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日韓対話:中国の台頭、米中関係、東アジアの安全保障について

日時: 2013年11月8日(金)-9日(土)
場所: ホテルフォーレスト本郷

セッション1:「米中関係に対する日本と韓国の見方」

司会:

飯田敬輔教授

Photo: yamashita kayo

2013年11月8日、ホテルフォーレスト本郷において行われたセッション1では、飯田敬輔教授の司会により、地域的・世界的観点から捉えた米中関係について日韓両国の見方を議論した。

まず高原明生教授が、10年前に行われた日韓初の対話の様子、及び、その後継続して行われてきたこれまでの対話に触れつつ、韓国側代表団に対し歓迎の辞を述べた。続いて、日本側代表団の紹介を行うとともに、これまで築かれてきた日韓両国の外交専門家の実質的かつ建設的な関係によって率直な意見交換が可能になると、この対話の意義を述べた。

このセッションでは日本側、韓国側からそれぞれ一人ずつの発表が行われ、それらを基にして議論が行われた。

Choi Wooson教授による講演:
「米中関係と韓国の戦略」(U.S.-China Relations and Korea’s Strategy)

Choi Wooson教授は、韓国側の観点から捉えた米中関係について現実主義的な現状分析と将来予想を行った。Wooson教授によると、現在、米中両大国は東アジア地域において現状を維持することに本質的な利益を有している。これは、中国が過去数十年驚異的な台頭を成し遂げたとはいえ、依然として軍事力の観点から見れば米国の覇権国としての影響は大きく、究極的な安全の提供者であると考えているからである。これに対して中国は、未だ軍事力の分野において十分な力を備えておらず、国境外に大量の力を投入できる立場にない。中国の指導者はこの状況を認識しており、米国との直接の対立を慎重に避けようとしている。中国は明らかに冷戦後の米国主導の世界秩序から恩恵を受けており、経済的な主要国に成長した。中国にとって、自らが恩恵を受けている国際的な枠組みを直ぐに変更する利益はなく、中国を修正主義国家であるとみなすことはできない。

中国とその成長に対する米国の戦略は、伝統的に二つの柱に基づいている。第一に、中国を国際システムに取り込みシステム自体を安定化させ、あからさまな反発をさけることである。第二に、バランシングと関与の両方の政策を採用することである。

だが、2009年以降中国の成長とともに軍事力の近代化と拡大が進み、中国が西太平洋における米国の活動にとって潜在的な脅威となったことを受けて、状況は変わりつつある。中国の外交政策がより攻撃的なものになってきていることを背景に、米国は対抗策を講じてきた。これに対し現在の中国は、自国の外交政策が近年過度に攻撃的であったことを意識しており、「リバランシング」を行うことによって米国との関係を改善しようとしている。

Wooson教授によると、米国と中国の間に見られる協力的な関係は今後おそらく十年ほどは続くと見られる。しかし長期的に見れば、二大国の安全保障上の利益は、高い確立で衝突すると予想される。中国は、現在の協力と自己増強という二つの戦略を続けることで、最終的には当該地域における米軍基地の囲い込みを打破し、東アジアにおける地域覇権を目指すことになるだろう。そして、米国はこのような行動を抑制することになる。この二ヶ国が東アジアを共同統治する可能性は低い。なぜなら、それは米国の東アジアの同盟国との関係を破壊することになるからである。

Wooson教授は、韓国の状況を不安定なものと見ている。もちろん中国と韓国との間には強い経済的な利益が存在する。韓国の主要な戦略的な関心事は北朝鮮との紛争であり、この状況は今後しばらくの間変わらないであろう。北朝鮮との戦争に対して米国との同盟が最も大きな抑止力として働いている。Wooson教授は、中国が公然と武力侵略を行った場合、韓国が中国との明確な対立関係に陥る可能性を否定してはいない。だが、東アジアにおいて米国が中国に対抗できなくなった時には、韓国は中国にバンドワゴンすることになるだろうとも述べた。

佐橋亮准教授による講演:
「米中関係の進展に対する日本の視点」(A Japanese Perspective on the Development of US-China Relations)

佐橋亮准教授は、米中関係について日本の視点から分析を行った。Wooson教授の発表に対して同意できる点が多々あるとしたうえで、東アジアの安全保障に対する日本の立場を以下のように説明した。日本と米国の同盟が友好的に発展していく限り、中国の台頭に対して日本が過度に恐れる必要はない。しかしながら、東アジアに対する米国のコミットメントについて、日本の安全保障および地域の地政学的な状況に対して懸念を生じさせ得るような問題がいくつか存在する。また佐橋准教授は、近年の中国の政策に対する米国の認識に注目し、特にオバマ政権では伝統的な軍事・外交混合アプローチから、より外交的に偏ったアプローチになりつつあることに触れて、中国に対する「リバランシング」の持続性に対して疑問が投げかけられていると分析した。

米国と中国が相互の関与を維持していくことが予期される一方、長期的に見ればこの傾向は米国の外交政策の方針によって変化する恐れがある。したがって、観察すべき重要な要素としては、グローバルな問題に対する米国の明確なコミットメントの存在(米国の「国際主義」)と、それに対する孤立主義の復興の可能性である。米国の国内政治要因は、周辺的な問題かもしれないが、まったく影響がないとも考えにくい。国内政治活動であり、米国が完全に孤立主義に回帰するとしたら、これは東アジアの戦略的状況に多大な影響を及ぼすことになり、そうなると日本は自国の安全を自らの力で担う必要が生じるだろう。

より一般的には、日本の立場は、全般的な外交(軍事)政策への捉え方によって決定される。米国が国際政治をどのような秩序とするかといった観点から捉えるのに対して、日本は自らの利益に反する脅威を認識し反応するというように、脅威に対する対応という形で国際政治に関与する。ただし、日本の外交政策においても秩序中心的な意識は存在する。それは、主に米国主導の世界的・地域的取り決めと結びついており、地域安全保障の「負担共有」の考えや、中国に対するバランシング、東南アジアとの関与の文脈の中に読み取れる。最後に、特にこの地域に関して、佐橋准教授は、南シナ海での海上国境における各国の国境警備活動の強化において日本が(オーストラリアと協力しながら)果たしている役割や、ASEAN統合を促進するために行われている日本の努力について言及した。

二つの発表に続いて質疑応答が行われた。米国内の外交政策グループにおいて孤立主義者が潜在的に台頭してきていると考えるかという質問に対して、Wooson教授は、韓国ではそのように考えられてはいないと述べ、Sei Young教授もこの考えを支持した。現在の地政学的状況において、韓国にとっての重要事項は米国とのつながりであり、それは目下危機にあるわけではない。しかしながら、Wooson教授は、もし中国が台頭を続けたとき韓国は地政学的な結びつきを変える必要が生じ、韓国が覇権国中国とのバンドワゴンを行うことも視野に入ってくる。一方、この場合、日本は長期間にわたって中国の覇権に対抗し得るだろうと意見を述べた。

Chung Jae-Ho教授は、東アジアの情勢が4つの要素、すなわち(1)様々な主体による力の配分、(2)イメージや相互の力の認識、(3)中国の対米政策、そして(4)アメリカの対中政策、によって構成されていると説明した。このような観点に立って、Jae-Ho教授は、東アジアの現状体制が未だ壊れていないとしても、中国の経済的・軍事的な台頭によって失われつつあると主張した。技術的な変化が直線的でない軍事力配分の変更を促すかもしれない。また中国が米国を抜き第一の経済大国となる時点の推定が年々早くなっており、それは15年足らずであるとも予想されている。日米同盟が変わらなくてはならないこともほぼ疑いがない。一方、明確な力の拡大を除いては、実際の中国の長期的な外交政策目標が不確かであることも事実である。しかしながら、中国が冷戦後のグローバル経済と政治環境からもっとも利益を受けている国の一つであることを鑑みれば、中国がこの状況を変える本質的な利益はなく、現状の秩序への修正主義国であるとみなすべきではないとも考えられる。とはいえ、中国の台頭を目の当たりにし、韓国は既にプラグマティクな思慮に基づき、「米国に対して安全保障のためにバンドワゴンを行い、同時に中国に対して経済的利益のためにバンドワゴンを行う」という政策を取っていることをJae-Ho教授は強調した。

東アジアの安全保障構造がより根本的に変化する可能性に関して、幾人の参加者から将来予想や問題、あるいは限界についていくつかの点が指摘された。佐橋准教授は、論理的には日本の安全保障問題の急進化はNPTの脱退や核保有へとつながる可能性があると述べた。極端な場合は除いても、日本は自衛のためにより自らの能力に頼る必要が増している。もちろん、Jae-Ho教授が同意した通り、日本の自衛力の強化は中国を挑発するものであってはならないが、中国がどのような行為を挑発や脅威であると見做し、何をそのように見做さないかを判断するのは困難である。

江藤名保子教授は、地域諸国が何等かの形で中国の覇権を受け入れる可能性について言及しながらも、中国の指導者が国内の自由民主主義変革を行うことが近い将来予想されないことから、自由主義的価値が乗り越えるべき大きな障害になるだろうと述べた。このまま現在のような価値の違いが続く限り、中国とのバンドワゴンの可能性は排除されるべきであると主張した。

高原教授はその議論に対し、中国の指導者は一枚岩だと見なされることが多いが、実際は中国の国内状況は非常に複雑であり、国内の動向によって、中国の政治的・経済的な将来の優先順位は左右されると指摘した。

同様の観点から、中山俊宏教授もアメリカの国内政治の動向を観察することの重要性を主張し、孤立主義の運動や最近の政府機関の閉鎖がいかに同盟国を不安に落とし入れるかという点を強調した。米国の衰退が観察されていることは、植木(川勝)千可子教授によっても指摘された。

最後に、外務省の杉田氏は、東アジア地域及び世界における平和と安定を探ろうとする目的で行われた今回の日韓対話に対する感謝の念を述べた。また、セッションではあまり議論されなかったものの、多国間主義が排他的な二国間戦略に代わりうるのではないかという点を指摘した。

セッション2:「韓中関係、日中関係:中国の台頭に対する対応方法」

司会:

Chung Jae-Ho教授

セッション2では、Chung Jae-Ho教授の司会の下、前日のセッションと同様に、まず日韓それぞれの報告者による発表が行われた。その後、参加者の間で経済的・軍事的に存在感が増している中国に対する日韓の認識やこれまでの対応、今後の日中、韓中関係における課題について議論が行われた。なお、セッション2とセッション3は、日本語と韓国語の同時通訳によりすすめられた。

Chung Jae-Ho教授による講演:「韓国の対中認識」

Jae-Ho教授は、1992年から今日に至るまでの韓中関係を振り返りつつ、その現状と評価について発表した。21年に亘る両国の関係は、その発展の速度、幅、持続性の点で非常に高く評価できる。しかしながら、5年毎に公式に表明される関係と現実の関係との間には大きなギャップが存在する。韓国側は、中国との関係を経済は熱いが、外交はぬるく、安全保障は冷え込んだ関係であると評価している。一方、中国側は、概して良好だが、突然波に飲み込まれる可能性のある関係であり、戦略的な十字路に立っていると評価している。また、韓国はアメリカとは仲良く、中国とは疎遠であるとも言われている。

2010年の哨戒艦事件や延坪島への砲撃事件で中国が北朝鮮の肩をもったことによって韓中関係は急激に冷え込むことになった。だが、2012年に両国の関係は改善した。この年は中国と韓国の国交正常化20周年であり、中国はこの節目を重要視していた。20周年の記念式典に当時副主席の習近平が直接参加するなど、中国は韓国の大統領選挙の候補者であった朴槿惠に対してもすでに強い関心を示していた。今年この両者間で首脳会談が行われ、会談は非常な成功を収めた。会談では、第三国との関わりの中でではなく、韓中二国間関係を重視することが提唱され、確認された。両国関係を示す言葉は変わらなかったが、その「具体化」や「深化」という言葉が用いられており、関係を密接にしていくことの認識が確認された。この首脳会談の一つの顕著な成果は、大統領府と国務院間など韓中間の様々な対話のメカニズムが作られたことである。軍事協力についても話し合いが始まっており、韓中FTAについても前向きなシグナルが発せられた。そして、最近中国が重視している文化交流にみられる通り、相互認識を改善するために国民レベルの交流が必要だということが合意された。

Jae-Ho教授は、現在のこのような両国関係の良好な雰囲気はあるものの、韓中関係は8つの問題を抱えていると指摘した。1つ目は歴史問題であり、高句麗史を含む韓国の古代史を中国の政権の一部と位置付けることに関して対立がある。2つ目は、規範や価値、ルールの衝突であり、政治体制の違い、中国漁船の不法操業問題などである。3つ目としては、韓国の対中貿易が黒字ではなくなることで、中国に対する認識や政策が悪化し、軋轢が生じることに対する懸念である。4つ目は、国民間において相互認識が悪化しており、その悪循環をどのように絶つのかという課題である。5つ目は、北朝鮮の核問題を巡り、韓中間で望ましい協力が実現するのは困難だというジレンマである。6つ目はEEZの画定であり、これについては韓国が先延ばしにすればするほど中国の影響力が強化され不利となるため、できるだけ早く交渉を終えることが望ましい。7つ目は、韓米同盟であり、中国が影響力を高めるにつれ、韓米同盟に対して意見を出してくるようになってきているという問題である。最後は、朝鮮半島の統一に対して、中国が南北の合意による統一のみを支持しているのに対して、韓国はどのような方法であれ統一を望んでいるという違いである。韓国は、中国の協力を得る、もしくは少なくともあからさまな反対を避けるためにも、中国との戦略的コミュニケーションを強化する必要があると認識する。一方、中国の意図に不明確さがあるため、保険としてアメリカとの同盟が必要であるとも考えている。

松田康博教授による講演:「日本の対中国戦略—関与とヘッジ」

松田教授は、日本の4つの対中国イメージというものを想定し、そこから1980年代以降の日本の対中国戦略を説明した。日本にとって中国は、近隣の大国であり同時に過去一世紀半大きな変化を遂げた国であるが、今後の見通しが不明な部分も多い。松田教授は、経済力・軍事力の発展状況と対外的な強硬度合をもとに4つの中国イメージを想定する。経済的・軍事的に発展し対外協調的な「協調大国」、発展はしているが強硬的な「覇権大国」、経済的・軍事的に停滞しているが対外協調的な「破綻国家」、停滞し強硬的な「ならず者国家」である。1950年代、60年代、周辺諸国や西側諸国と摩擦があり、領土紛争において中国は武力行使をためらわなかった。内政面では大躍進や文化大革命、1989年には天安門事件を経験した。この頃の中国は経済的にも軍事的にもあまり強くなく、日本は中国が「破綻国家」や「ならず者国家」になってしまうのではないかと懸念した。したがって、そうならないように、日本は天安門事件後の制裁解除や天皇の訪中により、中国が国際社会に建設的な形で関与するよう後押しした。その後中国は、近代化を進める一方、1996年には台湾に対して弾道ミサイルの試射や三軍統合演習など、近隣諸国に威嚇行動を行うようになった。このような中国の攻撃的姿勢に直面し、日本は、中国が崩壊したら困るという状況よりも「ならず者」的行動を懸念するようになり、中国に対するヘッジの必要性を認識した。その結果、日米同盟の再確認とその強化が90年代に進められることになった。この日本の情勢変化に対して、中国は日本に対して厳しい態度を取るようになり、台湾海峡危機以降、中国政治家が日本国内で歴史に対する不適切な発言を相次いで行った。特に江沢民の1998年に東京を訪問した際の日本の軍国主義批判は、日本のエリート間で対中認識が悪化させることになった。

日本人の中国に対する親近感は、1979年には80%、84年には70%という高い水準であったが、天安門事件のあった89年に一気に悪くなり、2005年、2010年、2012年と更に悪化していった。このことから、日本における中国のイメージと中国当局による暴力の行使には一定の相関関係がある可能性が読み取れる。中国に対し好印象を持っている日本人の割合は、現在20%を切っている状況である。

21世紀に入ると、中国の国力が増したことをうけ、日本はもはや単純なヘッジ戦略を取るわけにはいかなくなった。経済的・軍事的に中国が大国になることは間違いない状況にあるため、日本は中国が「覇権大国」にならないよう関与政策を進める必要がある一方、同時に中国の大国化に対しバランスをとらなければならなくなった。関与政策とヘッジ政策をともに全力で進めなければならない時代の到来である。

2006年安倍晋三首相は戦略的互恵関係を提起し互恵協力関係の強化を打ち出した。これは、靖国問題など単発イシューによって日中の関係全体を壊してはならないという考えを示している。だがこのことは裏を返せば、このような方針を示さなければならないほど、日中関係が短期的で単一の問題によって全て停止してしまっていることを意味している。

最後に、松田教授は、中国の将来が不透明なことから、日本の対中国戦略も関与とヘッジの混合体であるべきだと語った。ヘッジの強化として日米同盟は重要なアセットであり、加えて多層的な多国間枠組みを利用して中国に国際的な基準を守ってもらうように働きかける関与政策も続けていく必要がある。韓国もその中で重要なパートナーであり、その協力を進める上でも日本は過去の歴史に関わる不毛な誤解を招かないように注意を払う必要がある。他国が付き合いたいと思うような力と魅力をもった国に日本がなることが重要であると締めくくった。

引き続き、発表者への質疑応答が行われた。

松田教授に対して、高原教授からこれまでの日本の対中関与政策の評価について質問があった。松田教授は、日本の対中関与政策は半分成功し、半分失敗したと指摘した。日本のODAなどの支援により、中国が破綻国家やならず者国家にならなかったことは成功であるが、協調大国への誘導に関しては失敗であった。また、中国と近隣諸国とを離間させる可能性についての質問に対しては、ロシアは依然として中国の主要な軍事力を管理しているため、中露関係を悪化させることは極めて困難である。またインドでも、中国への懸念はあるものの敵対関係となるほどではないため、中国と近隣諸国の離間を図ることは現実的ではないと説明した。

また、加茂准教授による中国に対する日韓協力の可能性についての質問について、松田教授は日韓が戦略的利益は共有しているものの感情的に対立しているという問題を指摘し、互いに主張すべきことは主張しながらも、協力を進めていくことの重要性を強調した。また、中国人や韓国人が実際に日本に来訪することにより対日イメージが大きく変化した話を取り上げ、交流の拡大の重要性についても指摘した。

Choi Wooseon教授は、日本のヘッジと関与のバランスに関して、2030年の経済予想から日本と中国の間には大きな差ができるということを言及した上で、日本の防衛費の増強の可能性について意見を求めた。それに対し松田教授は、日本では、年々増大する社会保障費などとの関連から今後大幅に防衛費を増大することは難しいことから、武器輸出の緩和を含めた工夫によって防衛力の効果的拡大を図る必要があると説明した。現在日本政府が検討中の集団的自衛権の議論に関しても、この概念の拡張をするわけではなく、国際法上の権利の範囲内であるという点を確認した。

Jae-Ho教授は、韓国が中国と経済的に結びついている一方、安全保障面では米国と同盟関係にあることを踏まえ、過去とは異なり、現在は米中の関係の悪化は望まない状況になっていると述べた。さらに、高原教授から中国の安定性についてどのように見ているかを問われ、中国の不安定性は誇張されているのではないかと述べた。中国は歴史的に、外国勢力の脅威、軍閥の台頭、農民蜂起が重なったときに体制が崩壊しているが、現在は歴史的にもっとも平和な時代である。現在の民衆デモは、中央政府というよりも地方政府の腐敗に対するものばかりであり、参加人数も数十人の組織力の弱いものであると説明した。

Wooseon教授より、尖閣問題に対する中国国内強硬派の影響を踏まえた上で、日本の対応を聞かれ、松田教授は中国の強硬な対日姿勢は、中国の周辺外交をも不利にしている点を指摘した。さらに、日本で言われている「積極的平和主義」とは日本の右傾化を示すものではないかという質問に対し、「日本の右傾化」は国内的文脈で語られるものであり、国際的意味合いとは同じものではないと反論した。野党時代の選挙戦略の一環としての発言、公明党との連携、憲法改正の困難さなどを勘案し、諸外国が懸念するような右傾化は起こらないだろうと述べた。

平岩俊司教授による中韓関係の日本に与える影響に関する質問に対しては、中韓関係は、日本の対中戦略にとって重要な要素であり、中韓関係があまりにも良いと、中国にとっての日本の重要性が失われるため、日本にとってプレッシャーになると答えた。

Cho Sei Young教授は、海洋における中国とのEEZ画定問題について、確かに理論的には早く画定したほうが望ましいが、専門家や世論の強硬姿勢を鑑みると、早期の解決は困難であると述べた。これに対し、Jae-Ho教授は、中国が民主化すれば中国世論の間でシンボリズムが高まり、今以上に中国側からの妥協が見込めなくなるのではないかと指摘した。

セッション3:「中国‐北朝鮮関係」

司会:

高原明生教授

セッション3は、高原教授の司会により進められた。これまでと同様、まず日本側、韓国側の参加者一人ずつから発表が行われ、それを踏まえてこれまでの中朝関係の変遷、中国の北朝鮮への立場の変化やその見極め方、北朝鮮の核問題をめぐる問題、六者協議の役割などについて議論が行われた。

Choi Myeong-Hae氏による講演:「韓国の観る中朝関係」

Choi Myeong-Ha氏は、中国の対北朝鮮政策の変遷は、大きく3つに分けられると説明した。1990年代の胡錦濤のもとでは、中国と北朝鮮の関係は悪化しており、外交的に役割を果たせる余地はなく、中国は周辺情勢の安定に注力する「傍観者」であった。だが、2002年の第二次核危機以降、中国は米中関係改善のために核問題を利用する「利害関係者」として振る舞うようになった。そして、2006年の核実験以降は米朝交渉が進行し、中国の北朝鮮への立場が後退したという懸念が生じ、「均衡者」の立場を強調するようになった。習近平の時代入ると、中朝の二国間関係の中で北朝鮮の挑発的な行動によって振り回されるのではなく、中国が主導権を握る「建設的な管理者」になるべきだという主張が見られるようになった。だが、これに対し、Myeong-Hae氏は、中国の立場は今後も変化しないだろうと反対した。Myeong-Hae氏は、中国の北朝鮮政策の変化を示す指標として北朝鮮制裁のために中国のみが持つ独自の手段を使うかどうかが重要であると述べる。具体的には、石油、食料など戦略的物資の制限や、国境の閉鎖、政治資金のシャットアウトなどを行っているかどうかである。中国は、これまで北朝鮮に対して、自らの行動を変えなくてはならないと感じさせるほどの痛みを伴う「外科的な制裁」を行ってはおらず、戦略的な管理を行いながら、北朝鮮問題を交渉材料として外交的に活用する姿が確認される。

中国の世論は、今年の年明けには北朝鮮に批判的であったものの、現在は改善されている。「韓国と北朝鮮のうちどちらの交流を強化すべきか」という問いに対しては、韓国に対してよりも16%多い、46.4%の人が北朝鮮との関係を強化すべきだと回答している。中国政府は、北朝鮮との様々な対話のチャネルを新たに動かすと同時に、北朝鮮問題に対して六者協議の重要性を強調している。それは、日本やアメリカが、北朝鮮問題を軍事力強化の口実として利用しないようにするためであり、非核化の手段として六者協議の早期再開を主張している。

平岩俊司教授による講演:「中朝関係」

平岩俊司教授は、冒頭Choi Myeong-Hae氏の報告に対して共感を得たと述べ、中国の対北朝鮮政策は、局面ごとの変化はあるけれども根本的な変化は2002年以降起きていないと評価した。まず、平岩教授は、中国にとって北朝鮮は二つ点で意味があると説明した。第一に、北朝鮮は地政学上の隣接国家であり、第二に、米国、ロシア、日本、韓国などとの大国間関係における北朝鮮ファクターである。一方、北朝鮮にとって中国は、後ろ盾であると同時に常にその影響力にさらされる脅威でもある。特に1992年に中国が韓国と国交を正常化してからその関係はより複雑になった。韓国は、当初この国交正常化を中国が北朝鮮を捨てて韓国を選んだと理解し、期待したが、その期待はすぐに失望へと変化した。一方、北朝鮮は1992年の中韓国交正常化で、中国に将来的に裏切られる可能性を意識し、中国に対して不信感を感じるようになった。中朝関係は時に唇歯関係とも表現されるが、その内実は複雑である。

中朝関係を規定するもっとも大きな変数は、やはり米国である。米中関係は、中朝関係にも影響を及ぼす。特に、米中関係が良好であるか、緊張した状態であるのかによって、北朝鮮にとっての中国の意味合いが変化する。また、朴槿恵政権移行、韓国が中朝関係においての大きな変数となってきている。中国も韓国の役割をかつてに比べ大きなものだと認識しており、今後、韓国は中韓関係が良ければ良いほど重要な変数になってくるだろう。

中国の北朝鮮に対する主眼は、北朝鮮をNPTや六者協議など枠組みの中で管理することであると考えられる。朝鮮半島の非核化という目標に対しては、中国も、日本、米国、韓国などと共有できるが、そこに至るプロセスにおいて対立が見られる。北朝鮮は現在NPTから脱退している状態だが、中国は北朝鮮をNPTの枠内に戻して管理することを主張している。一方、日本や米国はNPTに戻るのは当たり前であり、その際にペナルティが課されるのは当然だという立場である。六者協議に対しても、中国は無条件の再開を唱えているのに対して、日本、米国などは北朝鮮に条件を課すことを求めている。六者協議の場であまりに時間を費やすことは、北朝鮮に安全地帯を提供するに過ぎないと反発する。そうような事態を避けるためにも、日米韓が協力して、中国に対して少しでも北朝鮮の姿勢が変わるよう影響力を行使していく必要がある。これまでの中国は一貫して、北朝鮮に対して警告を行うと同時に、国際社会に対してはあまり北朝鮮を刺激すべきでないという二つのメッセージを発してきた。確かに、四大商業銀行など中国の複数の銀行が、北朝鮮に対する送金業務を停止するなど少しずつ動きがあるのは事実だが、まだその変化は北朝鮮を動かすには不十分であると平岩教授は評価する。最後に、中国の姿勢の変化を評価する際には、中国がどのような言葉を使ったかということだけではなく、北朝鮮に対する具体的な行動がどのように変化したのかについて検討すること、またその判断基準を日韓で共有することが今後必要ではないかと述べ、発表を終えた。

引き続いて質疑応答が行われ、参加者からの質問に答えながら、発表者らはより詳しく意見を述べた。

まず、Chung Jae-Ho教授から北朝鮮の現在の核能力の評価と北朝鮮が核開発を中止することの意味合いについて質問があった。平岩教授は、北朝鮮が核実験をこれまで3度成功させてきたことから鑑みて、北朝鮮の核はある程度の小型化が進んでいるのではないかと推察できると答えた。同時に、その運搬手段たるミサイルについても言及し、徐々に米国に直接届くミサイル技術を手に入れつつある点からして、まだ完全に北朝鮮が米国に対する核能力を手に入れたとは言えないが、今後そのような方向に向かいつつあるのではないかという評価を示した。さらに、日本においても、その射程に入っているノドンミサイルについてより議論される必要があると述べた。核問題の終着点は北朝鮮が核開発を放棄することであるが、すでに保持してしまったものを放棄させるのは困難であるため、暫定的には核の拡散を防止することが当座の目標となるだろうと述べた。その際に六者協議は、日本も正式なメンバーとして加わっており、冷戦の解体過程に関係する国が関わっているため最も有効な枠組みであると考えている旨を述べた。

Choi Wooseon教授は、中国は北朝鮮を米国との緩衝地帯として維持したいと考えていると述べたうえで、確かに中国は戦略的には変化していないが、戦術的には米国や韓国に対して協力するような姿勢を示すようになっていると述べた。中国は、朝鮮半島の限定的非核化など自国の利益に一致した形で上記の国々と協力することを望みながらも、一定レベルでの北朝鮮の管理は維持し、交渉の場としては六者会議を想定している、と分析した。平岩教授は、中国にとって朝鮮半島が構造的な緩衝地帯であるという点に同意しつつも、北朝鮮にとって最も重要な国は米国であり、信用はできないが対米国のために利用できる駒として中国を捉えていると述べた。

中国の対北朝鮮認識に対して問われ、Myeong-Hae氏は、中国の行動の変化から、中国が北朝鮮の安定化や穏健化、中朝の互恵的関係の形成を望むようになっていると答えた。つまり、中国は、自国の利益が反映した形での中朝関係の再構成をしなければならないと考えている。だが、北朝鮮は中国の望むような姿になろうと示しながらも、予測不可能性という特徴を有するため、中国は自らの被害を避けるためにもゆっくりと時間をかけて北朝鮮を変えていく方向に動くだろうと分析した。

北朝鮮の体制の安定性について加茂准教授から問われ、Myeong-Hae氏は、周辺国4か国の専門家へ行ったアンケート調査を紹介し、北朝鮮の安定性に対して100点中70点という高い点数が付けられていることを示した。平岩教授も、短期的に大きな枠組みが変化するような状況にはないとしながらも、国内の微妙な変化は続き、もし中国が大胆な行動を取れば、大きな変化も起こりうると述べた。

平岩教授は、中国が北朝鮮を変化させるように強い行動を取るよう促す必要があり、そうなると、北朝鮮問題は徐々に中国問題になることになると論じた。

閉幕に際し、高原教授から、韓国側の参加者に対して感謝の辞が述べられた。それを受けて最後に、Chung Jae-Ho教授が率直で有意義な意見交換ができたことへの喜びと、来年には韓国で、またこの会議を開催できるよう話を詰めていきたいと述べられ、会議は盛況のうちに終わった。