東京大学・京都大学合同 国際シンポジウム2009:

09/07/10 version6.3

イノベーションにおける競争と協調 −次世代の特許制度を考える− 09/06/11実施

東京大学(政策ビジョン研究センター)と京都大学が合同で、特許制度をめぐる国際シンポジウムを開催いたしました。当日は約400人の参加者を迎え、熱気あふれるシンポジウムとなりました。また、「次世代知的財産権制度」実現のための改革課題として、15の共同提言を行いました。

当日配布パンフレット

オープニング

主催者挨拶

松本 紘 京都大学総長

産官学連携は、研究・教育に次ぐ国立大学の第三の責務であり、大学で創出された研究結果を知的財産として獲得し、その活用によって社会へ貢献することが重要であります。知財化によって大学内研究に関する情報開示を推進し、結果として技術革新すなわちイノベーションの新たな展開を図ることこそ国立大学に課された重大な責務であると受け止めています。しかしその一方では、大学における研究結果の知財化などの急展開にともない、これまでには見られなかった様々な問題も生じてまいりました。知財を取り巻くシステム全体の抜本的革新の必要性が強く叫ばれている今、鈴木特許庁長官、門川京都市長、さらには関連重職の皆様方をお迎えし、東京大学との共催で伝統と革新の地京都において本国際シンポジウムを開催することは、まさに時を得たものと考えます。私は京都大学総長として、さらには新しい知財管理システムに関する内閣府主催「知的財産戦略本部 有識者本部員会合」の本部員として、このたびの東京大学・京都大学合同国際シンポジウムにおいて活発な意見交換が行われ、実情に沿った新規知財システム構築への重要な提言ができますよう希望します。


松本 洋一郎 東京大学理事 副学長

東京大学では産学連携本部、TLO、エッジキャピタル等、大学から出た知財を外に広げていく様々な実験をしています。昨年、特許庁との間では「学術論文と特許文献のシームレス検索システム」の共同開発を柱とした、検討会の設置について合意しました。知的財産の分野は、ともすれば、学術は学術、産業界は産業界と、議論の溝が深いように感じています。根本から「次世代の特許制度」を考えるに当たっては、産学官、又は領域を超えた対話が重要です。本日は、特許庁、京都大学との協力により、理想的な対話の場が出来たと感謝いたします。

 ●濱田純一 東京大学総長からの寄稿メッセージ: 未来に向けた確かな指針を


ホストシティ挨拶

門川 大作 京都市長

京都で素晴らしいシンポジウムが行われることに、心から歓迎と感謝の言葉を述べたいと思います。京都の最大の特性は大学、イノベーションにあります。147万人の人口のうち1割近い14万人が学生・研究者です。その一方、伝統産業・先端産業・ベンチャー企業等、古都でありながら常に新たな課題に挑戦し発展してきました。京都では産学連携や国の支援も得て、知的クラスター創生事業や、中小零細企業の方々が知的財産を活用できる様々な課題に挑戦しています。将来このシンポジウムが、知的財産、特許制度の新たな仕組みの、誕生の礎になることを期待しています。


セッション1: 「イノベーション・システム改革に総括的な課題提起」

チェアー

森田 朗 東京大学政策ビジョン研究センター センター長 教授

東京大学政策ビジョン研究センターは、大学の知的産物を社会の改善のために結び付けていく機関として作られた。特にイノベーションの促進に結び付くような特許制度のあり方を検討することは重要課題であり、これまでの制度を根本的に見直して新しい制度を提案する必要がある。セッション1では今日の議論の全体を見渡す論点として、イノベーションがどう変わってきているか、それを支えるために特許制度はどうあるべきか、世界の動向、そして学術研究の関わり、という観点から議論頂きたい。


特別講演: イノベーション促進に向けた知財政策

鈴木 隆史 特許庁長官  プレゼンデータ

現在、産業構造やイノベーションの様態は、大きな変革期にある。変化のキーワードは、グローバル化、オープン化、知識経済化の3つである。実際、グローバル化を受けて、世界の特許出願に占める外国出願の割合は増加し、現在では4割に達している。また、日米欧では、全出願件数の約25%が重複出願である。 知的財産システムを、こうした構造変化に対応させつつ、イノベーション促進型の制度へと改革してゆく必要がある。これが新知財政策である。

政策課題の第一は、特許審査の迅速化である。これについては、我が国が主導して、特許審査ハイウエイ(PPH)の拡大を図っている。また、バイだけでなく、プリラテラルなフレームワークを構築してゆく予定である。第二は、特許審査の質の向上である。特許審査の品質管理サイクルをまわす他、学術論文と特許のシームレスな検索環境を作ってゆく。第三は、オープン・イノベーションに対応した特許システムである。産学官のコンソーシアムに対して、知財戦略の策定をサポートするチームの派遣を進めている。 特許庁では、特許法の全面改正を視野に入れ「特許制度改革研究会」を設置し、イノベーションを促進する特許制度とはどうあるべきか、包括的な検討を開始している。本日の議論も楽しみであり、ぜひ、検討の参考とさせていただきたい。


基調講演: イノベーション促進のための特許制度 

DOMINIQUE GUELLEC
OECD科学技術産業局 シニアエコノミスト プレゼンデータ

The patent system used to serve essentially to exclude third parties from the use of inventions. In addition to this functio n, the patent system is now being used for sharing inventions: by licensing, by contributing to patent pools, patent clearin g houses etc. The growing importance of knowledge networks and markets for innovation and the economy makes it essential to review the functionning and the basic rules of the patent system for improving its ability to foster the circulation of idea s. Quality of patents and speed of processing are important, as only secure titles can be traded and only inventions which d eserve it should enjoy protection. Introducing more flexibility in the patent system and making it easier to share patents, notably by licensing, should also be considered, for instance with systems like licenses of rights.

特許制度は元来発明の第三者の不正使用を排除するためのものであった。近年はこれに加え、ライセンス供与により、又はパテントプールや特許クリアリングハウス等を通して、発明を共有するための仕組みとして使われることが多くなっている。ナレッジネットワークとイノベーションのマーケットの重要性が増しつつあり、アイディアの流通を促す方向で特許制度の機能と基本原則の見直しが不可欠である。適切な発明の流通を可能とし、それに値する発明が保護を受けられるようにするには、 特許の質と審査のスピードが重要である。例えばライセンス・オブ・ライツのように、パテントシステムの柔軟性を高めると共に、ライセンス供与によって特許権をより容易に共有できるようにするような改革が必要である。


講演: 特許とイノベーションに関する学術研究の潮流

坂田 一郎 東京大学政策ビジョン研究センター 教授 
プレゼンデータ

知的財産権に関して、イノベーション促進の観点から、本格的な制度改革の検討が始まっている。バランスのとれた次世代の知的財産権制度を構築するためには、制度設計の複雑性等に鑑み、この領域における学術研究の成果を最大限、活用することが不可欠である。学術知識を有効に活用するためには、その俯瞰的な理解が前提となるが、知的財産やイノベーション分野においても、近年では発表される論文数は増加しており、従来型の手法によって、その全容を把握することは、年々難しくなっている。

知的財産権政策に関連した学術知識に関し、引用ネットワーク分析の手法を導入して用いて、その体系的な理解を試みた。トムソンISI社の英文論文データベースを利用して分析を行った結果、全体で9,458件、引用関係でつながった最大のグループ(最大連結成分)として3,833件の論文があることが明らかとなった。次に、クラスタリング分析(最大連結成分を対象として相互の引用関係が特に密なグループを抽出する手法)により、大きな研究領域として、「イノベーションの経済分析」、「法制度」、「技術経営」、「国際イシュー」、「特許書誌情報分析」の5大領域があり、また、「経済分析」と「法制度」等の領域間に引用関係の溝が存在することを特定した。時系列の分析からは、最近成長している小研究領域として、「サイエンス・リンケージ」、「特許の価値」、「グローバル経済と特許等」があることを特定した。全体として、知的財産権とイノベーションの分野で、学術知識は制度改革への大きな貢献が可能であると結論づけられる。制度設計を考える際に中心になると予想される諸領域において、学術知識は多く存在し、また、近年、拡大している。一方、課題として見えたことは、学術領域間にある溝を超えて、学術知識を統合し活用する意識的な努力が必要であることと情報科学の分野で研究の再活性化である。

政策ビジョン研究センターでは、こうした課題に対応するため、学術分野を超えた研究チームとして「知的財産権とイノベーション研究ユニット」を創設するとともに、特許と学術を俯瞰した検索や分析手法の研究を開始している。


セッション2: 「イノベーション戦略の変遷と知的財産権制度」

チェアー/講演: 特許の価値と質 −競争と協調のための特許制度を考えるために

渡部 俊也 東京大学先端科学技術センター 教授
プレゼンデータ

審決等取消訴訟で特許の有効性が東京高等裁判所(現在の知財高裁)で争われた事件のデータをもとに、特許の質に関する明細書や権利化過程の情報を用いた回帰推計を試みた。この結果をもとに特許の価値と特許の質の関係について分析を行った。

特許の価値と特許の質には類似点と相違点があり、個々の権利者にとって特許の価値を高めるインセンティブはあるものの、特許の質を高めるインセンティブはない。しかし特許システムのユーザー全体にとって、特許の質を高めることは重要であり、何らかこれを向上する施策が望まれる。


講演: 進展するイノベーション戦略と特許制度 

PAIK SABER IBM Asia Pacific Assistant General Counsel
プレゼンデータ

We find ourselves in an increasingly complex environment. We are witnessing a shift in the global economy from the manufacturing- based economy to the knowledge-based economy. We have witnessed remarkable technological advancements in the last four decades. All of these advancements and shifts point to the fact the nature of innovation is changing and therefore, the innovation strategy must also change. And to support the change in the innovation strategy, the patent systems of 21 century must change in such a way that they promote proprietary innovation while at the same time they encourage open innovation.


講演: イノベーションによる韓国特許制度の変化 

YUN SUN HEE(尹宣熙) 漢陽大学校法科大学 教授
プレゼンデータ

一国の制度や法律は、当該国家の社会、政治、経済、科学など、様々な分野における複雑な利害関係の中で進化を繰り返すものである。また、グローバルな交易が盛んになっていくと共に、通商圧力や条約、FTA締結など外部要因によって変わる場合もある。韓国も例外ではないだろうし、そういった意味では韓国の特許制度の変遷過程を知るためには、まず韓国の歴史的背景を理解する必要がある。従って、韓国において、技術の暗黒期であった1945年以前の状況を踏まえ、南北分断及び再建の時期(1945年〜1960年)、経済成長及び社会安定期(1960年代と1970年代)、国際的な流れに合わせた1980年代、先進国レベルにアップしつつある1990年代、グローバルコリアを目指している2000年代という風に、時代毎での変化を考察したい。


講演: 産官学連携とイノベーション、大学、競争、特許制度

宗定 勇 京都大学産官学連携センター 特任教授 
プレゼンデータ

産官学連携の重要性は、1970年代以降の先進国を中心とする長期的世界経済成長率低下に伴って高まってまいりました。この成長率低下のもたらす「技術革新の小幅化」、「RDの長期化」の現象は特許にもコンペティター間の同一発明の出願同期化をもたらしています。 逆に大学という利潤獲得を行動原理としない組織は、市場原理からは生まれて来ない大きなイノベーションを生む可能性があり、産官学連携のためにも大学発明の特許化には、特別の制度的配慮が望まれます。
このような観点から、特許制度を新たに見直していくことの重要性を示しました。


講演: 電子部品産業における特許出願の動向 

吉野幸夫 株式会社村田製作所知的財産部 部長 
プレゼンデータ

電子部品産業における技術革新は急速に進んでおり、企業は軽く、薄く、小さい電子媒体の開発を続けて行っている。知的財産を効果的に活用することはビジネスの成功にとって非常に重要であり、ビジネスに応じた特許戦略を立てる必要がある。海外の特許申請はグローバルビジネスの拡大と共に増加している。村田製作所では、海外における販売総額が75%を超えており、海外での特許取得を戦略的に増加させる必要がある。しかし、特許法や制度には各国で違いがあり、特許の申請と維持には莫大なコストがかかる。世界共通の特許審査ハイウェイ構築へのニーズは大きい。


パネルディスカッション1


セッション3: 「近未来のイノベーションとそれに対応した知的財産権制度のあり方」

講演: iPS細胞技術の特許の活用のための協同体制について

寺西 豊 京都大学産官学連携センター 教授
プレゼンデータ

京都大学山中伸弥教授は2006年に、4遺伝子導入により最終分化をおこしていたFibroblastから多能性幹細胞を樹立しました。その後、2007年11月、京都大学山中教授とWisconsin大学Thomson教授のラボからヒトiPS細胞樹立が同時に報告されました。

この例から、大学が生み出す知的財産の管理活用体制はどうなっているかを振り返って見ると、まず1995年の科学技術基本政策の設置以降、種々の産学連携と産業力強化の施策が施され、そして2004年4月国立大学は大学法人となり、京都大学の知財管理体制も、法人化に備えて2003年11月から体制整備を進めて来ました。そして2007年10月に改組し、現在の構成員は、教員10名、スタッフ11名及び補助者13名で、全学3000人の教員の成果の発掘と管理をしているが、 “still learning” という現状です。

iPS細胞研究は、世界中で活発に行われており、進展も急速であらたな発見が毎日のように報告されます。一方で、病気を抱える患者さんからは、一日でも早く治療に使える様にしてほしいとの要望があります。従って、過度で、無益な競争を避け、iPS細胞作成技術と細胞の分化誘導技術とを統合することが、実用化研究を加速させる為に求められています。そのために、競争と協調とのバランスのとれたInnovative Collaboration Systemが必要と考えています。 iPS細胞の先行技術をもつ京都大学は、広く利用できるように非独占での実施許諾を提供するHUBの機能を担うつもりであり、このInnovative collaboration system のHUBとしてiPSアカデミアジャパン株式会社を設立しました。この会社に、京都大学が生み出すiPS細胞研究の成果を実施許諾し、ここをHUBとして、第3者への技術移転活動を行うこととし、京都大学は、世界の非営利組織での研究者に対して、ロイアルティーフリーでの使用を認めます。また京都大学は、世界の先進的な研究機関がこのInnovative Collaboration system にロイアルティーフリーで参加されることを歓迎します。


チェアー/講演: 3D(三次元)インターネットと知的財産

杉光 一成 金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻 教授  プレゼンデータ

近い将来、現在の平面的な表現を中心(例えば、インターネット通販においても商品画像は平面的なものが多い)とする時代から、インターネット3D化が進み(例えば、商品紹介に三次元のCGが多用されるようになる)、3Dインターネットの時代が来ると考えている。

3Dインターネットの一形態といえる仮想世界(バーチャル空間)においては、現時点で既にユーザー同士がアバター(ユーザーの分身)を用いて法律行為(典型的には契約)を行える環境が存在し、実際に仮想の商品がその世界内でユーザーの手によって創作され、売買の対象となっており、それによって数億円という利益を得ている者も出現している。

このように、ユーザーがその世界の中で自ら創作することが許容されており、それによってユーザーに知的財産権が発生し、更にその創作物(仮想のアイテム等)を販売することが可能という点において、従来のように管理者が全世界をコントロールしていた、いわゆる「ゲーム」を巡る知的財産問題の延長線とは異なり、むしろ「インターネット(ビジネス)」を巡る知的財産問題の延長線と考えるべきである。このような中で米国では既に仮想アイテムを巡るユーザー同士の知的財産権侵害訴訟が発生し、世界では新しい知的財産分野の研究領域として認知され始めている。

そこで、現時点での世界の研究成果を整理し、知的財産を巡る新しい問題点を明らかにするための新たなフレームワークを構築するとともに、論点整理を行った。日本ではまだこの分野における研究者がほとんどいないが、近未来のインターネット分野において世界に遅れをとってはならず、むしろ最先端の研究を進めることで今後はこの分野において世界をリードすべきと考えている。


講演: 特許データベースを用いた技術開発戦略分析

小田 哲明 大阪大学工学系研究科 特任准教授
玄場 公規 立命館大学テクノロジーマネジメント研究科 教授
プレゼンデータ

特許を経営資源として活かすために、効果的な特許戦略を策定することが重要な課題となっている。効果的な特許戦略を策定する上で、特許データベースから得られる情報は有益である。特に、絶対的な評価が困難である知的財産の評価において、膨大な特許データベースから一定の傾向を分析することは、意味のあることである。

したがって、日本における特許データベースの充実が図られ、特許データベースを利用した分析手法について活発な議論が行われることを望みたい。また、日本企業の研究開発戦略において、大学やベンチャー企業などの外部の研究開発成果の活用が重要な課題となってきている。その前提として、自社及び外部の研究開発成果を客観的な指標で評価することの必要性は、今後も高まっていくと考えている。


講演: サイエンス・リンケージの構造 −太陽電池分野のケーススタディ

柴田 尚樹 東京大学工学系研究科イノベーション政策研究センター 助教  プレゼンデータ

本研究では、科学層では既に成果が存在するが技術層では未だ活発でない産業として未開拓な技術領域の候補を早期に発見する方法論を提案した。実際には太陽電池分野において、学術論文、特許それぞれにおける引用ネットワークの構造を分析し、さらに各層間の差異を分析した。その結果、学術論文ではシリコン系、化合物系、色素増感系、ポリマー系の主に4つのトピックが主に研究されており、中でも後者の2つは特に近年活発に研究がなされている新興学術分野であるが、特許では主にシリコン系、化合物系の技術が多く、色素増感系、ポリマー系は現時点で産業として未開拓な技術領域であることが分かった。


パネルディスカッション2


クロージング 総括と京都からのメッセージ

未来を創造する特許制度のための15 の提言 

渡部俊也 東京大学先端科学技術研究センター 教授
プレゼンデータ

これまでの議論を踏まえ、新時代イノベーションを踏まえた制度・運用改革や国際的な特許制度の調和のための方法、イノベーションを促進する企業と大学の知財戦略について15の提言を示した。

まず、新時代イノベーションを踏まえた運用・制度改革については、非特許文献に関する審査能力の向上や、「仮出願制度」の導入、「適切な差止請求範囲」の明確化がなされるべきである。また、知財裁判審理における専門性の向上として調査官制度と専門委員制度の総合的な高度化、侵害裁判における特許の有効性判断に関し、特許庁の知見を尊重する仕組みの導入や特許侵害とならない研究開発の範囲に関する国際的規範、近未来のニーズに対応した知財制度の国際共同研究の開始、産学国際共同研究契約のあり方に関する国際的な議論の場の設置、次世代の特許データベースの構築などの改革がおこなわれるべきである。

国際協調の枠組みとして必要なことについては、仮想的な「世界特許」の実現や特許審査ハイウェイ(PPH)の加速的推進等が期待される。また行政庁における検討と産学における議論を俯瞰し、融合させる仕掛けとして、特許庁長官会合と産学のシンポジウムを並行開催することが望まれる。

これらの課題改革で、企業や大学によるユーザーコミュニティーによる特許の「質」の向上の取り組み活動を活性化することにより、パテントコモンズやパテントプールなど「コミュニティ全体の利害を考慮した協調領域」の設計と、それに即した特許の戦略的活用にむけた動きを提案する。



クリエーション&イノベーション&パテント 

堀場雅夫 株式会社堀場製作所 最高顧問 京都大学 総長顧問 
       全国イノベーション推進機関ネットワーク協議会 会長

1945年から60年以上、研究開発型の二次産業に従事してきた。研究開発費の回収という観点で、特許は経営のファーストプライオリティーである。特許の品質を上げないと、将来自信を持って特許を経営に取り上げるのは難しい。また、海外特許を出す際の翻訳の精度や、手続きの簡便化も課題である。パテントトロール等、法的乱用についても厳しく対処する必要がある。IPR的な特許と商業的な特許は明らかに分かれているので、権利の差もつけて考慮すべきである。

一方、純粋理論や原理といった純学問の取扱いも非常に大きな問題である。人間が成し遂げたイノベーションがどれは人間に幸福をもたらし、どれは不幸をもたらすのかという選択眼が、これからますます必要になってくるのではないか。人間の持つ知の大部分は個人の所有物ではなく、先達からの贈物であるということを忘れてはならない。本当に自分のオリジナルはどれか、そこから得られる利権はどう配分すべきかを十分に検討するべきである。人間の知は元来人間が共有すべきものであり、そこから飛び出た部分がその人の持ち前であるという考えに立ち、利益の過半は社会に還元すべきものではないかと思っている。