画像診断結果の見落としはどうすれば防げるか
2018/7/25
6月上旬に関東地方の大学病院で記者会見が開かれ、画像診断に関する確認不足により9名の患者の診断が遅れ、うち4名の治療結果が影響を受け、2名が亡くなっていることが公表されました。その後の短期間に2つの医療機関からも同様の公表がありました。これらの内容は、マスコミ各社に大きく取り上げられましたが、医療サイドからのコメントは非常に限られていました。医療の質と安全管理について詳しい大学病院の副院長は、画像撮影技術の進歩に確認する側のシステムが追い付いていないことが原因であり、今回の件は氷山の一角だと解説しています。仮にそれが正しいとすれば、おびただしい数の画像診断報告書の確認不足が生じていて、その多くが認識されていないことになります。
画像診断報告書見落としの現状
画像診断報告書の見落としは、多忙な医療現場であればいつでも起きる危険性があります。殊に時間外の画像撮影の多い救急医療現場や、間隔を置いて外来で経過観察が行われているような場面では、患者の帰宅後に画像診断報告書が作成される場合が多いため、主治医が事後的に作成される報告書を確認する機会がなく、見落とされる危険性が高くなります。
画像診断報告書の内容を漏らさず患者に伝えるためには、報告書が作成された後に外来を受診してもらう必要があります。しかし画像撮影をオーダーしている医師は、自分の専門領域については正しく読影していることが多いため、たいていの場合再診してもらっても追加情報はありません。画像診断報告書の見落とし事例は、主治医が撮影しようと思っていなかった部分に偶然映り込んでしまった異常であることが多いのです。
医療機能評価機構が四半期ごとに報告している医療事故情報収集等事業の報告書によれば、画像診断報告書の確認不足の報告事例は最近10年間で、当初の0件から2017年の17件まで急速に増加しています。
医療関連情報のFAX情報誌であるMEDIFAXに掲載された画像診断報告書の見落とし事例を2015年以後について調べたところ、2015年は報告がなく、2016年に1件、2017年に9件、2018年は6月末までで既に26件が報告されていました。この3年6カ月で報告された見落とし事例の件数は36件ですが、実はそれが起きた医療機関は非常に偏っており、最も多く公表している上位4施設の合計が、上記の36件のうち29件にも上っています。この4施設はいずれも医療安全対策に熱心な大学病院であるため、これら施設だけに多くの見落としが生じる可能性は高くないはずです。控え目に見積もって、見落とし事例を積極的に探索していない施設で同程度の見落としがあるとすれば、公表されているものの数十倍、数百倍の見落とし事例が「見落とされている」可能性があることになります。
画像診断報告書が確認されているかどうかを確実に把握することは、とても難しいことです。異常を示唆する報告書の記載が、主治医を含む担当医に認識されていない事例においては、退院サマリーは言うまでもなく、診療録の記載内容に目を通しても、その異常について確認することができません。まず過去の画像診断報告書の全てに目を通して、異常が記載されていたかどうかを確認し、その後に記載内容が診療に反映されているか否かを、診療録の記載で確認する必要があります。仮に入院中の患者であれば、定期的な又は退院時のサマリー作成の過程で、主治医に気付かれる場合があります。しかしその機会を逃すと、状態が悪化して経過を再検討するとか、新たに入院治療や手術など濃厚な治療が行われる場合でなければ、気付かれる可能性は低くなります。そのような機会がない場合には、永久に気付かれない危険性さえあるのです。
もちろん担当している医療従事者が、時間がたってから診療の過程で発見する機会はあります。しかしその見落としが、既に取り返しのつかない結果につながっている場合には、事実を伝えることは難しくなります。今回の大学病院の公表後の報道では、あたかも公表した医療機関だけに問題があるかのように言われています。つまり現時点では、正直に事実を公表することが、非難の対象になっているのです。しかし実際には、これらの医療機関は、積極的に見落とし事例を探索して公表した勇気ある医療機関であり、実際にはさらに多くの見落とし事例が潜んでいる可能性が高いのです。
画像診断結果の見落とし防止には、患者側からの確認が有効
画像診断結果の見落としは、検査技術の進歩により検査の件数や確認項目が年々増加していることから、根絶することはますます困難になってきています。医療従事者がその存在を認識し、意識的に減らす努力をしなくてはならないことは言うまでもありません。しかし今回取り上げている画像診断結果の見落としに関しては、放射線科医が作成した報告書を主治医が読み落としている事例が大部分ですから、患者側から報告書を確認することで減らすことができます。
近年、医療は医療従事者だけが行うものではなく、患者や家族を含めた医療チームで行われると考えられるようになってきました。CTやMRI等の画像撮影が行われた際に、患者側から画像診断結果を確認していただくことも、患者のチーム医療への参画の一つになります。主治医に異議を唱えるようで言いにくい、とお考えの方もいらっしゃると思います。しかしそのような時には、医療チームの一員という意識で「読影結果はどうだったのですか?」と主治医に話しかけてみてください。それが画像診断結果の見落としを防ぐ、現時点で最も有効な対策なのです。