ネットワーク理論でみた技術革新 ①

この記事は日本経済新聞「やさしい経済学」2010年7月7日〜19日に掲載されたものです。

坂田一郎 教授

幅広い分野に応用

ネットワークとはノードとリンクで構成されるものの総称である。ノードとは個別の要素、リンクとはノードとノードをつなぐ何らかの関係性のことをいう。ノードとリンクの定義を変えれば、様々なものをネットワークとしてとらえることができる。例えば個人をノード、友達関係をリンクとすると友人ネットワークとなり、空港をノード、空路をリンクとすると航空路線ネットワークとなる。

ネットワークは、原子や分子、生物、人工物のように実体を伴っているわけではなく、世間の様々なものをモデル化するための一つの視点と考えるべきだろう。そうしたパーチャルな存在を扱うネットワーク理論は、18世紀の数学者、L・オイラーが創始したグラフ理論を源流の一つとして、長い歴史をもつ。

ネットワーク分析とは?

ネットワークに関する研究は、主に社会学と数字の分野で進んできた。社会学では、個人や集団の主関係やコミュニケーションを扱い、それら社会ネットワークと社会現象(例えば夫婦の関係、高校生の退学、昇進や給与)との因果関係や関連性を解明してきた。他方数学の分野では、現実への適用より数学的な美しさの追求に重点が置かれ、ノード間にリンクがランダムに存在すると仮定したランダムネットワークやノードが全ノードとの聞にリンクをもつと仮定する完全ネットワークが研究の中心だった。

ネットワークの例

ネットワーク理論が急激に進化し、幅広い分野の研究に応用されるようになったのは、この10年ほどのことだ。その契機は米コーネル大学に所属していたD・ワッツとS・ストロガッツ両氏の1998年の英ネイチャー誌の論文だった。両氏は、映画俳優の共演関係、電力送電網、線虫の神経細胞という3つの全く異なる種類のネットワークに着目、それらすべてに共通する特性を「スモールワールド」と呼んで見事に定量的に表現し、理論に多様な応用の可能性があることを世間に知らしめた。

今後の成長の原動力として、気候変動や高齢化など地球的課題を解訣する技術革新が注目されているが、それを効果的に進めるには技術革新の制御手法の高度化が必要だ。本連載ではネットワーク理論の応用が期待される分野の代表として「技術革新」を取り上げ、最新の研究成果もまじえ、新しい潮流を示したい。


ネットワーク理論でみた技術革新 連載一覧(坂田一郎教授)

①幅広い分野に応用 ②知識の爆発・細分化 ③「学術俯瞰」とは ④研究の「見える化」 ⑤技術ロードマップ ⑥研究協力の実像 ⑦学術と産業技術 ⑧ミッシングリンク