開催報告 第4回 PARI-ERI ジョイント・ワークショップ
ASEAN コネクティビティー:タイとミャンマーの電力統合

チュラロンコン大学エネルギー研究所 客員研究員
山口 健介

Read in English

【日時】 2015年2月24日(火) 13:30-17:15
【場所】 チュラロンコン大学エネルギー研究所(ERI)
【共催】 東京大学政策ビジョン研究センター(PARI)、チュラロンコン大学エネルギー研究所(ERI)
【後援】 東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)

速報版開催報告・プレゼンデータ(英語)はこちら

はじめに:水力発電における社会的バリア

2011年の民政移管以降、ミャンマーへの諸国資本の流入は急である。資本の十二分な活用を以って、経済開発を達成し国民融和を目指すことに、ミャンマー国内で大筋異論はない。1つのボトルネックは、安定的な電力供給にある。同国の電力開発省によれば電化率は約30%であり、IEAによるエネルギー開発指標(Energy Development Index)も世界の最底辺に近い。電源開発を促進し、国民に安定的に供給するにはどうしたらよいか。2013年より東京大学政策ビジョンセンター(UTokyo Policy Alternatives Research Institute, PARI)とチュラロンコン大学エネルギー研究所(Energy Research Institute, ERI)は共同研究を行い、タイの利害関係者を交えて共同ワークショップを重ねてきた。

2014年10月におこなわれた第3回ERI-PARI共同ワークショップまでで判明したのは、大規模な水力発電を行う際に社会的バリアが際立つケースが多いことである1。どのような条件であれば、このバリアが軽減されうるのか。また、各利害関係者が協力して、それぞれどのような手段を講じることで、バリアを乗り越えることが可能なのか。この点に焦点をあて、バンコクのチュラロンコン大学ERIにおいて2014年2月24日に、第4回共同ワークショップを行った。当日は、関係するタイの実務家・政策担当者を中心として40名程の参加者が集い、活発な意見交換が行われた。

ワークショップ概要

まず、ダワン新所長(ERI)からの歓迎挨拶の後、芳川特任教授(PARI)が開会の辞として、ERIA委託によるPARIの研究プロジェクト、及びERI-PARI共同研究の位置づけについて紹介を行った2。次に、山口客員研究員(ERI)より、ERI-PARI共同研究の紹介が行われ、上述した本ワークショップの狙いが述べられた。続いて、基調講演として、途上国に於ける環境・エネルギープロジェクト実施の際の様々なバリアについて、大寺氏(エイト日本技術開発)が同社の経験を元に紹介した。行政内でのプロジェクト許認可のプロセスなど不透明な部分も多く、プロジェクトを実質的に展開するにあたって、乗り越えるべきバリアは小さくない。

次に、プラサート助教(ERI)が、サルウィーン川の電源開発投資に対する、中国内の議論・視点を紹介した。中国がサルウィーン川などミャンマー国境開発を急ぐ背景には、今後プレゼンスを示したいインド洋へ抜ける通路として、国境が重大な地政学的意義を持つことがある。さらに、同国は、成長著しい東部における電力不足を受けて、西部の莫大な包蔵水力の開発—いわゆる「西電東送」計画(図1参照)—に意欲的である。このように、同国にとって、サルウィーン川は、政治・経済両面から推進すべき優先順位の高い開発事項となっている3

図1 西電東送計画の構想
出所:Wilson Center, China Environment Forum

にもかかわらず、キース氏(KWR International)によるフィールドワークの結果からも明らかなように、事例を一つ一つ丹念にみてみると、電源開発プロジェクトの進行は思わしくない。この点について、近年動きのある7,000MW超のモントン(Mongton)水力発電をケースとして、ダムへの懸念について周辺住民に構造化インタビュー(Structured Interview)をした中間結果を、山口客員研究員が紹介した4。図2より明らかなように、住民の最大の懸念はダム建設による自然の破壊や、それによってもたらされる生計への悪影響であった。逆に、強制労働や強制移住といった、ダム反対派が度々唱えてきた諸点について、懸念する声が相対的に小さかったことに注目したい。

図2 モントンダム予定地周辺住民の抱く懸念
出所:2015年2月の現地調査を元に作成

おわりに:懸念の払しょくに向けて

言うまでも無く、67世帯のみを象とした今回の調査だけで、住民の懸念について判断するのは時期尚早である。より本格的な調査が今後望まれる。そして、こうした調査結果に基づいて、住民の懸念を払拭するために、個々の利害関係者がすべきことについて熟議を重ね、関係者間で役割分担について合意する必要がある。例えば、投資側のCSR活動もこのような熟議に基づき策定されるのが望ましいかもしれない。近年、水力発電開発等で度々提起される「包摂的な開発(Inclusive Development)」(Tanai Potisat氏の発表資料参照)は、このようなプロセスを経ることで、初めて達成されると考えられる。

そして、このプロセスにおいて最も大切なのは、ミャンマー政府の役割である。タイも含め投資サイドや国際的ドナーの役割も然ることながら、ミャンマー国民の開発に最終的な責任を持つのは自国政府である。その観点から、本研究会で紡ぐ提言も、最終的にはミャンマー政府に向けたものとなる。杉山講師(PARI)が紹介したように、PARIでは行政官の人材育成などを通じて、関係省庁との良好な関係を築いてきた。特に、今後は関係各省庁を横串にさした、国家エネルギー管理委員会(National Energy Management Committee, NEMC)の役割がますます重要になると思われる 。この点に留意して、科学的知見に基づいた実効的な提言活動を志したい。

脚注

  1. 第3回共同ワークショップについては、次を参照。https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/event/smp141002_rep2.html
  2. ERIA委託研究については、「国際エネルギー分析と政策研究ユニット」を参照。https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/gepea.html
  3. サルウィーン川の中国内での名称は「怒江」。怒江(中国内)で13、サルウィーン川(ミャンマー内)で7の水力ダムが計画中である。
  4. モントン水力発電については、タイ英字紙“Nation”(2014年9月19日)の“China to build dam in Shan state”も参照。
  5. 関連した、国際シンポジウムの詳細について次を参照。https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/event/smp150206_rep.html

関連リンク