知的財産戦略研究会 2010年度 報告書(抜粋編)④

※1 正式名称:新興国におけるイノベーション・技術標準と知的財産戦略研究会

11/03/06

4. 中国のイノベーション・知的財産・技術標準戦略に関する論点と課題

ここまで中国に関するイノベーション政策、知的財産政策、技術標準政策の動向とそこで起きている現象についてのデータを整理し、それぞれのつながりを解釈して、日本の中国をみる視点を加味して、注目すべき8つの点をまとめた。

A イノベーション動向における注目点

  1. 知的財産活動と技術標準活動の活性化は、現段階ではイノベーション力強化について中国企業の中国市場における競争力強化を主な視点として取り組んでいるイノベーション政策の誘導の寄与が大きい
  2. 中国は自国内部でのイノベーション促進のための技術標準政策を取っている
  3. 中国における標準政策と知財政策は高度には統合されていない
  4. 中国の国内企業強化策で、外国企業は公平に中国市場に参入することが難しくなっている
  5. 中国の複雑な状況にもかかわらず、欧米諸国や韓国は、政府と企業の連携による施策により上手に中国に参入をする取組みを進めている

B 新たなチャイナリスクに関する注目点

  1. 中国の知財紛争は今後も増加し、日本企業が訴えられるケースが増加するとりわけ、実用新案、意匠制度がリスクとなる
  2. 中国特有の事情により、知財保護強化が行われれば減少するはずの模倣品問題が今後も相当の長期間継続する可能性が高い

C 日本にとっての中国をみる視点の変化

  1. 日本にとっての中国は、製造拠点としての位置付けから市場としての中国に移りつつある。さらに今後10年で研究開発拠点としての中国およびグローバル市場における競争相手としての中国が重要になり、それぞれの視点から日本が重視すべき対処や関わり方が変化する。

以上8つの点を踏まえ、以下に今後検討していくべき論点を導出する。

イノベーション政策に関わる論点

イノベーション政策に関わる論点としては以下の2点の論点が挙げられる。

①知的財産創出拠点としての中国の戦略的な活用方法

  • わが国の空洞化を進めないこととのバランスを取りつつ、研究開発において中国を活用し、かつ、公平な市場参入を確保するにはどのようなことに留意すべきか(④から導かれる論点)。
  • 活発化する知的財産流通活動を戦略的に活用するにはどのようにすればよいのか(①から導かれる論点)。

②欧米諸国、韓国、台湾等第三国の対中国イノベーション戦略対応の理解

  • 欧米が対中国イノベーション戦略対応をとる中、韓国、台湾も戦略的対応を模索しているのではないか(⑤から導かれる論点)。このことを理解することで、日本の対中国戦略構築に役立つのではないか。

標準および標準と知的財産の交錯領域に関わる論点

標準と知的財産に関しては以下の3点が挙げられる。

③中国の標準制度の課題と改善

  • 現状の標準制度は、強制標準基準のあいまいさ、標準化組織の閉鎖性、地域標準や業界標準の存在などにより、外国企業にとって市場参入の障壁として機能している可能性がある。またCCC認証制度も、対象品目の追加ルールや認証基準の国際標準との乖離などにより、やはり外国企業にとっての参入障壁となっている。これらの基準認証制度に関し、国際的により透明性の高い制度の構築を働きかける余地があるのではないか(②、⑥から導かれる論点)

④中国における標準と知的財産の組織的連携とは

  • 中国においては国家標準管理委員会やその関連組織と知識産権局の間の連携が図られていないとすれば、どのような連携があることが望ましいのか(③から導かれる論点)そのためどのような働きかけが望ましいのか。

⑤対中国を観点としたときの標準における特許権の位置づけとは

  • 「特許に係る国家標準管理規定暫定稿」は日本企業をはじめとする外国企業にとっては混乱を生じさせるものである一方、ホールドアップを防ぐには良い仕組みであると評価する見方も出来る。また独占禁止法55条の但し書きも、その運用が公益的視点に沿って行われるならば、標準技術に対するホールドアップやパテントトロールを防ぐ仕組みとして有効に活用できる可能性がある。標準との関わりで知的財産の位置づけはどのようなものが望ましいのかを整理し、中国の動きを知財保護の軽視として頭ごなしに否定するのではなく、先進的な試みとして、その動きをサポートしていく余地もあるのではないか(②から導かれる論点)

知的財産制度に関わる論点

知的財産制度に関しては以下の4点が挙げられる。

⑥中国における知的財産制度およびその運用の課題

  • 日本企業が模倣被害を受け続けることが想定されるのであれば、適切な知的財産権保護が望まれる。一方で、強すぎる知的財産権保護はわが国企業が知的財産権侵害の被告とされた際のリスクとなる。そうであるとすると、中国の知的財産制度においては、どのような変化および運用が望ましいのか(⑥、⑦から導かれる論点)

⑦中国における知的財産関連団体の構造に関する課題

  • 中国における知的財産に関する民間団体、学術団体は必ずしも成熟しておらず、日本の民間団体、学術団体とのパートナーシップが十分機能して日本からの提案が適切に議論される状況にない。中国における知的財産関連団体の構造はどのようなものが望ましいのか?そのような働きかけや支援は可能なのか(③から導かれる論点)

⑧対中国を前提とした、諸外国の知的財産関連団体と日本との連携の状況のあるべき姿とは

  • 対中国に向けて知的財産制度に関する働きかけを行う際に、中国以外の諸外国の知的財産関連団体とどのような連携をはかるべきか?

⑨中国における産業財産権の安定性の課題

  • 日本企業が中国において産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権)侵害の被告とされるリスクを考えると、高い質の実態審査が行われ、産業財産権の法的安定性が高いほうが望ましいと考えられる一方、模倣品の氾濫に対しては権利行使手段を迅速に確保するために短期間の審査の実現も望まれる。日本企業にとって、どの点に中庸を求めるべきであるのか?(⑥、⑦から導かれる論点)

8つの分析ポイントとこれらの論点との関係を以下に図にまとめた。

例

図17 分析ポイントと論点


index : 新興国におけるイノベーション・技術標準と知的財産戦略研究会
2010年度 報告書(抜粋編)

①まえがき
②最近の中国のイノベーション政策と実態
③中国のイノベーション・技術標準・知的財産戦略に対する日本の視点
④中国のイノベーション・知的財産・技術標準戦略に関する論点と課題