています。そして寄付金がどのように使われたかレポートを作って、預金者一人一人に手渡しで説明しているんです。そういうものに寄付してくれる定期預金を組んだ人は、意識がそこにあると思いますので、参加を呼びかけます。

坂田 参加予備軍ですね。

落合 はい。手がかかるのですけれども、きれいな結構厚いレポートをつくって、持って行って説明しています。そのうちに、どのNPOに一番参加したいというような話になるのです。社会性の強い活動をさらに強化するために、お金やノウハウは提供できるけど、マンパワーが足りません。私たち職員が出てもいいのですが、昼間は仕事していますから、いかに皆様に参加していただくかが大切です。

「つなぐ」ということの需要

坂田 先ほどの話の裏返しなのですが、自治体や団体のほうも高齢者にお願いする範囲に固定観念があるわけですが、高齢者の方も、自分の活動内容や範囲に固定観念があると思いますので、両側から広げていかないと新しい社会になりませんね。

落合 身近にあることを知っていただくことです。「参加しませんか」というとあまりにも見え見えですから、「実は寄付したお金はこうなっています」と言って、活動報告書を持って行って説明します。そうすると、自分たちの経験やノウハウを活用できるNPOがあったり、あるいは自分の趣味の中で、もう少し研究しながら一緒にやりたいことがあったりすると、その中に参加するのです。

健康管理には働いていることが結構よくて、やりがいを持って仕事を持っていたりすると、健康のプラスになる場合が多い。これは無駄な医療費の削減にもなるんですね。実は70ぐらいまで働くと年金がいらなくなるのです。今、金融機関の預金の多くは、余った年金です。高齢者たちが自分の代で年金を使わなかったら、自分が亡くなったときに、相続税を半額にして優遇して、次の代にそのまま送れるようにすると、実は年金の資金不足の解決になるんです。

そういうことが日本の課題にも役立つのです。今日も成長戦略の中に少子化対策が盛り込まれましたが、明日からみんな子どもを産んでも、これから20年間ずっと産業労働人口の減少は進んでいくわけです。この時代を次の時代にどう引き継ぐか。若い人たちが、地域インフラを含めた街づくりとか、社会の課題へつないでいかなくてはいけない。この「つなぐ」ということが、きっと結構大切だと思います。

坂田 社会活動の一つとして市民後見についていうと、人材を育成して組織で対応するというコンセプトが重要だと思っています。基本的には大事なサービスはやはり組織化し、安全性も担保して、かつ従業員が休めるような組織をつくって対応する形に持っていかないと、量的・質的な担保は難しいと思います。

坂田教授

たとえば、認知症もしくは認知症になる恐れのある方については、見守りが必要になりますが、実際はその情報が連携できていない。病院や、あるいは介護認定されれば厚労省には情報はありますが、実は自治体には基本的に情報がないんです。去年、行方不明になった認知症高齢者が1万人以上いるということだそうですが、警察は自治体に情報を開示しなくなってきています。以前は開示していたものも開示しなくなっている。本当は情報があるのに、実は必要なところ、典型的には自治体が把握できない。これも政策ビジョン研究センターの課題でありますけれども、個人情報保護の中で、それを乗り越える形で情報の横連携を検討することも非常に大きい課題です。その上で、必要なケアを役割分担して供給していくようなことが必要かなと思います。

荒川区では新聞配達の方に、新聞がたまっているときには、あらかじめ警察に連絡した上で、玄関先に踏み込んでもいい、住居侵入とはしないという協定をつくりました。しかし、本来は情報連携ができていれば、もっと効果的にできるのではないかと思います。そういう意味で、市民後見や後見以外のサポートが必要になるわけです。

落合 日本の個人情報保護というのはちょっと行き過ぎていると思います。有益な情報は開示してあげないと、その人の生活を逆に悪化させるんです。連携のあり方とか、情報開示の範囲はやはりきちんと検討しないといけないと思います。今は時代が変わって高齢化社会となり、一人でお住まいの高齢者も多数いる状況ですから、社会の仕組みも変えていかないといけないでしょう。

坂田 そうですね。単身世帯化と都市の高齢化、それから1度も結婚されたことのない方の比率がどんどん上がっていますので、それに応じた連携対策、組み合わせ措置があると思っています。

公益資本主義という考え方

坂田 日経新聞の経済教室に載ってましたけれども、ハーバード・ビジネス・スクールの研究員で私どものセンターの客員研究者でもあった、デビッド・ジェームズ・ブルナーさんは公益資本主義という考え方2を提唱しています。西武信金はそれに非常に近いと私は思うんです。

落合 近いですね。

坂田 公益資本主義では、資本家の論理だけではない組織設計を取り上げているのですが、これからはそういうものを、日本でもアメリカでも考えていかないといけないというのが、彼の主張でした。

落合 信用金庫は協同組織で、相互扶助に代表されますように利用者保護が重要となります。投資家はいなくて、地域も決められていますから、公益資本主義の企業体のあり方に結構近いんですね。高度成長していた時代と成熟社会とで企業のあり方は変わってきていますが、私たちとしては、これから私たちの出番が来ると思って、いろいろな制度改革をしています。

坂田 公益資本主義は、1つの重要な考え方だと思いますが、政策ビジョン研究センターで、そうした新しい組織のあり方について提案をしていくのも大切だと思っております。

落合 国民の意識や地域住民の意識が大きく変わって、社会貢献度の高いことをやることで、株価が上がるならそれも可能なのですが、利益が上がらなきゃ株価は上がらないということですと、やはり利益重視になってくるんですね。企業価値を利益では見ないで、社会貢献度のようなもので見るべきだと私は思います。でも、上場している株式会社ですと、世界的な評価はやはり利益中心になっていて、配当も株価もそれにより決まります。彼らの役割は、やはり1つには経済力なのだと思いますが、私たちはどちらかというと社会性の強い企業、一般に私はNPOと言ってますが、そういった役割をしていこうと思っています。そういう面では、公益性の高い金融機関だと思います。

小さな石の役割

坂田 大企業の流れはもちろんありますが、その中の隙間を埋めるものとして公益資本主義があるんじゃないかと私は理解しました。

落合理事長

落合 石垣は大きな石の間に小さな石があって強くなるんだけども、この小さい石は、小さいけど結構重要な役割をしているわけですね。社会の変化の中で、企業のあり方も、そういうものが重要になってきていると思っています。そういう意味ではどんどん社会性を高めていきたいですね。

「でも、なんでそんなに利益が上がってるんですか」と、よく言われるんです。実は金利は安いので、利益が上がるとは思わなかったんですが、お客様の課題を解決していったら、不良債権がすごく減ったんです。企業が潰れてなくなることが減ったために、利益が上がったのです。利用者に負担をかけて利益が上がったのではなく、利用者を守っていたら、自然に利益が上がったんです。

よく調べてみたら、平成3年から平成15年の間に350ぐらいの金融機関がなくなったんですが、全部、不良債権でなくなったんです。だから、お客さんを守るということは、結果的には金融機関の経営の安定につながることなんです。貯まったお金は留保し、環境力を高めるNPOに損を覚悟の融資をして育成するとか、社会への還元、利益の還元をしていこうと思います。

坂田 地域や関係企業、個人との価値競争とも言えるかもしれませんね。課題を解決することによって価値が生まれますから。共同でつくられる価値と言ってもいいですね。

落合 私たちは金融のブティックになろうと考えました。ブティックはデパートよりも小さいけど、そこにノウハウや相談対応などが付いてきて、利用者の課題を解決させることで利益につながるようになる。「大にはできないが、小にはできるものはこれだ」ということで、非効率なものに付加価値を高めて効率化する展開をしています。これが、実は課題解決になっていますね。

3. 個人をカバーするプラットフォーム

付加価値を高めることが、地域を疲弊させないこと

坂田 多くの金融機関が、バブルとバブル崩壊の過程を通じて、逆の方向に行ってしまったんじゃないかと思います。みんなメガバンクとあんまり変わらなくなっていった。そうすると、メガバンクのほうが金利も安いし、スケールメリットで金融商品も多いので、小規模な銀行が成り立たなくなるのは当たり前であって、そこで淘汰されてしまった。

落合 私たちは年間に4500件ぐらいの売り手先を紹介するビジネスマッチングをやったり、企業再生をやったり、専門家を千何百人も送ってるんです。こういうことがお客さんにメリットとなって、「あそこと取引すると潰れないぞ」ってなると、実は価格だけじゃなくなる。そうやって付加価値を高めることが、地域を疲弊させないことにつながり、そのことが自分たちの経営も安定させるんです。

社会の中で必要性、存続価値を認めてもらうには、やはり地域の課題を解決させるようなものじゃないといけない。今はモノが余っている時代ですから、やはり必要性があるものしか生き残れない。そういう面では、本当の企業の真価が問われる時代になったんだろうなと思います。

坂田教授

坂田 政策ビジョン研究センターは、前総長の小宮山宏先生のイニシアチィブでできたのですが、小宮山先生が提唱されている課題解決先進国は、実はそれ以前は課題先進国だったんですね。私もいろいろ調べる機会もあって、課題先進国よりは課題解決先進国だ、ということになりました。このセンターも、日本が課題解決先進国にどうやったらなれるかを考えてつくられています。

落合 課題のキーワードはやはり高齢化です。私が成熟社会と言っているのは、実は高齢化のことなんです。経済がどんどん成長、発展していくならば、今みたいなまどろっこしいことはいらないのですが、高齢化になって税収は少なくなり、税金を使う人は増えてくるのに、税金を払う若者はどんどん減ってくという、この社会を私は成熟社会と言っています。

坂田 このままでは私は、自治体が破たんすると思っています。財政的にも破たんしますけども、役割が大きくなりすぎて破たんするんじゃないかというように思うんです。先ほどのNPOとか地域金融とか、それから個人の方の活躍がないと支えきれないのではないかと。

落合 ほんとはね、ボランティアなんですよ。でも、やはり決められた活動を安定的・継続的に行うには、NPOのような組織力で個人をカバーできるようにしないといけないと思います。私たちが少しずつ変えながら、その起爆剤をつくっていけば、と思っているんですが。

坂田 日本も、もうあまり残された時間がありませんね。

落合 ないですよ。もうないです。ほんとは焦っているんです。実は私たちだけが生き残っても、ネットワークがなくなると、金融機関じゃなくなりますので、実はもっと広げたいんです。日本の各地域が、そこを意識しないといけないんだろうなと思っています。是非いろんな面でアドバイスいただければと思います。

組織力が必要な市民後見

落合 地域で市民後見をと言っても、後見人って基本的に1人であり、ある面でボランティアなんですよ。だけど、活動の継続性や品質の維持などを考えると、NPOなどといった組織力でちゃんとまとめなきゃいけない。私たち職員が、市民後見人として土曜日などに出て活動できればいいんですけど、実を言うと、私たちは利害関係があるから活動には限界があるんです。でも、OBは地域にいっぱいいまして、今、OB会をどんどん強化してるんですよ。OBは金融のことは知ってるし、お客さんを大事にするということも、お客さんとのコミュニケーションの仕方も知ってるし、なによりこの地域がどうなっているかということを全部知っています。なので、このOBを今後より積極的に活用していこうと考えています。

ただ市民後見の課題としては、地域の誰に後見人が必要かっていう情報の開示がないことなんです。行政に行ったって、個人情報だからということで情報を開示してもらえないわけです。後見制度をこれから運用するためには、そういった障壁を取り除いていかないといけません。制度はできて、市民後見人もある程度養成されたんだけども、支援対象者が見つからないということではいけません。

坂田 本当に必要な人から順番に支援することができればいいわけですが、なかなかそういうふうにはならないですね。

落合理事長

落合 私たちは、金融以外の業務は基本的にやってはいけないことになってるんです。他業禁止なので、その既存の枠組みの中でなんとか支援の活動ができないものかと模索しております。

坂田 他のサービス業だと自分たちでできますよね。

落合 そうですね。私どもは、実は見守りに近いことも行っています。たとえば、このお客さんは大体月に1回まわるっていうのをリスト化してあるんですよ。でも、お客さんの見守りをしようとすると、業務が違うからダメだって言われるんです。でも、そんなに杓子定規にやらなくても、これで儲けるわけじゃないんですから、もう少し規制は改革した方がいいように思います。

私たちは信託の業務も行っていまして、信託の管理として、利用者の遺言だとか財産の承継まで行っております。そういうときに、いつ亡くなるとか病気になるとか、どういうニーズが変わったとかということを知るために、利用者の定期訪問をするんです。その際に、利用者の健康状態とか認知度とかを見るために、見守りなどを行いたいと言っても、それは金融ではなくて、金融に関連してる関連業務だからダメだって言われるんですよ。

坂田 そういう見守りは資源であり、私たちにとって非常に貴重なものだと思いますけどね。

落合 見守って、気が付いたら連絡するという形のボランティア活動は行われているようです。でも私は、そんな大事な生命の維持や財産の管理などは、ボランティアでは機能しにくいと思ってるんです。定期的に訪問して、チェック機能をもってちゃんと見守るということが前提にあるならいいけど、ただ行って見て、急迫した状況だったら一報を入れるというのでは、不十分ではないでしょうか。

坂田 個人での活動やボランティアも悪くはないんですが、やはり支え方や責任の面で限界がありますよね。被災地でも、やはり重要なのは組織型でして、そのためにいろんなプラットホームをつくっています。投資のプラットホームの立ち上げも行っているんですが、そうしないと、従来の個人のボランティアに入る人たちがどんどん出ていってしまい、徐々に力が低下してしまうんです。企業の個人ボランティアで派遣するには、やはり限界がありますね。プラットホームをつくって組織化して、その中でまわすようにしないと長く続かないんです。

インタビュー光景2

市民後見活用に向けた制度整備を

落合 市民後見養成講座の修了生も登録制にしてもらうといいと思います。そろそろ、活用に向けた制度整備をしていく必要があるでしょうね。この動きを、私たちが実際に社会で使えるようにしようとしたときに、東大だけじゃなく、全国にそういう講座を展開していくことも重要になるでしょうね。地方から来られた方も、関東圏以外でもできるような体制整備を広げていく必要があるのかなと思っています。

坂田 登録制という場合には、自分の家族を受任したい方よりも、一般の市民を受任したいという方のほうが重要になると思います。当センターの市民後見研究実証プロジェクト3では、現在、年間400人ほど受講生を受け入れていますが、定員の関係でお断りせざるを得ない方も少なからずいます。今後はフォローアップ研修をより活用していく予定です。これまでの修了生の方々に、さらに上を目指していただきたいということで開催したところ、募集から3日でほぼ定員に達してしまいました。知識をちゃんと保持したいとか、まだ不十分だけど今後しっかり活動していきたいというニーズがあるのだろうと思われます。

落合 こんなに集まる講座ってないですよね。修了生も1人だけで活動するのは難しいんでしょうね。せっかく勉強しても活用しないと知識も劣化するし、いろんなノウハウもなくなっていく。

坂田 定員の関係で、受講できない方もかなりいらっしゃいます。さっき理事長がおっしゃったように、東大だけではやはり限界があるように思います。もう1つ、私どもが取り組もうと思っていることにテキスト作りがあります。他でも普及できるようにする基盤として、テキストは重要だと思います。テキストがないと、他で1から教えるといっても、なかなか無理がありますので。

落合 東京にはそういう講師がいっぱいいるけど、地方の大学には必ずしもいるとは限らないですよね。また、説明の内容が大学によって違ったんじゃ、品質の統一が図れない。私たちも間違いなく高齢者になっていきますからね。もう予備軍かそろそろ半分ぐらい足を突っ込んでますよね。ぜひ、少しでも役に立てるように、さまざまな面で進めていけたらと思っています。

(写真/構成: 山野泰子 特任専門職員)

参考リンク

  1. 最終提言:「シルバーニューディール」でアクティブ・エイジング社会を目指す
  2. 公益資本主義の確立に向けて(第16回 PARI政策研究会 開催報告)
  3. 東京大学政策ビジョン研究センター市民後見研究実証プロジェクト