科学の不確実性とリスクを考える

リスクカフェ

東京大学政策ビジョン研究センター 社会的合意形成支援研究ユニット

東日本大震災に福島第一原子力発電所の事故。 日本の科学技術は何がどこまで分かっていたのか? なぜ、同じ領域の専門家の意見が大きく異なっているのか?
このサイトは、原子力施設の地震・津波リスクや放射線の健康リスクについて、様々な専門家に協力していただき、3.11以降、私たち市民が抱き続けている疑問にできるだけ答えながら、不確実性やリスクについて考えていただくために作成しました。

このプロジェクトは、平成23年度にフィージビリティ・スタディとして採択され、24年度より本格実施しました。本Webサイトでは、次の研究を通じて得られた情報を掲載しています。文部科学省 国家課題対応型研究開発推進事業 原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 「原子力施設の地震・津波リスクに関する専門家と市民のための熟議の社会実験研究」(平成24〜26年度)

目的

本研究では、文部科学省の平成年度国家基幹研究開発推進事業「原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」にフィージビリティスタディとして採択された『市民参加による熟慮型地震リスク分析の社会実験研究』の成果を踏まえ、地震・津波リスクに関する専門家間の熟議の場として共同事実確認を行い、科学的不確実性の所在と程度、科学的判断と価値判断の区別を明確にする。放射性物質による健康リスクは、現時点ではなく数十年後に、因果関係ではなく疫学調査による統計的事実として科学的知見が得られるという点で、地震・津波リスクとは異なる不確実性を有している。このため、地震・津波リスクの場合と比較する意味で、放射性物質の健康リスクに関する共同事実確認を行い、専門家間の熟議や市民の判断の特徴を明らかにする。以上の結果をまとめ、科学的不確実性下での熟慮型リスク分析の手法を提案する。さらに、専門家間の熟議の過程で得られた情報を提供し、科学的不確実性を踏まえて、市民がリスクを考え、対処するためのリスク情報プラットフォームを構築することを通して、福島県の原子力事故被災地域の復興に貢献する。

背景

東京電力福島第一原子力発電所の事故では、事故原因と言われている津波リスクの評価およびその基礎となる地震リスクの評価に対して、地震・津波に関する専門家だけでなく原子力業界からも様々な批判がある。また、事故によって放出された放射性物質による健康影響について、専門家や専門機関から様々な見解が発表され、社会的混乱を招いている。これらの問題の背後には、科学的知見の不足やその不確実性が大きい領域にもかかわらず、「地震国日本において原子力施設の安全性をいかにどこまで確保するのか」「放射性物質の健康影響を管理するための基準はどのレベルに決めるのか」といった社会的意思決定が求められていることがある。科学的不確実性下での意思決定は、科学技術社会のリスク・ガバナンスには不可欠であり、解決策に向けた具体的な取り組みと提案が求められている。

活動報告

平成26年度

26年度は、地震・津波リスクに関する専門家フォーラムを2回開催し、リスクや専門家の役割をどう考えるかを議論しました。放射線の健康リスクに関する専門家フォーラムも開催し、見解が異なると思われていた専門家間に共通の認識や考えがあることを確認できました。さらに、立地自治体関係者を加えたフォーラム(地震・津波、放射線とも各1回実施)では、専門家と市民との議論の場の有用性・重要性が示されました。26年度の成果報告書は3年間の活動をまとめたもので、専門家や市民が科学技術の不確実性を巡って議論するための仕組みづくりを提案しました。
平成26年度成果報告書 全文(2.38MB)

平成25年度

「原子力施設の地震・津波リスクに関する専門家間の熟議の場」(地震・津波リスクに関する専門家フォーラム)を3回開催しました。また、放射線の健康リスクに関わる専門家19名へのインタビュー調査を行い、専門家フォーラムの設計を検討しました。
平成25年度成果報告書 全文(1.8MB)

平成24年度

23年度の研究結果を踏まえて、原子力施設の地震・津波リスクに関する専門家間の熟議の場をどのように設計するかについて検討しました。放射線の健康リスク問題について、福島第一原子力発電所の事故後の様々な専門家の発言を整理するとともに、文献調査を行い、専門家へのヒアリング計画を策定しました。また、市民と専門家、専門家間の認識の違いを把握するため、地震・津波と放射線に関する意識調査を行いました。
平成24年度成果報告書 要約版(744KB) 全文(6.6MB)
地震・津波および放射線に関する市民と専門家への調査結果報告
コラム:違うと見るか、同じと見るか — 市民と専門家への調査結果から —

平成23年度

フィージビリティスタディとして採択され、原子力安全委員会耐震指針検討分科会(2001年〜2006年)の速記録の内容分析を行うとともに、地質学、地形学、地震学、地震工学、原子炉工学の各分野の専門家計18名へのインタビュー調査を行って、専門家間の意見の違いを整理しました。また、共同事実確認について米国から専門家を招き、国際シンポジウムを開催し、手法の有用性と留意点について議論しました。
平成23年度成果報告書 要約版(216KB) 全文(748KB)
国際シンポジウム「共同事実確認方式による原子力発電所の地震原子力発電所の地震リスク分析の可能性」 開催報告

専門家フォーラム

地震・津波リスク

原子力施設の地震・津波リスクに関わる様々な分野の専門家が分野を超えて議論する場です。
各回の議論の詳細については、地震・津波リスク 専門家フォーラム報告 をご覧ください。

放射線の健康リスク

福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線の健康リスクに関連して、様々な見解と見識を持つ幾人かの専門家が集い、議論する場です。
各回の議論の詳細については、放射線の健康リスク 専門家フォーラム報告 をご覧ください。

研究体制

このプロジェクトは、以下の体制で行いました(26年度)