エネルギー政策の潮流③
こちらは「自動車技術」Vol67 No11(2013年11月)に掲載された同名記事を加筆・修正したものです。
3ページに分けて掲載します。
エネルギー政策の潮流① (1. 概観 2. 「シェール革命」)
エネルギー政策の潮流② (3. ゲームチャンジャー 4. 3つのE 5. 省エネ)
エネルギー政策の潮流③ (6. グローバルなエネルギーガバナンス 7. エネルギー技術の役割 8. 将来への課題)
2014/2/7
5. 省エネ
省エネは3つのEのいずれにも有効な対策であり、重要性について異論はないものの、従来停滞してきた政策分野である。しかしながら、米国の新法や中国の新5か年計画、EUにおいても新しい指令が出されるなど、最近になって画期的立法等がなされており、ようやく弾みがついてきつつある。IEAの分析によれば、省エネ分野には大きな改善余地があり、特にビルや発電、運輸部門を重点的に進めるべきである(資料12参照)。省エネを進めるうえで最も有効な指標が価格シグナルであるが、このためにもエネルギー市場の透明性を確保し維持していくことは重要である。
6. グローバルなエネルギーガバナンス
第一次石油危機後IEAが設立された時点では、IEA加盟国が世界のエネルギー消費に占める割合はほぼ60%であった。この比率がほぼ半分の30%に下がってしまうといわれている。IEAの政策の有効性も持つ重みも、IEAがこれら新興国とどのような関係を築くことができるかにかかっている。
米国の対外依存度が減少し、中国とイラクに代表されるアジアと中東とのエネルギーを通じた緊密な関係ができてくるときに、新しい時代のエネルギーのガバナンスをどう考えるのか、時代に対応した新たな何らかのグローバルな枠組みが必要なのではないかとの問題意識が台頭している。エネルギー分野の主要なプレーヤーが一定の目的にコミットし、定期的に情報交換、議論を行うことで、統計やデータ等の基礎的な情報から政策のベストプラクティス等を共有し、政策の透明性や安定性を確保できるのではないか、そのようなことが特にアジア地域において求められているのではないかとの考えからである。当面は、ASEAN+3や東アジアサミット(EAS)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の既存の対話の枠組みを活用しつつ、IEAも巻き込んで対話を継続する関係を中国、インド、ブラジル等中南米と築く必要がある。この既存の枠組みの有効性をチェックしながら、新たな枠組みの可能性についても検討をしていく必要がある。
7. エネルギー技術の役割
エネルギー政策当局者は3つのEを巡るトリレンマに直面しているが、中長期的に問題の解決のカギを握るのは技術である。例えばクリーンエネルギー技術進歩を見てみると、IEAは多くの技術分野で必ずしも十分な進展がみられないとの評価している。先行きが比較的明るいのは再生可能エネルギー、運輸面での省エネで、期待される進歩を実現するためには、追加的対応が不可欠としている。個別に見ると、再生可能エネルギーでは、特に、太陽光で技術進展やコスト削減が進んでいる。また、風力、水力やバイオマスも進んでいるもののもともとのベースが低いので比率としては依然小さい。運輸部門では、一部の国では立法措置等も行われ、これらの国ではCO2排出は下がっているが、多くの国では未だ燃費基準がないのが現実である。
8.将来への課題
最後に、このエネルギー技術とも関連するが、エネルギー政策の新しいフロンティアと課題について述べたい。情報処理やICTに関する技術の急速な発達、情報ネットワークインフラの整備、また、携帯端末等情報機器の急速な普及は、インターネット等を通じて世界を隅々まで一つに結びつける機能を果たすこととなった。家電等様々な製品の「スマート化」により、生活が便利になり生産活動等が効率化しただけでなく、消費者・ユーザーがより能動的に動くことが一層容易になったし、このような環境自身が能動的な消費者・ユーザーを育てているという側面もある。このような技術進歩により消費者・需要家が容易にエネルギーを管理することが可能となり、エネルギー利用の効率化を地域的に拡大していこうという試みが進んでいる。「スマートコミュニティ」である。すなわち、情報処理ネットワークと蓄電池等の開発や再生可能エネルギー技術等の進歩といったエネルギー技術におけるイノベーションが、価格等で作り出されたインセンティブを前提として、環境面及びコスト面で「意識の高い」消費者を生み出し、このことが従来のような大規模大容量発電ネットワークからより地域に密着した分権的な電力システムをも現実的なものにしつつあるのである。
日本においては特に今後少子高齢化により人口が減少し、特に地方においてこの傾向は著しいものと予測されている。人口の多くの割合を占めることになる高齢者が安心して健康に暮らせ、住みやすい環境を作っていくことが必要な所以であるが、同時に、財政等の制約条件の下で、今後エネルギー等のインフラをどのように維持、更新していくのかも問われている。これまでのように、ともすれば供給サイドの視点に立って、必要なエネルギー等のインフラを建設していくことは現実的ではないとも考えられる。このため、日本としても従来以上に公平で透明な市場環境を整備し、新しい時代環境に即応した強靭で活力ある産業及び新しいビジネスモデルを構築していく産業界の努力を後押しするような制度・システム作りを進めていく必要があるのではないだろうか。このためには、技術的には多くのことが可能となってきているとしても、法律や予算措置等政策や制度面の対応、ビジネス慣行、広範囲にみられる「タテ割り」など多くが今後の課題として残されてもいる。むしろ今後は、経済界や大学等とともに、政府においては、上記のようなエネルギー需給の変化やエネルギーインフラ情報ネットワーク技術の進歩等を的確に踏まえて、経済・産業の競争力を如何に伸ばしていけるのかを大胆に示していくことが求められている。基準作りが燃費効率改善の最大のきっかけであり、ベストプラクティスを非OECD諸国とも共有し実施することが重要である。それではどういう政策が必要かについてであるが、単に技術開発を充実すればいいとか、これとは逆に、例えばCO2に価格をつければ市場メカニズムで必要な技術開発はあとからついてくるといったような単純な議論ではなく、政策を組み合わせることが必要である。ある技術を採用するためには、様々な障害があることが多く、その適切な解決のためには、市場だけに頼るのではなく、市場の特性も勘案した政策が必要である。また、技術の成熟度によっても政策は異なる。例えば、技術の発展段階が低ければ、研究開発助成が必要であるし、市場における展開の段階では、例えば太陽光などに見られるように安定的で技術に即したインセンティブ(例えばFIT)が必要となる。すなわち、市場における競争力を補完するような政策である。さらに既存技術とのコストの差が小さくなると、グリーン認証等が有効になる。最後に、より技術が成熟してくると、省エネのように基準づくり等が有効である。このように絶えず政策枠組を進化させ続けねばならない。
エネルギー政策の潮流 記事一覧(芳川恒志 特任教授)
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