「100億人でサバイバル」、またの名を「地球移住計画」

東京大学 政策ビジョン研究センター/公共政策大学院 特任教授
岸本 充生

2016/5/2

日本科学未来館常設展展示「100億人でサバイバル」- 各種ハザードに見立てた赤いボールで災害の起こる仕組みを理解します。

日本科学未来館常設展展示「100億人でサバイバル」- 各種ハザードに見立てた赤いボールで災害の起こる仕組みを理解します。

リニューアルした日本科学未来館常設展で「100億人でサバイバル」を監修

日本科学未来館が開館以来の大規模な常設展のリニューアルを行い、4月20日から公開が始まった。私は毛利館長と一緒に、そのうちの1つの展示「100億人でサバイバル」の監修をさせてもらった。

「100億人でサバイバル」というタイトルの意味しているところは、地球人口のピークは90億人とも100億人とも言われているが、今後生じるであろう様々なハザード(危険をもたらす原因)から地球人がサバイバルしていくためにはどうすれば良いか考えようというコンセプトである。

監修をさせていただく際に2つのポイントを重視した。

1つはハザードと社会との関係である。「地震」と「震災」という2つの言葉があるように、地震はそれだけでは自然現象という「ハザード」に過ぎない。そして、そこに住む人々や建物が存在し、かつ、寝たきりの高齢者が多い、あるいは、木造の古い建物が多いといった脆弱性がある場合に、初めて震災となる。従来の科学展示ではハザードが発生するメカニズムや測定技術などに注目しがちであったが、今回の展示ではハザードと社会システムとの関係に焦点を当てた。地震、津波、火山噴火といった、これまで何度も経験した既知のハザードでも、社会システムが変化すれば、未知の被害を引き起こすことがある。例えば、大津波とクルマ社会という組み合わせは、日本では東日本大震災が初めてだった。1859年に起きた太陽フレア(キャリントンフレアと呼ばれている)では世界中でオーロラが見えたとされているが、現在同じ規模の太陽フレアが生じたら、電力網や通信ネットワークが大きな被害を受けるだろう。

もう1つは地震や津波といったすでに関心が高いハザードだけでなく、太陽(スーパー)フレアやカルデラ噴火といった大規模自然災害、新たな感染症や大規模テロといった、多様なハザード(や脅威)を扱っている点である。日本の安全対策は、事件・事故が起きて初めて実施されることがほとんどであり、それは再発防止には役に立つが、新しいハザードによる被害に対しては、それが起きるのを待つしかない。特に大規模災害の場合は、たいてい予期していないハザードがやってくる。これらの未然防止につなげるには、あらゆるハザードを想定し、発生確率と発生した場合の被害の大きさの二軸からなるリスクマップを作成し、優先順位を付けて対策を行うという「オールハザードアプローチ」でリスク管理を行うしかない。ただし、今回の展示に使う新しいカタカナ語は1つだけにすることになり、「リスク」は断念して「ハザード」をとった。そのため「リスク」という言葉は展示にはほとんど使われていないが、内容はまさにリスクの観点の展示になっている。

監修した「100億人でサバイバル」の展示の見どころの1つは、赤い「ハザード玉」を使って、地球上に起こる、火山の噴火、感染症の発生、大地震の発生、二酸化炭素排出、といったハザードが、社会に被害をもたらすまでの経緯を「見える化」した機械仕掛けの大型模型である。ハザード玉の動きをじっと観察すると、すべてのハザードが即、人類に被害をもたらすわけでないことも分かる。また、同じハザードが発生しても、そもそも人類への影響がないものもあれば、人類の対策によって被害が未然防止されることもあれば、実際に被害をもたらしてしまうこともある。リスクというのは確率的な現象なのだということが改めて体感できる。

宇宙人から見て、地球は移住すべき星?

実は、展示の企画を練っている最中に私は視点を180度変えた見せ方を提案していたので、せっかくなのでここで紹介しようと思う。題して「地球移住計画:地球で暮らすリスクを報告せよ!」。そのコンセプトは以下のとおりである。

ある惑星に住む宇宙人が、何らかの理由でその惑星に住みづらくなり、他の惑星に移住することを決めた。宇宙を探索し、移住先を探している中で、たまたま「地球」という良さそうな惑星を見つけた。そして、調査隊が派遣されることになった。調査隊のミッションは、地球をしばらく観察して、地球に住むことのリスクを総合的に評価して報告せよ、というものである。来場者は、調査隊の宇宙人になりきり、地球に起きうるハザードを観察し、ハザードごとのリスクの大きさを調査用紙に記入し、最終的に地球に移住すべきかどうかを評価し、隊長に報告する。

このアイデアは結局採用されることはなかったが、一度、人類の置かれた状況を宇宙人目線で客観的に観察してみてはどうだろうか。地球に住むことはリスキーだと感じるだろうか。それとも、改めて安心できることになるだろうか。巨大地震、巨大津波、破局噴火、スーパー台風、巨大竜巻、太陽スーパーフレア、小惑星衝突、新型感染症といった自然起源のものに加え、戦争、テロ、事故、サイバー攻撃などの人為的なものまで、次々とハザードを調査用紙に書き込んでいくと、地球への移住を勧めないレポートも意外とたくさん出てくるかもしれない。