政策提言
テクノロジーアセスメント制度化と選択肢
2010/12/15 掲載
要約
科学技術の進展が早くなる一方で、政策的対応や社会的イノベーションが追いついていない現状においては、早い段階で将来のさまざまな社会的影響を予期し、社会的対応案を提示することで、技術や社会のあり方についての問題提起や意思決定を支援する活動であるテクノロジーアセスメント(先進技術の社会影響評価:TA)の制度化が必要である。TAが制度化されることで、長期的・戦略的視点から先進技術の社会導入や普及に貢献し、既存の政策決定システムに対する補完的な役割を務めることが期待される。制度化の具体的あり方としては、政府レベルでのTA機関の制度化、政府によるTA活動のための資金枠の設定、個別研究開発機関等のイニシアティブによる制度化、国際的制度化など様々な選択肢を考えることができる。
- 課題−科学技術の多様な社会的含意を可視化する必要
- TA制度化の選択肢
- (1)政府レベルでのTA機関の制度化
- (2)政府によるTA活動のための資金枠の設定
- (3)個別研究開発機関等のイニシアティブによる制度化
- (4)国際的制度化
- 組織・運営体制と人材の確保
- (1)組織体制の確立:スタッフ数・予算
- (2)運営体制の確立
- (3)ステークホルダー・市民参画
- (4)TAに求められる人材の確保
- 本提言は、RISTEX支援による、東京大学公共政策大学院先進技術の社会影響評価手法の開発と社会への定着(I2TA)プロジェクトにおける研究をもとに、政策の方向性に関する提言としてとりまとめたものである。
1.課題−科学技術の多様な社会的含意を可視化する必要
我が国では科学技術の進展が早くなり、それをめぐる問題が大きくなる一方で、政策的対応や社会的イノベーションが追いついていないとされる。例えば、医療の分野では先端技術に関する法的・倫理社会的検討をおこなう審議会では、省庁横断的な議論が不在であり、議題の設定方法の適切さが問われている。エネルギーをめぐる地球温暖化対策についても、国際的な公約の実現に向けた見通しが各機関で立てられているが、どのような社会をめざすのかといった総合的な観点を欠いている。こうした現状に対し、「新成長戦略−『元気な日本』復活のシナリオ」(2010年6月18日)において、少子高齢化対策や地球温暖化対策など、課題解決型の戦略的イノベーションを支援していく姿勢を明確に打ち出している。また、総合科学技術会議基本政策専門調査会によって策定された「科学技術基本政策策定の基本方針」(2010年6月16日)では、「政策などの意志決定に際して、テクノロジーアセスメントに基づいた幅広い国民合意への取組」を進めるとした方針をまとめている。
テクノロジーアセスメント(先進技術の社会影響評価:TA)とは、従来の研究開発・イノベーションシステムや法制度に準拠することが困難な先進技術に対し、その技術発展の早い段階で将来のさまざまな社会的影響を予期し、社会的対応案を提示することで、技術や社会のあり方についての問題提起や意思決定を支援する制度や活動を指す。欧米における実践では、幅広い関係者や国民一般を巻き込み、それぞれにとっての便益や、安全やリスクに対する考え方の違いを認識し、対話を図りながら科学技術の発展や社会との関係の方向性の舵取りを行っている。こうした活動は我が国においても断片的に行われているものの、問題の俯瞰的な把握、不確実性や価値の多様性の考慮といった点で、政策決定者のニーズや社会からの信頼に十分に応えているとはいいがたい。「事業仕分け」においても、科学技術開発に社会の目が届くともに一定の意思決定の透明化が行われたことは評価できるが、科学技術について考慮すべき目的や価値の多様性が確保されたとは言い難い。TAはこのような技術の導入における潜在的便益やリスク、制度的対応などの多様な社会的含意を可視化して提示することで、包括的検討を支援する仕組みである。
TAが制度化されることで、長期的・戦略的視点から先進技術の社会導入や普及に貢献し、既存の政策決定システムに対する補完的な役割を務めることが期待される。そのためには、日本の政治社会環境にあった専門機関の設立や活動の制度化が必要である。こうしたTA機関や活動は社会的イノベーションに向けた戦略形成それ自体からは一定の距離を持つが、個別技術と社会のあり方をつなぐことで戦略形成に寄与することができる。なお、TAを実施するタイムスパンには、年次予算へのフィードバック、中期的計画へのフィードバック、新たな先進技術へのアドホックな対応等様々な幅がある。
TAの制度化を考えるにあたり、欧米での経験が参考になる。1972年に設立され、95年まで存続していた米国の連邦議会技術評価局(OTA)は象徴的なTA機関として広く知られているが、200名弱のスタッフと2500万ドル程度の予算を持つ比較的大規模なものであった。これに対し、1980年代以降に欧州各国で設立された議会TA機関を見ると、OTAよりも遥かに小規模な体制であり、組織間の連携・協働も積極的に行っている。近年では、米国内においても研究所や大学、サイエンスセンターのネットワークによってTAの制度化を模索する動きがある。こうした欧米の流れに見るように、TAの実践を担う主体が複数共存し、それらはネットワークによって結ばれうる。その主体の一つがネットワークのコアを担い、責任を持って、TAの対象課題や社会的・政治的状況に合わせ他の主体との連携のあり方を柔軟に変えていくことが、多様な観点からのTAが必要とされる新しい世代のTAのあり方として望ましい。
2.TA制度化の選択肢
こうしたネットワーク化によるダイナミックで安定的なTA実施体制が実現するよう、また、将来のどのような社会的・政治的情勢にも対応できるよう、以下では我が国におけるTAの制度化のあり方を複数提示する。制度化のあり方は政府レベル(1)(2)を中心に、民間を含む個別組織レベル(3)と国際レベル(4)に分けて考えられる。また、ここで提示する制度化は、必ずしも法令改正を伴う公式的制度化だけではなく、運用の改善によって実現できるものも含まれる。なお、制度化に際しては、一定の試験運用期間を設定し、その後、常設化を目指すという手順が考えられる。
しかしながら、1990年代後半以降、既存のメカニズムの再活性化に加えて、多国間制度の形成に向けた関心と動機付けが高まっている。六者協議を始めとして、直近の例としてはシャングリラ対話、東アジアサミットや日中韓首脳会談などが挙げられる。また、中央アジアに地政学的な焦点を置きつつも中国とロシアを含めた上海協力機構にも注目する必要がある。
(1)政府レベルでのTA機関の制度化
まず、国の機関に設置する場合としては議会内か、行政機関内か、に大きく分けられる。国レベルでの国会内TA機関は1995年までの米国や近年の欧州において一般的であり、各党の国会議員等からなる理事会が重要な役割を果たしている。我が国でも、国会における調査機能の強化を図る際にTA機関の設置も併せて検討されてよい。「科学技術評価会議」設置法案が検討された1990年代とは異なり、TAに対する理解や関心や、国会図書館の社会の知識基盤としての機能への関心が高まっており、現在は好機であると考える。なお、その実施に際しては、人材育成の観点も踏まえて衆議院事務局、参議院事務局、国会図書館の調査部門の役割分担を整理する必要がある。国会機関であればTAの成果はあらゆる国会議員に利用されるものとなり、変動の激しい現在の社会的・政治的情勢において、各党の科学技術戦略策定や政策立案の知識基盤に役立てられることと期待される。欧米において、多くの場合、理事会は超党派的に構成されている。我が国でも科学技術基本法や研究開発力強化法は超党派的に進められてきており、科学技術政策に関する調査能力の超党派的基盤強化は必要かつ可能であると考えられる。
国レベルで行政機関内に置くのであれば、内閣府が適していると考えられるが、各省庁や、新たに設置が予定されている科学・技術・イノベーション戦略本部(仮称)における直接的戦略形成からの一定の自律性が必要である。ただし、制度的に戦略形成機関の下に置かれることも可能である。現在、文部科学省の下にある科学技術政策研究所(NISTEP)や科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センターを改組して、TA機能を担わせる選択肢もある。韓国ではKISTEP (Korea Institute of S&T Evaluation and Planning)において、2001年科学技術枠組法に基づいて2003年からTA活動が行われている。こうしたTAの成果は、国家戦略室における全体的政策的課題の設定、科学・技術・イノベーション戦略本部における戦略形成あるいは各省における政策決定の基礎として用いられうる。高い制度的自律性を目指すのであれば、現在の日本学術会議のように内閣府の所轄の「特別の機関」として設置するか、日本学術会議自体を改革して活用するという選択肢もある。日本学術会議法によれば、「独立して」「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」(第三条)となっている。日本学術会議の事務局体制を強化し、「科学と社会委員会」や「若手アカデミー委員会」にTAを実践するユニットを組み込むことで、若手や多様なバックグランウンドを持つ実働部隊が確保できれば、実質的に機能していくのではないかと期待される。
国レベルとは別に、自治体レベルでのTAの制度化もありうる。自治体の主導するTAに加え、自治体とも連携した地域主体にTA活動を担わせることも考えられる。
(2)政府によるTA活動のための資金枠の設定
次に、多様な視角を確保するためのTA活動のための資金は政府が内閣レベルで自由度のある枠として確保しておき、実施は他の機関に委ねるという制度化の方策がある。この資金枠は個別プロジェクトの束としてではなくブロックとして確保される必要がある。また、TAは日常的活動であるため、資金配分の際の評価基準としては新規性を重視する研究開発とは異なる評価基準が不可欠である。米国の「21世紀ナノテクノロジー研究開発法」のように、研究開発費に対して一定の比率でELSI研究のための資金が提供されるやり方もある。だが、ELSIや科学技術コミュニケーションのためという限定された用途より、もっと技術と社会の関係を多面的に考察しうる自由度のある枠が確保される方が望ましい。
たとえば、文部科学省において、政策形成の基盤となりうる根拠(エビデンス)の構築を目的として「政策のための科学」が推進されることとなり、科学技術イノベーション政策の分野を対象に取り組みが開始されるが、この枠組みの中で、「根拠に基づく政策形成」の基盤となる質的情報・根拠を提供しうる取り組みとして、TAの実践や組織化が促進することもできる。こうしたTAの実施機関としては民間の大学、研究所、NPO等が考えられる。多様なTA実施機関が存在することは、より幅広い視角を多様な回路を通して社会に提示し、社会活動として定着する上で有用である。社会的情勢や組織経営に対する感度を維持するために、追加的な財源として民間からの助成を受けられるようにしてもよい。
(3)個別研究開発機関等のイニシアティブによる制度化
技術開発を行う公的機関や民間企業・研究所自身のイニシアティブ等による制度化もありうる。この場合、国からの直接のTAのための資金には必ずしも頼らない形でTAが実施される。海外でも一定の行政機関の関与の下、大手化学メーカーのデュポン社と環境NGO団体のEnvironmental Defenseが協働してナノ物質のライフサイクルアセスメント(LCA)の枠組みを作るなど、TA的な活動を行っている興味深い事例もある。日本でもたとえば食品分野では、技術を応用した製品を消費者に提供する際に直接の接点となる小売業や流通業、外食産業などは、リスク・ベネフィットの両方を考慮した社会的影響を把握するTAを実践するインセンティブが潜在的にはあると考えられる。ただし、食品分野においては、「リスク」を扱うこと自体が非常にセンシティブな問題で、食品関連産業自らが、オープンに語ることが困難であるという側面もある。
このような民間組織や技術開発機関の自発的TA活動の場合、公共目的を含む視野の幅広さを確保するための一定の独立性をどう確保するかといった問題を乗り越える必要がある。民間機関からのプロジェクト資金のみに依存する体制になると、短期的で直接的な成果を求められるようになり、社会的に必要な課題設定への寄与が十分できなくなるおそれがある。これを回避するために、公的機関による一定の資金提供を確保したり、資金源の多様化を図ることによって、TA活動の自律性を確保することも重要となる。
また、制度化の単位としては、個々の研究開発機関レベルではなく、研究分野レベルで幅広い関係者が参画するというやり方もありうる。一定のプロジェクトに対して、プロジェクトに関わる課題についてのTAをするための小規模なユニットを設けてもらうように働きかけるという方法も考えられる。この場合、ユニットは各プロジェクト予算から一定比率を共同で出資する形でプロジェクト横断的に運営されるようにすることが考えられるが、プロジェクト内外の多様なメンバーによって構成される理事会がユニットにかかる意思決定を行うことによって、活動の独立性と信頼性を担保することができる。なお、この場合、通常の研究開発評価制度との適切な連携を図りつつ、それとは異なる社会的意義を強調しておくことが肝要である。
なお、研究開発機関自身のイニシアティブによるTAは、研究開発活動のスピードが速くなり、またそのあり方も分散化する中で、研究開発の方向性とアセスメントのやり方をリアルタイムで連携させて構築していくことにより、社会的な影響に配慮しながら研究開発を進めることを可能にするという利点も有する。
(4)国際的制度化
TAの制度化は、国内レベルだけではなく、国際レベルで行うこともできる。たとえば、中国をはじめとするアジア地域における研究開発活動の相対的重要性が高くなる中で、アジア研究地域の構築の一環として、アジアTAセンターを設立することは、日本が研究開発活動のあり方に関してリーダーシップをとる上でも重要となっている。具体的には、例えばナノテクノロジーの分野においては、TA的関心の高まりと協働のしやすさを考え、手始めに韓国と二国間で共同体制を築くことが考えられる。
また、欧州は研究・技術開発のためのフレームワークプログラム(FP7)の実践において日本との連携にも関心があると見られる。この流れを利用し、FP7のGEST(Global Ethics in Science and Society)やPACITA(Parliaments and Civil Society in Technology Assessment)と呼ばれる国際共同プロジェクトに参加することも考えられる。この場合、資金と人材の確保が課題となる。
また、幅広いステークホルダーが参画する場として、国際的な多様なステークホルダー対話の場であるICON(International Council on Nanotechnology)のような、国際的連携による枠組みを構築し、強化することが望ましい。
3.組織・運営体制と人材の確保
制度化が行われたとしても、その制度が機能するためには適切な組織・運営体制や人材が確保されることが不可欠である。また、広く行政改革一般の中で考えてみると、TAは単なる制度改革ではなく、運営改革のためのツールであるという側面がある。TAが実効的に活動として機能するためには、以下のような課題がある。
(1)組織体制の確立:スタッフ数・予算
以上のような制度を実現するための組織体制としては、欧米の事例が参考になる。前節の(1)のモデルとしては、たとえば英国や欧州の議会TA機関は6-8名から構成され、博士課程学生や各国TA機関を活用することにより少数精鋭で効率的な運営を行っている。欧州議会TA機関は年間50万ユーロ程度の活動予算である。欧州最大規模であるオランダのTA機関でも、およそ40名のスタッフで年間予算は500万ユーロである。(2)のモデルとしては、米国のアリゾナ州立大学では、全米科学財団(NSF)から5年間で620万ドルの助成を受けており、40名弱の研究者が関わっている。
日本では、TAの実践にあたり適当な人材が現状では限られていることも踏まえ、どのような制度化を実現するにしても、さしあたり数名の実務者とマネージャーによる最小規模の実施体制を確実にすることが求められる。密接なコミュニケーションや責任・役割分担の面から、これらの実務者とマネージャーは単一の組織に属するべきである。予算としては一定規模の活動予算を5-10年安定的に継続して得られることが必要である。その上で、最終的には、研究開発予算の一定比率をTAに投資することが期待される。TAが制度化ないし社会的機能として定着するための最大の課題は安定的財源の確保となる。TAはいわば日常的活動であり、必ずしも革新的な研究開発や発見を常に伴うものではない。このようなルーティンをどのように制度化するのか、その論理をどのように構築するのか、とはいえ安定性に安住しない文化をどう構築するのかが今後直面する問題であろう。
(2)運営体制の確立
TAの実践にあたっては、どのような制度化であれ、テーマ設定や実施方針などを定める運営委員会が必要である。運営委員会のTA機関の長および外部者から構成される。外部者は、国会機関であれば衆参両院の国会議員から与野党のバランスを考慮して集められる。その他の政府機関や研究開発機関レベルでは、十分な数の幅広い関係者や専門家が運営委員として関与する。場合によっては一般市民も含まれてよい。
TA的な機能を既存の枠組みに埋め込んで実践するネットワーク型のTAにおいても、TAを実践するにあたっては、コアとなってマネジメントする存在が不可欠である。特に、ネットワーク型の場合は、分散的に多様な個人や組織が関与することから、意義あるTAを実践するには責任の所在を明確にしておくことが肝要である。ネットワークにおけるコアとなるTA機関と他の個人や組織との関係性は水平的であるべきものだが、コア機関によるマネジメント体制を築くには、コア機関の運営委員会が場合によっては一定の組織資源を活用して他の主体に関与できることも求められる。
(3)ステークホルダー・市民参画
TAの運営に当たっては、多様なステークホルダーの参画を促すことが、技術の社会影響に関する多様な観点を社会的意思決定に導入するために重要になる。そして、ステークホルダーの中でも、組織化されているわけではない市民の観点を可視化する工夫が重要になる。日本においても実践されてきた、「素人」を参画させることで「思わぬ気づき」を促すコンセンサス会議の試みは、そのような市民の観点を可視化する試みであった。このようなステークホルダー参画、市民参画の手法の確立と浸透がTA実践の上でも必要である。また、ステークホルダー参画や市民参画を効果的効率的に実施する上で、ITを活用する余地も大きい。
(4)TAに求められる人材の確保
TAの実務にかかる人材としては、自然科学系と社会科学系双方にわたる学際的な素養が求められる。また、長期的な学問的成果が求められる大学等における調査研究とも、断片的かつ短期的な対処が求められる行政機関における実務とも異なり、分野やセクターを横断的につなぐ高いコミュニケーション能力が求められる。そのために複数のセクターでの一定の社会経験と豊富な人的ネットワークがあることがよい。ほかに、十分な論理的思考能力と批判的価値判断能力、プレゼンテーション能力を備えつつも、自己抑制的で柔軟かつ穏和な対外姿勢が必要である。マネージャーはこれらに加え、特に政治家や意思決定者、スポンサーとの折衝・交渉能力とバランス感覚、ビジョン、時代を読む力に卓越していなければならない。個人としてメディアとのコネクション、社会的知名度と信用度があるとなおよい。
こうした人材育成は制度設計と並行して積極的に行っていくことが求められる。このような人材はTAのみならず社会課題に対応したイノベーションのためにも有用である。確かに、このような人材は、既に科学技術政策・戦略策定に関わる機関や国会の各調査部門、大学やシンクタンク、NPOにもある程度は散在しているが、これらを横につなぐとともに、よりTAに適した能力を身につけるための研修・訓練が必要であろう。また、若手の理系研究者がそのような能力を身につける機会として興味深い試みとして、米国のAAAS(American Association for the Advancement of Science)による議会への若手科学者・工学者のフェローシップ派遣制度がある。毎年約30人が派遣されているという。これは直接的にTAの能力育成を行うものではないが、現場経験に基づいて分野横断的分析能力とコミュニケーション能力を身につける機会になると思われる。日本においても国会事務局や行政機関への科学者・工学者の派遣制度が検討される必要がある。
また、TAや科学技術政策・戦略策定に参加する各種専門家、関係者が誰なのかを把握し、そのようなネットワークを構築することも重要になるので、そのようなネットワークの同時並行的構築にも留意すべきである。ここで、個人的な人間関係の構築のためにもコミュニケーションに加えて真摯さが求められる。それぞれのTA実務者に対する個人的信頼を得ることが、ひいてはTA機関の社会的信頼を得ることにもつながる。