政策提言
「シルバーニューディール」でアクティブ・エイジング社会を目指す

2011/3/4

この報告書は、2009年8月に東京大学政策ビジョン研究センターと産業競争力懇談会(COCN)が共同で発足させた「活力ある高齢社会に向けた研究会」の成果として、産業技術総合研究所の新たな参加を得て取りまとめたものである。

1.基本認識―社会構造の大きな変化と早期対応の必要性―

(1)都市の高齢化

高齢化が我が国の大きな課題であることはいうまでもないが、その実態は充分に理解されているとはいいがたい。現在の推計では、65歳以上の人口が、2030年に32%、2055年には41%に達し、そのうち75歳以上が、2030年に20%、2055年には27%になる。

歴史上、このような高齢化を経験した国はない。我が国の高齢化の特徴は、何よりもその規模の大きさと速さである。さらにいえば、これから起こるのは、高度成長期に首都圏をはじめとする大都市とその周辺に移り住んだ「団塊の世代」の大規模な高齢化である。農村部の場合と異なり、彼らの多くは、団地に住み、地域コミュニティへの帰属意識も弱い。多くは、夫婦二人か単身世帯の核家族である。彼らは生活スタイル、意識が、それまでの高齢者と異なるのである。また、【図1-1】が示すように、都市圏の方が高齢者の絶対数は圧倒的に急増し※1、農村部では絶対数はさほど増加しない。したがって、農村部では施設等の余剰に対する課題、一方で都市部では行政面における福祉サービスは絶対数の確保が課題となり、質の異なる課題への対応が求められるのである。

【図1-1】 都市の高齢化
出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の都道府県別将来推計人口』(平成19年5月推計)より、政策ビジョン研究センター作成

(2)増加する健康人口

政策ビジョン研究センターの試算では、1980年代以降、健康な高齢者は増加傾向にある※2※3。65歳以上の健康な高齢者の数は、ここ30年で約1000万人増加し(65歳以上の国勢調査人口は約1800万人増加)、75歳以上の健康な高齢者の数は、約400万人増加した(75歳以上の国勢調査人口は約950万人増加)。2008年には、【図1-2-a】で示すように65歳以上の人口のうち、69.6%が、【図1-2-b】で示すように75歳以上の人口のうち、53.5%が病院に行かず、要介護・要支援状態でもない、健康な人々である。75歳を過ぎると医療、介護の対象者が増えるものの、若い世代と遜色のない能力を持った元気なお年寄りは私たちが想像する以上に多い。

したがって、これからの社会では、リタイアした後の20年ほど、彼らの活動能力を資源として活用すべきである。いかに、その能力を活用するか。これからの政策は、その点に着目すべきである。そして、健康な高齢者の能力を活用するにあたっては、基本的な認識として、「社会の高齢化(aging)」を、「長寿化(more life)」と捉えるなど、高齢化について、社会の認識や考え方を変える必要がある。加齢に伴う活動スピードの低下を知識で補完できる、運動機能への介入により認知機能を改善できるというエビデンスがあることを踏まえて、高齢化に対してネガティブな思考からポジティブな思考を持てるような、高齢者が若者と同様に活動できるような政策が重要になる(東京大学・ドイツ科学技術アカデミー共催「第1回 日独高齢化社会国際会議」開催報告、2010年10月5日)。

【図1-2-a】 65歳以上健康人口時系列データ(1980-2008)
出典:国勢調査、患者調査、介護給付費実態調査より政策ビジョン研究センター作成※4
【図1-2-b】 75歳以上健康人口時系列データ(1980-2008)
出典:国勢調査、患者調査、介護給付費実態調査より政策ビジョン研究センター作成※4
  1. ※1都市圏では2005年から2035年の30年間で、65歳以上の人口が1.8倍近く、6都府県合計では約620万人増加すると推計できる(東京:157万人増、神奈川:123万人増、埼玉:95万人増、愛知:82万人増、千葉・大阪:81万人増)。
  2. ※2健康人口は、国勢調査人口から、患者調査の入院総数、外来総数および、介護給付費実態調査の要支援・要介護人口を引いて計算している。
  3. ※3以下の理由により、健康人口はこれより多くなる可能性がある。しかし、本稿の趣旨(=健康な高齢者は増えている)を損なうものではないと考えられる。
    1. 政府統計の問題
      • 入院・外来総数
        • 他診療科の診療数は病名が違えば同一人物のものだとしても、別にカウントされている。
        • 年に一度でも診察を受ければカウントされるので、その後健康である場合もカウントされている。
      • 要介護・要支援
        • 認定の際に主治医意見書が必要なことから、新規認定分は外来数と重複している可能性がある。
    2. 定義の問題
    その他にも1983年、1997年、2001年、2002年、2003年、2006年の健康保険制度改革により、受療行動に影響を与え、入院総数や外来総数などにバイアスが入っている可能性がある。
  4. ※4健康人口(介護含)は、2000年の介護保険法施行以前は要介護・要支援に相当するデータの入手が難しかったため、時系列で比較するために、健康人口に介護分を含めた値を使っている。

2.ソーシャルイノベーションの可能性(重点4領域)

本研究会の議論を通じて、未来におけるアクティブ・エイジング社会の生活シーンを想像し、4つの重点領域でのソーシャルイノベーションを設定した。

  • マイホーム/マイタウンで安心してアクティブに暮らす
  • ストレスを感じず安全に移動する
  • 社会とつながり続ける
  • クリニカルデータを高度活用して効果的な予防・治療を受ける

(1)「マイホーム/マイタウンで安心してアクティブに暮らす」

ソーシャルイノベーションの可能性を考えるに当たり、生活環境の基本要素である「住宅」と「まち」の進展・変革から提案したい。アクティブ・エイジング社会とは、元気な高齢者が社会的活動を行い、生き甲斐を感じられる社会である。そこでは多世代が共存し、若者にも魅力的な「マイホーム/マイタウン」が整備されている。更には、高齢者も自身の身体状況やライフサイクルの変化に拘わらず、公私にわたり築きあげてきた生活経験や人的ネットワーク等の財産を活かし、生活環境そのものの維持も図れるような自分の家としての「マイホーム」、自分のまちとしての「マイタウン」に継続して住み続けられる仕組みが構築されている。

コミュニティ・まちづくりに関して将来のあるべき姿を考察すると、核家族はもとより、高齢者層において単身者の割合が増大し、高齢者のニーズもアクティブシニアから要介護者まで、これまで以上の多様化が避けられない。しかしながら、高齢化を見据えたこれからの「まちづくり」においては、多世代が共存し、高齢者にも若者にも魅力的なまちであることが求められよう。そこでは、ゆとりある暮らしを創造し、「マイタウン」として地域に誇りと愛着をもてるような潤いある豊かな住環境と、質の高い生活を支援する利便性と文化性を兼ね備えた土地利用が図られている。また、高度なICTを活用した目的別のある種「緩いネットワーク」が複層的に整備され、さらには、人々の移動、他者とのふれあい・出会いに関しても、多様なモビリティにより空間的、時間的に多様な場面が可能となる。社会制度の面でも、世代間で相互に支援するとともに、高齢者同士も相互支援しあう仕組みも確立されている。地域の枢要な部分においては、終の棲家としての地域のネットワーク、血縁の重要性も担保されるべきであり、「マイタウン」も、従来のような固定的なものではなく、コンパクトな地域の核を内包しながらフレキシブルに対応できるような「まち」となる。

住宅に関し、将来の有るべき姿を考察すると、バリアフリー住宅が普及し、さらに、ライフステージに対応した間取り変更が可能なゆとりある床面積が確保され、住宅の長寿命化を支える住宅性能が格段に向上している。そこでは、高齢者だけでなく、ライフステージに対応して適切な機能を有する住居に、あるときは若者が入居したり、あるときは地域内で順次住み替えていくような、地域循環型居住に対応できる多様な住宅も確保されている。さらに、将来の住宅は、高齢者が住まいの内部からでも、社会とのふれあい・つながりを担保する各種ICT基盤の整備がなされており、在宅での医療・介護・看護体制にも対応できるようになっている。たとえ高齢者の在宅介護が難しくなった場合でも、人生の継続性を尊重し、家族や地域の人々のサポートを得ながら、馴染んだ地域に住み続けられる「マイホームとしてのシニア住宅」が確保されている。

(2)「ストレスを感じず安全に移動する」

高齢者はもちろんのこと、人間にとって移動(行動)することは本質的なものであり、行動することが生きること、生きていることの証となる。高齢者が外出することによって健康不安が少なくなることからも、行動を促すことはきわめて大切である。

公共交通機関が発達した都市部においては、移動に利用する交通機関のバリアフリー化に加え、交通機関を乗り継ぐ交通結節点のバリアフリー化も進んで、人々の行動範囲が広がり、行動する人々が活き活きと活動している。交通システムは、エネルギー、通信などのインフラと連携しており、都市の環境負荷を最小にしている。

一方、地方都市や過疎地域においては公共の交通機関を自由に利用できる地域はないが、オンデマンドの公共交通により、ある程度のコンパクト化が図られた街が整備され、モビリティは確保されている。その上、多くの安全機能が搭載された自動車が求めやすい価格で高齢者に提供され、道路インフラも整備がされているので運転機能が多少衰えた高齢者でも安心して運転できている。車両のシェアリングによる社会コスト低減も進み、人口減少に対応したサステイナビリティが確保できた。

歩道を含めたインフラ整備が進み、歩行者、自転車が安心して走行でき、交通事故で命を落とす高齢者は殆どいなくなる。また、人の歩行空間に調和できるパーソナルモビリティが開発され、道路インフラとともに交通弱者へ供給されている。このモビリティは自律走行が可能なものもあり、こうしたパーソナルモビリティを運用するための法や交通ルールの整備も進んだ。これにより、より多くの高齢者が自由に街を行動することが可能となり、人と人とのふれあいが増え、人々と街の活性化が図られている。

これらの街は、行政、大学、産業界に地域が加わり、それぞれが有機的に連携して高齢者の行動機会を社会全体が支えている。

(3)「社会とつながり続ける」

日本の未来社会では、戦後生まれが続々と高齢者の仲間入りをし、65歳以上の人々がマジョリティーとなる。高齢者の多くを占める“団塊の世代”は、身体的・精神的にも十分に健康であり、社会のオピニオンリーダや労働力としての存在感を示している。そこでは、身体的には見守られる状況となった高齢者でも、知的能力を活かしてソーシャルアントレプレナーとして社会を支えるケースも多く見られるなど、21世紀初頭に皆が抱いた“高齢者社会=マイナス”というイメージは大きく塗り替えられた。

特に社会との絆を維持する重要な方法の一つは雇用である。未来の社会では、多様な形の就業ができる環境の下、高齢者が持つ活動能力を存分に活用するための社会基盤が提供されている。特にICTの利活用で、高齢者の雇用と地域での役割が大きく広がり、専門的・総合的な情報を提供するテレワークビジネスや高付加価値の地域産業、ボランティア活動による社会貢献等を通じて、若い世代とともに活き活きと活動している。

この老若混成の活力ある社会は、人と人あるいは人と社会の「つながり」を実現する安全・安心コミュニティが支えている。過去に問題となった核家族化、孤独化、少子高齢化、人口の都市集中などによる実世界コミュニティでの「つながり」の希薄化に対して、これを補う存在としてオンラインコミュニティが幾重にも形成されている。人びとは、複数のコミュニティに属し、生活シーンに応じてコミュニティを移り変わりながら自立的かつ活力ある生活を送っている。

安全・安心コミュニティは、技術的には、社会インフラとしての安全環境の実現と、人や社会との「つながり」で醸成される安心環境によって支えられている。前者については、家庭、街、自然に埋め込まれたセンサー群から得られる実世界情報や、健康情報などの個人情報を、プライバシー保護に配慮しつつリアルタイムで利活用するための高度セキュア情報管理技術によって実現されている。後者については、コミュニティに対する人の心理的抵抗や過疎といった地域的な問題を取り除く「つながり」促進技術を基本として、さらに、健康・犯罪・災害の各分野において「頼れる存在」との“つながり”を常時維持する技術によって安心感のある社会環境が実現されている。

また、人を中心とした、自治体、医療機関、家庭などの異なる組織間での「つながり」も重要視されている。例えば、医療機関において判断力低下と診断された高齢者に対して、その財産を保護するための「成年後見人制度」が自治体、裁判所、家庭の連携によって即時適用されるといった社会システムが構築されている。

この安全・安心コミュニティを基本とする未来社会においては、見守る人、見守られる人が固定された関係になるのではなく、お互いに見守ったり・見守られたりする双方向かつ動的なN対Nの「つながり」を持つことによって、ひとりひとりが生き甲斐を感じながら自立的な生活を送る社会が実現されている。

(4)「クリニカルデータを高度活用して効果的な予防・治療を受ける」

日本の未来社会では元気な高齢者が生き生きと活動し、仕事やボランティア活動、介護支援などに積極的に参加し社会に貢献することに生きがいを見出している。日々の健康管理は生体センサーにてモニタリングされ、異常値が検出されたら自動的に担当医や医療機関に情報が伝達され、最寄の救急医療機関が駆けつける仕組みになっている。それにより高齢者が積極的に活動できる安心安全な社会環境になっている。

体調が優れない時は自宅から担当医に連絡することで遠隔診断が可能になる。ナノ技術の発達で生体センサーから各種生体情報を取得し、少量の採血で自宅にいながらにして生化学検査を行うことができ、その分析結果は診療情報として記録され医師が患者の健康状態を確認することが可能になる。さらに、医師が過去の診療情報や日々の生活習慣情報を見ながら、モニタを通して患者を診察することで、高度な診断を自宅で受けることができる。診断結果に応じて医師が処方箋を出し、予め指定された薬局に処方箋が通知される。薬局では個人の処方歴や副作用、アレルギー情報などをチェックし、また、最新の薬害情報との照合により安全な薬を処方することが可能になる。処方された薬に問題が発生した場合は医療機関、薬局、患者に対して直ちに情報が通知され、薬による事故を最小限に抑えるシステムが働く。服用後の経過情報や生化学検査の結果は逐次、診療情報として記録され医薬品の安全管理としてモニタリングされる。

また、医療機関で治療を必要とした場合も同様で、医師はそれまでの診療情報や生活習慣情報を確認し治療にあたることが可能になる。日々の診療情報は医師と患者及びその家族も共有し、医療機関に行かなくても家族が患者の経過を確認することが可能になる。更に、投薬情報やその後の経過が診療情報として記録され、各種医療研究機関や新薬の研究に利用される。 

元気な人の健康状態は健康管理情報にアクセスすることで知ることができ、蓄積された情報から今後、発症しうる病気を予測することが可能になる。その結果、人々の健康寿命は更に延び、みんなが明るく安心して暮らせる社会が形成されるようになる。

3.ソーシャルイノベーションを阻む「壁」

先にアクティブ・エイジング社会に向けた4つのフロンティアを挙げたが、その実現のためには、鋭敏な感覚を持って高齢化社会の潜在的なニーズと我が国が持つ新技術やアイディアを組み合わせた上で、社会に受け入れられる新たなモデルとして発信していくことが欠かせない。一方、現実には、成長戦略の両輪を成す環境(グリーン)分野と比較しても、その歩みは遅いと言わざるをえない。平成18年に制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称、バリアフリー新法)」とそれに連なる施策自体は評価できるものであるが、それは、拠点施設等に注目した「点」ベースでの対応であり、また、社会構造の激変に対する積極的な対応とまではいえない。

社会的なニーズが高いにもかかわらず、イノベーションが進まない理由として、次の5つの「壁」があると考えられる。これらの高い「壁」を如何にして乗り越えるかが課題となる。

(1)新たな社会システムの可能性に関する認識不足

新たな社会システムに対する潜在的なニーズについては、アンケート調査のような受動的手法で掘り起こすことは難しい。なぜなら、長く“あきらめ”てきたことを期待へと変換する行動は起こりにくく、また、個人では今と異なる社会に対する想像力の限界もあるからである。特に、長く続いた社会システムを変革するような場合は、この要素が大きい。

従って、政府や社会の側から、わかりやすい形で新たなモデルを発信し、国民のニーズを掘り起こす積極的な手法が必要となるが、現時点では、そうした活動が十分なされていない。国民の側では、新たなシステムの可能性や魅力についての認識が形成されておらず、国民的な推進力につながっていない。わかりやすい形で発信するためには、従来のような行政やサービス供給者側の切り口ではなく、高齢者の生活場面に合わせて説明をしていく必要がある。

(2)基盤となるハード、ソフトの社会インフラへの投資不足

新たなモデルを社会に実装することは、産業界や大学の努力だけではなし得ない。政府による社会インフラの整備が欠かせない。それらは、低下した身体機能や認知を標準とした街の面的なインフラ、個人情報の管理ルール、高齢者の安心安全を守るルール、有用な情報のデータベース、等多岐に渡る。我が国の既存のインフラは、現行システムを支えるものにとどまっており、現時点では、これらに対する社会的な投資が不足している。

(3)新技術・ビジネスモデルに関する社会的な受け入れの「壁」

新しい技術やビジネスモデルについては、多くの場合、何らかのリスクや不確実性が伴うことは避けられない。新たなモデルを実現するためには、リスクや不確実性をできるだけ小さくした上で、社会的な効用がそれらを大きく上回るものについては、社会として手順を踏んで受容していく必要がある。社会的な受容がないと、有用な技術等が大学の研究室や社会に閉じ込められ、社会で活用されないという結果につながる。この問題の解決のためには、安全基準、承認基準、評価方法、規格・基準、交通規則といった制度の整備が必要となってくる。新技術やビジネスモデルの創造スピードが加速するなかで、政府の側での制度整備がそれに追いついていない。「技術時間」と「制度時間」のずれである。外部の専門家コミュニティへの分権、制度と新技術の対話の場等の新たな手段の活用も想定し、そうしたずれを埋めていくことが求められている。

(4)技術・知識・アイディア、社会インフラ等の統合の難しさ

今日、膨大な技術知識や情報が存在している。例えば、高齢社会を研究する学術領域として「ジェロントロジー学」がある。世界的によく利用されている論文データベースであるトムソンロイター社のWeb of Scienceを使って検索してみると、6万9千件もの論文がヒットする(1956年〜2008年)。内容を分類してみると主な研究領域として、認知機能、身体機能、看護や介護のような公的サポート、コミュニティにおける民間サポートがある。また、東京大学高齢社会総合研究機構においては上記にとどまらず、高齢化の視点から、街づくり、新しい交通手段等の幅広い研究も実施している。

現実的に過ごしやすいと感じられる高齢者社会を創るためには、少なくとも、これら分野の技術や知識等を総合的に捉えて活用していく必要があるといえよう。しかし現実には、知識量の膨大さと専門分野間における知識・協働の溝の存在がそうしたことの障害となっている。知識の橋渡し、融合、統合の機会づくりや俯瞰的な視野でモデルをデザインできる人材の育成、それらへのインセンティブ付けが必要となってくる。実際の行政面では、住整備、都市、公共交通、医療等の分野別に分かれているマスタープラン作りを俯瞰、統合していくことが求められる。

(5)社会における「実証実験」の機会の不足

革新的で、かつ、新たな技術や要素を多く取り入れた新モデルは非常に複雑なシステムである。それが予想した形で機能するかどうかは、机上の議論だけで判断することはできず、産学公民の協力による実証実験による検証が必要となってくる。ここでいう実証実験は、単に新たな技術や要素を利用した製品・サービスに限られるのではなく、それらを実際に運用していくための行政や財政の施策、提供の基盤となる制度的仕組みとインフラ、そして地域住民・コミュニティを総合的に巻き込んだ、地域レベルで行われるべきものである。また、最初から完璧を求めるのではなく、検証結果を踏まえて、モデルを修正していく柔軟な姿勢も必要である。

グリーン分野では、バンクーバー、フライブルグ、ボルドー等、世界各地で、先進都市を競う競争が起こっている。我が国における「高齢者標準社会」の実証実験にも、先駆者としての意気込みとリスク等の存在について一定の理解のある地域が必要であるが、現時点ではそうした機会が十分ではない。また、潜在的な先行実験の希望地域と新技術やアイディア、モデルを持つ者の間もつなぐ仕組みも存在していない。人材面でも、様々な要素を組み合わせて新たな社会システムをデザインするアーキテクト人材が不足している。国内で、高齢化標準社会の先進都市を競うことができる環境を創っていく必要がある。

4.高齢者標準社会の実現に向けた提案

5.7つの政策提言 —「シルバーニューディール」でアクティブ・エイジング社会を目指す—

(1)シルバーニューディールを経済政策の柱に

我々は、国内にとどまらない高齢化社会の潜在的な需要と我が国が持つ新技術、アイディア、新ビジネスモデル、地域資源等の供給サイドの力とを結びつけることで、新たな産業・雇用の創造と社会の高齢化に伴う課題解決とを同時に実現することを「シルバーニューディール」と名付ける。

需要サイドについては、今後、韓国、シンガポール、中国等のアジア諸国も、高齢化社会を迎えると予測されている。韓国やシンガポールの高齢化率はやがて日本に近づき、中国の高齢化率も現在の日本の水準である20%を超える見込みである。我が国が先に高齢化社会への移行という課題を解決し、「高齢者標準の社会」をつくり上げられたとするならば、それは遅れて高齢化社会を迎えるアジア諸国にとってもよいモデルとなる。また、ニューディールによって生まれるエイジ・フレンドリーな商品やサービスは、国内の潜在的な需要を掘り起こすだけでなく、他国が本格的に高齢化するまでの間に国内市場で磨き上げられ、次世代の輸出産業の核となりうる。

高齢者が活動しやすい環境づくりのチェックリストとして世界保健機関(WHO)が策定したガイド「年齢を感じさせない街づくり(Global Age-Friendly Cities)」がある。これは、世界の都市群の綿密な調査に基づき策定されたものであり、街の環境、輸送、住宅、社会参加、雇用、コミュニケーション等、多岐にわたる分野を包含している。このガイドと照らし合わせてみると、我が国は、そのリストを既に良く満たしている。従って、供給サイドに関し高齢者標準の社会づくりを進めるためには、そのガイドラインを超えて、新技術やアイディアを活用したブレークスルー、すなわちイノベーションが欠かせない。新技術等を活用することで、従来解決できなかった課題を解決する、より低いコストで課題を解決する、より快適な形で課題を解決する、若者や中堅層の利便性を損なうことなく課題を解決するといったことが可能となる。

さらに、高齢者がアクティブに活動できる環境を作ることは、就業意欲の高い高齢者に対し、定年後の20年間をビジネスや社会的な活動に費やす社会基盤を提供することにもなろう。

【図5-1】世界の人口高齢化率の推移(1950〜2050)
出典:東京大学高齢社会総合研究機構

(2)高齢者標準社会基本法の創設

高齢社会への対応に関し、我が国に残された時間的猶予は少ない。各分野や地域における努力を統合が必要である。「高齢者標準社会」創生に向けたソーシャルイノベーションをスピーディかつ俯瞰的・統一的に進める推進力として、「高齢者標準社会基本法」のような国家的枠組みの創設を提案する。

「高齢者標準社会基本法」は、具体的には、国による基本方針の策定と地方公共団体による計画の実施を義務付け、国の地方公共団体に対する助言や財政支援、事業者に対する支援の具体的な仕組み、R&Dの促進及びハード・ソフトの基盤インフラの整備、内閣の中核的機関の設置などを柱とするものとなるだろう。

また、この法律は、持続的なイノベーションを義務付け、「制度時間」と「技術時間」の溝を埋めるよう要求するものとなるだろう。制度と技術の対話の場を作り、専門家コミュニティを活用することで、社会的な新技術・アイディアの社会的な受容を促す制度創造(安全基準、承認基準、評価方法、規格・基準、情報セキュリティのルール、交通規則等)を加速することが求められるからである。

この法律の位置づけとして重要な側面が二つある。一つは、統合的に持続可能なシステムを形成するためのファンダメンタルズとしての位置づけである。もう一つは、将来のビジョンを共有しつつ、経済原理に則った企業活動と、主として公的財政支出や規制の適正化等による政府・自治体の政策とが、相補的に進められていくためのインフラとしての位置づけである。特に後者においては、高齢者間の身体的な格差を是正することが含まれる。高齢者の身体的な能力は、加齢に伴ってその分散が大きくなり、格差が広がる傾向があるためである。

(3)ユニバーサル・デザイン理念の普及とカスタマイズ化

多くの高齢者は元気であるが、その身体能力の程度はさまざまである。また、加齢に伴う体力の低下や認知機能の低下は避けられないため、一人ひとりの身体能力も変化する。さらに、時間の経過とともに、家族の構成やライフスタイルも変化する。こうした多様性と可変性に対応するためには、供給側におけるユニバーサル・デザイン理念の普及が不可欠である。

製品やサービス、社会インフラの供給をユニバーサル・デザインの理念に基づいて行うとは、単にバリアを除去することを超えて、より多くの高齢者がよりアクティブに生活するための基盤を提供することでもある。まずはまち全体が誰でも歩いて暮らせるように整備され、さらに、歩行空間から連続的に利用できるパーソナルモビリティが存在すれば、生活範囲が飛躍的に広がるとともに、自立して元気に暮らせる高齢者の幅も広がる。地方の都市部、農山村部、過疎地域においても、誰でも利用できる移動手段と、それを運用するためのインフラを確保することが極めて重要である。

一方、介護ロボットのような製品や、パーソナルモビリティの操作体系などのインターフェースは、一人ひとりの高齢者の状態に合わせてカスタマイズできることが望ましい。また、家族の成長やライフスタイルの変化、さらには身体・認知能力の変化に合わせて、住宅の空間構成のような生活環境や、見守り・つながりのようなサービスを適合させる機能が重要な役割を果たす。設計時に有効なユニバーサル・デザインの考え方と、生活が営まれている中でのカスタマイズ機能をうまく組み合わせることにより、より高い親和性をもつ生活環境・サービス・製品を提供することが可能になる。

一見、あい矛盾するユニバーサル化とカスタマイズ化とを両立させるため、設計当初から、生じ得る生活の場面を群として考慮し、それぞれの群で求められる生活環境・サービス・製品をモジュール化することで、ライフステージごとにこのモジュールを交換するという全体設計指針、さらにはモジュールを社会で共有(シェア)するというビジネスモデルも検討するべきであろう。

(4)実証実験による検証と先進都市の創成

高齢社会の課題先進国として、新技術等の導入効果やそれらを統合した新社会モデルの検証する実証実験が必須である。地域に対し我が国が持つ有望な新技術・アイディアを見える化する、地域の発意でソフト・ハードのインフラ整備を総合的に実施できるようにする、地域が早期導入を求める新技術・アイディアの社会的な受容を可能とする制度づくりの優先順位を高めるなど、国内で高齢化社会の先進都市を競うことができるような環境整備が必要となってくる。

例えば、クリニカルデータやバイオマーカーを高度活用すれば、効果的な地域医療ネットワークの実現、従来の治療中心の医療から予防医療へのシフトなどが可能となり、さらに、医療・介護・年金に係る負担を軽減することも期待される。個別の課題だけでなく、重点4領域の課題を一体的に盛り込んだ「アクティブ・エイジング都市・生活モデル」の先進都市の創生も期待される。実証実験の過程を見える化することで、新たな社会づくりの可能性に対する国民の認知を得ることも重要である。また、その過程で同時に、高齢化社会へと移行するための投資について、費用対効果の検証も実施すべきである。

さらに高齢者標準の社会へのイノベーションを、高齢者だけのためではなく、すべての世代にとってもメリットが分かりやすい形に構想・構築することである。したがって、「アクティブ・エイジング都市・生活モデル」の構築と検証に際しては、高齢者から若い世代に至るまで、あらゆる世代の人々にとって新しく開けてくるモデルを提示し、あらゆる世代の人々が自らの問題として参加できるようにすることが重要である。例えばクリニカルデータの高度活用は、高齢社会における最重要課題の一つであるが、同時に産科小児科や救急医療問題など、医療提供体制を含む医療の質や安全性、効率性、エビデンスに基づいた医療政策決定などに密接にかかわるものであり、モデルの構築と検証が急がれる。

※クリニカルデータの高度活用に関するプロジェクトについて

①医療システムの進展とクリニカルデータの高度活用

高齢社会や地域における最大の課題は、医療やそれに関連した健康サービスである。我が国の医療は、右肩上がりの成長経済を背景に、十分な財源と質の高い医療従事者の養成により、WHOの評価でも世界最高水準にあるとされてきた。しかし、近年、産科小児科や救急医療問題など医療崩壊と呼ばれる課題も明らかになっている。いわば、医療システムの病期は、第一期の財源確保の問題から第二期の医療提供体制の問題へと進行しつつある。それに伴い、豊富に蓄積されつつあるにもかかわらず上手く使われていない電子化診療情報(クリニカルデータ)を活用することで、医療の質や安全性の向上、効率化、専門医の育成、エビデンスに基づいた研究開発や医療政策決定への応用などが期待されている。

②先進的な実験プロジェクトの「特区」的な展開

今後、特定の地域と協働し、クリニカルデータの高度活用の先進的実験プロジェクトに着手する。昨今の医療費の算定方法をめぐる議論では、根拠とするデータサンプリングの方法が問題となっている。そこには、恣意的にデータを集めたのではないかという疑念がある。データの偏りが大きな論点になっており、全数をつかめないという前提では、サンプリング時、データ解析時の2点でどうしても誤差・偏りを生みがちである。しかし、コンビニエンスストアのPOS(Point of sale)のようにITを用いると、全数を集めることが可能になった。医療においても、この考え方で全数を収集可能である。そうすれば、各ステークホルダー間の相互不信の解消につながるだろう。全数を前提にした政策決定は、合意形成が容易になるだろう。一方、診療現場では、診療のガイドラインに資する情報も提供できる必要がある。

このように、医療のIT化により、電子カルテで蓄積した診療情報を患者、疾病、診療行為単位に抽出し、その分析によってEBMの実践的診療ガイドラインや意思決定に資する情報を提供できるだろう。これらが実現することで、医療費等の問題についても議論が深まると期待されるのみならず、コホート研究等への応用で、新薬や新しい治療技術開発等へとつながるだろう。

【図】誤った標本と母集団との関係

クリニカルデータを高度に安全活用するためのクラウドコンピューティング基盤の整備

高齢社会や地域における最大の課題は、医療やそれに関連した健康サービスである。我が国の医療は、右肩上がりの成長経済を背景に、十分な財源と質の高い医療従事者の養成により、WHOの評価でも世界最高水準にあるとされてきた。しかし、近年、産科小児科や救急医療問題など医療崩壊と呼ばれる課題も明らかになっている。いわば、医療システムの病期は、第一期の財源確保の問題から第二期の医療提供体制の問題へと進行しつつある。それに伴い、豊富に蓄積されつつあるにもかかわらず上手く使われていない電子化診療情報(クリニカルデータ)を活用することで、医療の質や安全性の向上、効率化、専門医の育成、エビデンスに基づいた研究開発や医療政策決定への応用などが期待されている。

COCNでは2010年度の研究プロジェクトの一つとして、「個人情報や企業情報を安全に活用するためのクラウドコンピューティング基盤の整備」を行っている。これは、個人情報と企業情報を安全に組織間で共有するためのクラウドコンピューティング基盤の整備や、情報の利活用を促進するために必要な技術的、制度面についての要件を提言しようとするものである。検討されている3つのユースケースの一つが医療分野であるが、そこでは、医療連携サービス、PHR(Personal Health Record)一次利用によるサービス、PHR二次利用によるサービスを検討した上、課題を抽出している。詳細については、2010年11月に公表された中間報告「個人情報や企業情報を安全に活用するためのクラウドコンピューティング基盤の整備」を参照。

(5)社会との対話型イノベーションの総合的展開

高齢社会の需要と我が国が持つ新技術・アイディアをスピーディにつなぐ仕掛けをいち早く作り上げる必要がある。その具体的な方法として、供給サイドの力の強化と、高齢化社会ニーズへの適応力を高めることが挙げられる。前者については、サービスサイエンス等イノベーションを支える基礎力に対し投資を進めること、技術・知識等の構造化や統合を行う活動への支援が必要である。後者については、グリーンイノベーション領域と同様に、異なる分野からの参入が多いことを想定し、市場参入の障壁除去、企業間の新たなつながり構築、開発・導入に伴う初期のリスク軽減措置や実験的社会インフラの整備、文理融合による全体的な構想形成の支援(例えば、「高齢化社会づくりグラント」の創設)を講じていくことが必要となろう。

ここで忘れてはならない重要なことは、課題と解決策との関係について、1対1対応ではない、多角的な関係を構築することである。例えば、高齢者の歩行機能の低下を補うという課題を考えると、道路の改善、新たな交通手段の提供、移動をサポートする手段の提供、街の構造の修正等多角的な解決策の選択肢が考え得る。逆に、街の構造の改革は、歩行機能の低下に対応するだけでなく、認知機能の低下や地域コミィニティ形成等、複数の課題の解決に貢献しうる。分野や組織を超えた多角的な検討を可能とする必要がある。このことは次に述べる産官学・文理融合の拠点の必要性を物語っている。

(6)産官学・文理融合の研究・推進拠点の形成

本研究会における様々な提案が示すように、高齢者が元気に過ごすための社会システムを構築する要素は、多様な分野にわたっており、さらに技術開発を急ぐべきもの、実験的な試みの段階にあるもの、制度の構築を急ぐべきもの、製品・サービスと制度間の調和を図るべきものなど様々な段階にある。同時に、構成要素は、行政の施策として提供されるもの(インフラの整備、公的サービス、制度面での環境整備)と、企業の製品・サービスとして供給されるものがあり、加えて、住民・NPO・地域の企業・地域の職能団体などの協力が不可欠な場合が多い。これら三者のシステムの構成主体が相互に緊密に連携し、総合性を発揮することが必要である。さらには、大学のアカデミックな貢献を加えた「産学公民」の協調体制が望まれる。

そうした高齢社会に向けた研究・推進拠点として、例えば米国のQoLTセンターがある。QoLTセンターは、医学や工学、IT、社会学、経営学等の専門家と、サービス提供企業やエンドユーザーが参加し、分野横断的な研究を行うことで、生活の質を高める技術の開発とともにその普及をも視野に入れた活動を行っている。

※QoLTセンターについて

QoLTセンター(Quality of Life Technology Center)は、米国の国立科学財団(NFS)の工学研究センターの一つで、カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学がパートナーシップを組んだ研究組織である。革新的な技術を通じた生の変革を掲げ、エンドユーザー、エンジニア、臨床医、デザイナー、サービス提供者、社会学者などを含む分野横断的研究により、高齢者と障碍者の自立した生活を可能にするインテリジェントなシステムの創成を目指している。研究のプログラムは、「スラスト(Thrust)」と呼ばれる4つの領域より構成されているが、いずれの領域においても、工学技術と社会学的知見を組み合わせたシステムを目指していること、また、研究成果のビジネス化を目指していること、などが注目される。詳細についてはQuality of Life Technology Centerを参照。

(7)政府レベルで政策を推進するための駆動力の集結

高齢社会の問題は、特定の専門分野の問題ではなく、多分野に関わる複合的な課題である。それに取り組むには、それぞれの研究者や企業が自分の専門領域を超えて連携し、多角的な視点から課題に取り組む必要がある。そうした連携が成功して初めて、アクティブ・エイジング社会の構築が可能となると言えよう。こうした総合的な施策を立案し実施していくためには、当然のことながら、課題に取り組んでいる各主体の活動を把握して全体としての調整を図る司令塔の存在が不可欠である。我が国は、これまで多数の先端的な技術やノウハウを持ちながらも、司令塔を欠いているがために、充分な成果を生んでこなかったところが多々ある。

その原因は、企業等の主体が自己の得意とする分野に埋没しがちで、広く社会的な広がりをもった技術の展開や利用への関心が充分ではなかったことにもよるが、それ以上に、国の政府各省の縦割り構造が、そうした総合調整を困難にしていることである。国の行政機関の縦割りの問題点はすでに多々指摘されているが、この複合的なアクティブ・エイジング社会の構築という課題に取り組むに当たって、府省間の調整を今までのやり方で行っている時間的余裕はない。しっかりとした「司令塔」の設置が必要である。

司令塔といっても強力な指揮命令権を持った組織は必ずしも必要ではない。その設置に際しては、当初は「高齢者標準社会基本法」の制定を強力な政治的リーダーシップの下に進めなくてはならないであろうが、ひとたび設立されるとその機能は、多府省、多主体で実施される施策について把握し、それらの事業や活動の間の矛盾を解決し、連携を図ることによって、総合的な施策にするという「調整」が中心である。

何よりも、多分野で多主体が実施する施策の全体像を把握し、それを国民にわかりやすく示すことが大切であり、それはまさにワンストップサービスの拠点を設置することに外ならない。そして、このような調整を効果的に行うためには、従来の発想を超えた、そこに情報が集中するような行政組織を設ける必要があろう。求められる政策提言は、そのような組織像を明確に示すものでなければならない。さらに、広範な分野にわたる社会の状況や施策の全体像を把握するためには、それらの情報を迅速に、そしてきめ細かく収集し利用できることが前提である。そのためには、この報告で触れられているように、今や利用可能になったIT技術をフルに活用したシステムを、政府の行政活動のためにではなく、アクティブ・エイジング社会の共有されたインフラとして形成していくべきである。

我々が追求すべき次世代の高齢社会は、健康なお年寄りはもとより、してもらいたい給付やサービスを自ら求めることのできない認知症のお年寄りでも、それらの給付やサービスを利用できるような社会であり、そのような社会を作るには、社会全体で、それらのお年寄りをしっかりと見守り、必要と思われる給付やサービスの提供を行うような「プッシュ型」の体制が望ましい。

今後、活力ある高齢社会を構築していくためには、このような発想に立った国全体としての仕組み作りが重要である。かかる観点から、国家の政策上のプライオリティーを極めて高く位置づけ、政府各省の総合力を発揮するような体制整備を重ねて要請したい。また、そのような視点に立って提言を行うとともに、今後さらなる研究と提言をしていきたい。