第1回 科学技術ガバナンス研究会 連続ヒアリング企画
日時:2010年4月21日(水)13:00−14:30
場所:東京大学公共政策大学院 会議室
講師:坂井 修一 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
参加者:13名
講師による主要な問題提起
◆ 理学系研究者の場合は宇宙の法則を知りたいといったインセンティブが大きいが、工学系研究者の場合は、世界を舞台に人々を幸せにする発明をしたいといったインセンティブが大きい。
◆ 理系研究者には、収入、社会的地位の面で恵まれない、論文参照数ばかりが数えられて質の評価がなされないといった不満がある
◆ Windowsが日本で作られなかったのは、1990年代の日本企業の技術力が不足していたわけではなく、当時の日本企業がマイクロプロセッサの価値や、ネットワーク社会の到来といった社会動向に対応できず、また日本企業が顧客のニーズに合わせたカスタムソフトを完璧に作ることを得意とし、単純な構造のパッケージソフトを世界市場で販売するベストエフォート型の発想がなかったからである。
◆ 電力網のイノベーションにもベストエフォート型の発想が必要かもしれない。
◆ ITが防衛や交通分野において重要になり、情報セキュリティーが人命にかかわる時代においては、ITに関する事故調査委員会も必要であろう。
◆ 日本には若い優秀な研究者はいるが、研究者が積極的にリスクのある課題に取り組むかわりに、社会的地位や高収入を得るという仕組みがない。
◆ 米国におけるベンチャーキャピタルのような、技術イノベーションと社会イノベーションをマッチングさせる仕組みの創出が必要である。
討議における主要な論点
◆ ベストエフォート型社会、保障型社会の是非。同様の課題はIT分野だけではなく、医薬品開発についても存在する。ベストエフォート型社会は、多様な実験を可能にすることで、結果として安全・安心を高めるという側面もある。ただし、宇宙のような分野ではトップエリートによる保障型の仕組みが不可欠であろう。
◆ 基礎研究から製品開発のフローにおける産学連携強化と、基礎研究の社会還元スピードアップの必要性。
◆ 産業界の複数のステークホルダー間の「共通ニーズのくみあげ」の手法。短期的に経営を担う企業の経営トップの保守的意識が、将来のニーズ把握の障害になっている面もあるのではないか。組織内の異端児の問題意識をくみ上げるような、継続的な仕組みが必要ではないか。
◆ 工学系研究者がTA(技術の社会影響評価)を使うようになるためには、TAの結果を技術要件に反映させるような、翻訳および事前評価の仕組みが重要ではないか。
◆ TAにおいては技術発展の速度、ヘゲモニー確保の可能性といった点も考慮する必要がある。例えば、技術発展の速度が高い場合、その技術の促進は短期的にはリスクを増大させても、長期的にはリスクを減少させる可能性がある。また、ヘゲモニーを確保するためには、技術発展の早期の段階で社会に広めることも重要である。
◆ TAをどのような地理的範囲で行うのかというのも、重要な考慮事項である。例えば、アジア圏を念頭においてTAを行うことで、同じ技術のアセスメントでも結果が異なってくる。