行き詰まる政党政治 − 超党派の政策領域を望む
2012/7/10
政策に応じて政党党派がつくられてこそ政党政治の意味がある。だが、日本の政党は政策に沿って分かれていない。政治家、官僚、そして政治学者が何度も繰り返してきた指摘だが、さて、そうだろうか。
基本政策の異なる政治家が同じ政党に含まれていることは疑う余地がない。基本政策の第一として対外関係・安全保障・憲法を見れば、日米同盟堅持と日米関係見直し、憲法改正と護憲という二つの立場があり、自民・民主両党のなかに両方の立場が混在する。第二の基本政策が政府の役割についての判断、いわゆる小さな政府と大きな政府の対立であるが、ここでも自民・民主ともに内部で立場が分かれる。
小規模な政党の場合、社民党・共産党が対米関係の見直しと憲法擁護、公明党は福祉国家、みんなの党は小さな政府というように政策の違いは鮮明だが、これらの政党が単独で政権を取る可能性は低い。選挙が政権政党を選ぶ機会であるとする限り、選択の重心が民主党と自民党に置かれるのは避けられない。その両党が基本政策について内部で一致しなければ、政党の選択と政策の選択はズレてしまう。基本政策について政党は一致した立場をとるべきだとの声には確かに根拠がある。
だが、別の見方をとることもできる。与党の政策と野党の政策という区別である。
第一の政策領域、対外関係・安全保障・憲法について見れば、自民党が日米同盟堅持を訴え、野党がその見直しを求めてきたことはいうまでもない。野党時代の民主党は社民党や共産党とはニュアンスは異なるが、対等な日米関係という目標には日米関係を見直そうという意志がこめられていた。実際、政権獲得後の民主党は普天間基地移設問題などで関係見直しに手をつけ、日米関係の厳しい緊張を生み、鳩山首相は辞任に追い込まれた。鳩山首相退陣後の民主党政権は日米同盟堅持に向かい、環太平洋経済連携協定(TPP)についても積極的に進めていった。いまでも日米関係見直しを求める声やTPPに反対する声は民主党内にあるが、主流ではない。
第二の政策領域、小さな政府と大きな政府の場合、争点は増税だった。理論的には、社会保障削減を含む歳出見直しによる財政再建を考えることもできる。だが、政権時代の自民党も現在の民主党も、給付行政の見直しに慎重であり、景気の低迷もあって歳出削減は限られたものに留まった。その結果、増税、特に景気変動の影響を受けにくい消費税増税に関心が集中し、与党時代の自民党も野党から与党に転じた民主党も消費税増税を求めてきた。もちろん民主党の内部にも反対の声はあるが、やはり政権の主流ではない。
現在の国会は消費税増税法案の取り扱いを巡って空転を続け、解散総選挙への流れが始まったという観測も流れている。自民・民主というラベルを入れ替えてみれば、自民党が与党だった時代とそっくりの光景だ。政党が基本政策で一致していないとはいえ、与党になった政党は同じような政策を追い求めるという結論になりそうだ。
与党がどの政党であっても同じ政策を求め、野党がどの政党であってもそれに反対する。もしこの構図が当てはまるとすれば、政党も選挙も意味を失う。いま消費税増税に反対する政党党派に一票を投じたとしても、与党となったその政党が君子豹変して政策を変えてしまえば、政策で政党を選んだ意味がないからだ。増税を訴えた政権は選挙で倒すことができるという先例に従うだけであれば、財政破綻と政治の混乱ばかりが続いてしまう。
ではどうすべきか?机上の空論という批判を恐れずにいえば、緊急性の高い政策領域では、政党党派の別を越えて超党派で取り組む必要があると考える。与野党の対立によって政策が政局に直結してしまえば政策決定は先送りされ、何もしない政治に陥るからだ。政策論争は、国民社会の必要とする政策について合意を形成するためにこそ必要なのである。
もちろん政党による政策の違いは残るだろう。小さな政府か大きな政府か、歳出削減と増税のどちらを優先すべきか。景気が回復しないうちに増税すれば歳入が減る可能性もあるだけに、増税のタイミングも議論が分かれるだろう。だが、その相違を踏まえた合意形成が不可能だとは思えない。
民意を反映する政治が絶えざる党派闘争と政策決定の空白を招いてしまう。これは民主政治が本質的に抱えるジレンマであるが、それを克服する方法は議会における公論を通した合意形成の他には存在しない。政策選択に名を借りた権力闘争によって何も実現できない政治が続くことは、政党政治の目的ではない。
この文章は朝日新聞夕刊の『時事小言』に 2012年5月15日に掲載されたものです。