レジリエント・ガバナンス研究会 中間報告書
2013/11/11
この中間報告書は2013年に、東京大学政策ビジョン研究センターと産業競争力懇談会(COCN)、東京大学工学研究科レジリエンス工学センターが共同で発足させた「レジリエント・ガバナンス研究会」の成果として取りまとめたものです。全文は下記PDFをご覧ください。なお、最終報告は2014年に出す予定です。
エグゼクティブサマリー
I.基本的考え方
1.レジリエント・ガバナンスの重要性
- (1)危機が起こりうることを想定し、一度そうした事態が発生した場合に被害の最小化と迅速な復興を図る力─レジリエンス─ を日ごろから蓄えておくことが必要である。
- (2)従来の災害類型による研究や対策よりも、損なわれる可能性のある社会の諸機能に着目し、それらの機能が損なわれた時に被害を最小化し迅速な復旧を実現するレジリエント・ガバナンスのあり方を研究しておくことが望ましい。
2.必要とされる検討プロセス
- (1)社会の諸セクターの構造・機能の解明
- (2)セクター間の依存関係・連鎖の解明
- (3)社会の脆弱性を生み出す連鎖構造の弱点の解明
- (4)脆弱性軽減策の開発
- (5)レジリエント・ガバナンスの設計
3.リスクマネジメントプラン
上記プロセスを踏まえ、災害発生後の①救済ステージ、②機能維持ステージ、③復興ステージにおける行動計画を含む、具体的で汎用性のあるリスクマネジメント計画を提示する。
II.重要インフラとインフラ相互間の依存性
- 国家や社会を支える主な重要インフラであるエネルギー(電力、ガス、石油)、情報通信(通信、放送)、交通・物流(道路、鉄道、航空、海路、港湾)、水道、金融、医療、食糧、政府・行政サービスは、相互に機能的依存性をもつ。
- 多様な脅威に対する、相互依存している重要インフラのシステム的挙動と脆弱性への理解が、レジリエンス向上策や包括的な危機対応戦略の基盤となる。
- 大都市圏及び地方圏での重要インフラの分析と地域間の機能的な相互依存関係、重要インフラに関する各種規制や制度の相互関連性も重視しなければならい。
III.重要インフラのケーススタディー(レジリエント・ガバナンスのコア)
1.エネルギー(石油製品)
- (1)官民共同により、①被災状況、復旧状況(ライフライン、道路・港湾などの社会インフラ)についての官民の情報を一元的にリアルタイムで共有できる仕組みの構築②石油製品の在庫、出荷可能量の一元管理と供給先を決定するための仕組みの構築、ボトルネック解消を円滑に遂行するスキームなどを平時より検討、準備する官民の協議体を創設する。
- (2)石油サプライチェーンに係わる事業者の機能面を重視したBCPの策定、需要家側での備蓄の増強
- (3)緊急時の規制の緩和、とりわけ、タンクローリーの長大・水底トンネル通行許可(東京湾アクアライン、関越、恵那山、袴越・飛騨)や公的供給先との精算スキームの事前準備確保
2.エネルギー(天然ガス)
- (1)天然ガスの安定調達(量・価格)の強化に向け、産消国対話の深化等を通じた仕向け地条項や原油価格リンク等の緩和、シェールガス輸出に関するエネルギー外交のさらなる強化、メタンハイドレート等の国内資源の開発促進等の取組みに関し、官民を挙げて取り組むべきである。
- (2)天然ガスシステムについては、LNG基地の地域偏在性緩和、枯渇ガス田を活用した大規模貯蔵設備構築、パイプラインの広域化・大陸連携、移動式ガス発生設備等の臨時供給システムの大容量化等に関する検討を強化すべきである。
- (3)天然ガスの有効利用と電源セキュリティ強化の観点から、コージェネ等の分散型電源の普及拡大に資する政策・制度を強化すべきである。有事における分散型電源の作動等の確実性を担保するため、各種政策検討に際しては、その日常的な運用に配慮した内容とすべきである。
3.首都圏
- (1)首都直下地震による首都圏の大規模な災害と首都中枢機能の不全は国家にとって重大なリスクを発生させる恐れがあり、大規模災害対策と首都中枢機能の維持は必須である。
- (2)首都中枢部が隣接する、東京臨海部の災害拠点機能を向上させるため、耐震岸壁、道路耐震化、公園等の地下利用、民間エネルギーネットワークの道路占用の推進など、潜在的なインフラの活用・開発や規制緩和を含む官民連携の都市施策が必要である。
- (3)3.11後、今までのインフラ供給側、管理者側の論理でなく、需要者としての都市側の自立的ガバナンスが重要になってきている。自立的ガバナンスの考え方により、一定のまとまりある街区での自立分散発電など、リスクに対するエリアマネジメントを備えたまちづくりを推進する必要がある。
IV.ガバナンスのあり方についての考察
1.政府のリーダーシップ
- (1)国の強い意志として、危機にさらされた場合においても、国民に物資やサービスを供給し、可能な限り早期の復旧を目指すためには、あらかじめ国全体として統合的に進められるよう制度インフラ、即ち、事前に①各種の権限・責任問題(省庁間、政府−地方、政府−企業、政府−国民)②費用負担等を整理し、③十分な危機投資と訓練を進め、国難に立ち向かえる体制を整備することにある。
- (2)レジリエント・ガバナンスの実現には、部分最適を避け、全体最適をめざす観点から、中核として政府中枢のリーダーシップを発揮させる何らかのメカニズムが必要。
- (3)司令塔機能を設置するか、設置するとしたらどのような形態が望ましいかについては、果たすべきミッションの範囲、総合調整の実ある成果の見通し、主管省や危機管理組織との関係、優秀な専門人材の確保などを考慮し、最終報告に向けて検討を深める。
2.地域の役割
- (1)基礎的自治体は、現行防災法令によって災害の第一線に立つこととされている。リスクが顕在化する地域が自治体の区域を大きく広がるケースを想定した自治体事業継続計画の策定を急ぐ。
- (2)自治体版事業継続計画では、自治体間の広域的な連携、一時的な行政執行権の上位の自治体への委譲などを可能ならしめる制度を整備する。
- (3)重要インフラに関するプラットフォームを構築、地域社会の視点からインフラ間の相互依存性を検証しつつ重要インフラのレジリエンス向上を主導する。
3.企業活動の深化
- (1)近年、企業経営は財務情報および非財務情報の関連性を踏まえた企業活動の重要性が指摘されている。非財務情報としての企業危機管理、事業継続については東日本大震災を契機に注目されている。
- (2)世界経済に大きな影響力のある日本企業及び政府・自治体は、自身の事業継続に不可欠なサプライチェーンを停止させないため、これまで以上に事業継続対策を強化する動きがある。
- (3)企業経営者のリーダーシップのもと、BCPからBCM、個社からサプライチェーン、産業のレジリエンス向上へと企業は自助努力を推進させる必要がある。また、これを支援、促進するべく共助、公助の環境整備として、評価・認証・モニタリングの仕組みづくり、事業継続上のボトルネックとなる規制等の緩和・撤廃、レジリエンス投資に係る税制、財政政策が必要である。
4.情報共有
- (1)東日本大震災では、情報の多寡が災害対応にいかに格差を生むかが明らかになったが、多くの組織、機関、業界の壁を越えて情報を共有・流通させることは現実には難しい。
- (2)政府は、情報共有を進める観点から、以下の5点に早急に取り組む。
① 非常時モードを含め「社会のあり方」を議論する場をつくる
② 国土の情報を再調査し、デジタルデータにして共有可能とする
③ 地理空間情報をはじめとする重要情報の整理・統合
④ あまねくオープンではない、官民情報共有の推進
⑤ 情報管理に資する、技術開発・人材育成などの基盤整備
5.国際競争力・国際協力
- (1)国家の競争力や企業価値としてレジリエンスが評価されるようになりつつある。レジリエンスは世界共通の課題(グローバルアジェンダ)であり、これに先行し、適切に対応できた国や企業が次代の成長や信頼を得るという認識を持つべきである。
- (2)日本の諸政策課題解決、国際競争力向上及び信頼獲得のために、レジリエンスの戦略が有用である。成熟社会国家であるが故の課題群をむしろアドバンテージの種として捉え、その上で意思決定のあらゆるレベルにレジリエンスの考え方や価値観が普及浸透し、経済成長の質的側面を意識した政策立案が必要である。
- (3)国際社会における日本の立場の理解促進を踏まえ、様々な危機への備えとして、国際機関との戦略的な協調関係を構築するとともに、質の高いレジリエンス向上のための社会技術で国際協力を果たすべきである。
V. 最終報告に向けて
最終報告書に向けて、ケーススタディーの範囲を拡大し、レジリエント・ガバナンスとの間のフィードバックに注力する。加えて、リスクの類型と重要インフラとの相互関係を示すマトリックスの作成をめざす。