プロジェクト概要
基本方針
現在のグローバルなイノベーション競争には、国際標準化などのオープン領域と、ブラックボックス化やプロプラエタリーな知財権利行使などのクローズ領域の使い分けを行い、保有する知的資産を最大限活用する知的財産マネジメントを日本や先進国、さらには新興国で展開していくための戦略が必須となります。本研究では、(1)NEDOプロジェクト事例の中から、企業の知的資産マネジメントの具体的実践の在り方を探ることを基本としつつ、(2)新興国等における知財・標準・イノベーション戦略の在り方、(3)これらと整合するナショナルイノベーションシステムの在り方や、産業界・国家プロジェクトなど個別企業以上のレベルとしての知的資産マネジメントの在り方について研究し、その成果の普及啓発を進める。これにより今後の日本産業がグローバルな競争力を獲得するうえで重要で、かつ、研究が未成熟な領域をも対象とした研究を深耕し、NEDOプロジェクトの技術経営力の一層の高度化に寄与すると共に、日本産業全体の戦略構築に貢献することを目的とします。
この目的を達成するため、経営、経済、法律に通じたなどの専門分野およびアカデミアと、科学技術開発やマネジメント実務の経験の豊富な専門家などのチームからなる学際的研究グループを組織して、3年間で以下の項目の研究を行なって成果を得ることを目指しています。
- 企業の知的資産マネジメントの具体的実践についての研究
- 新興国等における知財・標準・イノベーションに関する研究
- ナショナルイノベーションシステムとしての知的資産マネジメントの普及啓発と実践、および政策提言の体制構築
本プログラムは独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「NEDOプロジェクトを核とした人材育成、産学連携等の総合的展開」に係る公募に応募して採択されたものです。
プロジェクト紹介
本研究講座の提案は、2007年10月〜2011年9月まで4年間設置されていた「東京大学知的資産経営総括プロジェクト」および政策ビジョン研究センターで実施してきた「新興国におけるイノベーション・技術標準と知的財産戦略研究会」の枠組みを参考に、経済産業省及びNEDOの研究開発に係る知財マネジメントの在り方を研究し発信するプロジェクトとして発展させたものです。
これら土台になった研究成果としては、以下が挙げられます。
- 欧米企業が取り組んできた国際標準等のオープンな領域における知的資産 を生かすための戦略やマネジメントが、日本の企業の取り組みと大きく異なる事実を分析し、わが国企が優れた技術を有していてもそれを生かせていない原因を明らかにしたこと
- 欧米企業がオープンイノベーション環境においてアジア諸国との分業を巧みに活用することによって、イノベーションの普及を促進していることなどを明らかにしたこと。
- 産学連携や大学知財のマネジメントのイノベーション視点から見た実証分析
- 中小企業とベンチャーの知財マネジメント、さらには研究開発コンソシアム、パテントプールの知財マネジメントの分析研究
- 新興国におけるイノベーション戦略、知財戦略、標準戦略の構造と政策動向を踏まえた日本産業の新興国戦略のあり方
こうした研究が投げかけた、わが国の知的資産経営の課題は、多くの企業や政府関係機関の関心を呼び、エレクトロニクス業界を中心に日本の産業の企業の技術経営や知的財産戦略、さらには政府の技術、産業政策技術における中核的問題意識となったと言ってもよいでしょう。
このように大きな成果が得られた東京大学における寄付講座および研究会での研究成果ですが、未だ掘り下げられていない課題が残されています。つまり、従来の研究成果によって、我が国企業や大学、政府の知的資産経営戦略や知財マネジメントの課題を明らかにすることはできたが、具体的にそれぞれの組織がどのような取り組みを行えば良いのか、その実践については未だ十分な整理がされておらず、日本全体としてどのような政策が求められているのかを示すことができていないという点です。さらに最近では日本企業のイノベーションが、従来日本で行われてきたのに対して、新興国などで実施される状況をも踏まえなくてはならないですが、この点についても実践方法を明らかにしていく必要があります。さらにこれらの問題は業界や分野が違えば、異なってくるため、様々な分野における分析的研究も必要となります。東京大学の寄付講座及び研究会における研究対象としては、従来主に製造業を中心に取り上げてきましたが、ものを作って販売することに関係したサービスビジネス分野における知的資産経営の実態を明らかにしていく研究も必要であると思われます。特に新興国に進出する日本企業が、製造業としてだけでなく、様々なサービスの対価を収益源としていくようなモデルをどのように構築していくのかについて、より深い分析的研究が求められているといえます。
本研究はこれらの課題を踏まえ、従来の研究成果を日本のイノベーション戦略とその実践に落とし込むための研究を行い、同時にその成果の深く広い啓発にもつなげていくことを目指して行われます。
本プロジェクトの参加メンバーは、東京大学の複数部局の異なる専門領域の研究者に、実務家等を研究員に招いて構成されています。