リスクカフェ
第1回 放射線の健康リスク 専門家フォーラム報告

東京大学政策ビジョン研究センター 社会的合意形成支援研究ユニット

日時:平成26年6月1日(土) 13時〜17時
場所:東京大学農学部キャンパス 弥生講堂アネックス セイホクギャラリー

平成25年度に実施した19名の専門家の方々へのインタビューで得られた知見をもとに論点を整理し、インタビューに応じていただいた専門家の中から、次の5名の方々にご出席いただき、共通の質問に答えていただく形で議論を進めました(自由闊達な議論のため非公開で実施しました)。

  • 明石真言氏:放射線医学総合研究所
  • 今中哲二氏:京都大学原子炉実験所
  • 甲斐倫明氏:大分県立看護大学環境保健学
  • 木田光一氏:福島県医師会
  • 小佐古敏壮氏:東京大学大学院原子力工学系

このフォーラムでは、以下の3点を議論の方針とし、線量に伴う被ばく線量に関する科学的根拠と今後の保健対策の2つのセッションで活発な議論が行われました。

  1. 福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線の健康リスクに関連して、何が科学的に確定できている事実であり、何が確定し得ていない事柄であるのかをできるだけ明確に区別する
  2. 確定し得る事実については、放射線防護をめぐる政策面で、その事実をもとにして、今後どのような修正や新たな対応が求められるかを検討する
  3. 現時点では確定し得ない事柄については、いかに合理的で社会的に納得のいくリスクマネジメントにつなげるかを考える

セッション1 100mSv、20mSv、線量評価

専門家への質問

  1. 100mSv以下の被ばく線量の影響の捉え方について(低線量域の被ばく線量と健康影響の現れ方との対応関係)について
  2. 20mSvによる線引きの妥当性・受け止め方について(ICRP、LNT仮説に依拠した現存被ばく状況での参考レベル設定の問題)
  3. 福島原発事故での被ばく線量推定の確からしさと主たる疾患(主に甲状腺障害)との因果関係について

議論の概要
100mSv未満の影響についての根拠は原爆被爆者の疫学研究であろうということで見解は一致しましたが、被爆者の研究を含め疫学研究結果の解釈や評価については見解がわかれています。しかし、100mSvにしても20mSvにしても、その値で安全と危険の線引ができるものではない、という点は共通していました。

セッション2 保健対策

専門家への質問

  1. 福島原発事故に関連した住民の健康管理(保健対策)と疫学調査について

議論の概要
国が福島県に一任している体制の問題が指摘され、被ばく線量の推定があいまいなまま病気の調査が行われることへの懸念が示されました。残念ながら、具体的な解決策の議論に至らなかったため、次回フォーラムの課題とすることにしました。

議論の要約

第1回フォーラム実施概要/議論のとりまとめ
参加者名簿、実施プログラム、議論された論点、専門家の間で交わされた議論の内容の要約を掲げました。

討論内容一覧表
第1回フォーラムでの議論を、各項目あるいは質問ごとにパネリストの意見を比較できるように、事務局で発言を抽出して表化しました。質問は、横長の横断的枠として記してあります。表中の発言は各パネリストの確認を得たものですが、討論の中で抽出された部分的なものであることにご留意ください。

フォーラムで用いた資料

  1. セッション1およびセッション2の質問および背景
    図解「1mSv、20mSv、100mSvにかかわる諸問題:放射線専門家の役割は?」(原発事故後の状況・背景等の図式化を試みたもの)
  2. 各専門家の見解
    1. 基本的見解(1)
      各パネリストへの事前インタビューから事務局が抽出し、ご本人に確認いただいたものです。
    2. 基本的見解(2)
      フォーラム開始にあたって、各パネリストより口頭で基本的見解を表明していただきました。(1)と重なる方もいれば、別の形で表明された方もあったため、(2)として別途掲示することとしました。
  3. セッション1の論点提示スライド(事務局:上田昌文)
  4. セッション2の論点提示スライド
     配布資料①   配布資料② (事務局:吉田由布子)
  5. 線量水準に関連した考え方(政府資料を紹介)
  6. 木田光一氏のプレゼン資料 木田氏には、セッション2冒頭で、医師の立場から見た現状の保健対策の問題点を提示していただきました。以下のサイトの公表資料を参照してください。
    http://dl.med.or.jp/dl-med/jma/nichii/jmari_sympo/jmari25_k02.pdf

その他参考資料

各パネリストからフォーラムに向けて提示いただいた参考資料
各パネリストには、「基本的見解(1)」を補足する資料を参考に挙げていただき、当日配布しました。ここでは引用元の記載にとどめます。

【明石真言氏】
「東電福島第一原発事故対応における放医研の活動、役割、今後の展望」
『MOOK医療科学』No.6「放射線災害と医療Ⅱ」pp29-40、放射線事故医療研究会編、医療科学社 2013年2月

【今中哲二氏】
「放射能汚染への向き合い方−どこまでの被曝をガマンするか—」
農村計画学雑誌Vol.32, No.4,pp449−451、農村計画学会、2014年3月

【甲斐倫明氏】
「低線量・低線量率のリスク推定のための理論とデータ」
放射線生物研究47(4)、pp379−393、放射線生物研究会、2012年(12月)

【木田光一氏】
「福島原発災害後の被災者の健康支援の現状と課題」
平成25年度「日本医師会総合政策研究機構・日本学術会議共催シンポジウム」講演記録より

【小佐古敏荘氏】
「通常と緊急時の間をどう考えるか—一番重要なのは防護の最適化」
原子力文化 2012年2月号、pp3−10、日本原子力文化振興財団、2014年2月

<用語解説>
用語解説
フォーラムの議論を理解するための用語について解説したものです。