大学と社会政策提言
知的財産制度と産学連携に関する論点

東京大学政策ビジョン研究センター 大学と社会に関する研究ユニット
渡部 俊也 教授

2015/3/31

EPA=時事

この政策提言は、東京大学政策ビジョン研究センター大学と社会に関する研究ユニットの研究成果を取り纏めたものです。本ページではエクゼクティブサマリー部分を掲載しています。全文は下記PDFをご覧ください。

エクゼクティブサマリー

大学が組織として本格的に社会との直接的な関係性の構築を試みるようになったのは、1990年代の後半以降、産学連携推進施策が展開されて以降のことである。研究大学のうち特に国立大学は2004年以降国立大学法人として、組織として大学研究者の発明を譲り受けその成果の移転を実施することになった。大学発ベンチャー企業の創出に関しても組織的な関与が行われ、キャンパス内に企業の研究組織を受け入れるようなプロジェクトも行われている。一方で大学や大学研究者が産業界と直接の利害を共有するようになったことで、利益相反の問題や、利益相反が背景となった研究不正の懸念なども生じるようになった。日本に先駆けること30年前1980年代に産学の結びつきが強化された米国においても、産学の連携の拡大に伴って利益相反や関連する研究不正の問題が深刻になっていった経緯を見出すことができる。

大学に対する社会の期待感を背景とする公正な研究活動や公平な教育活動を担う大学にとって、利益を追求する産業界を含む社会との連携は多面的であり、複雑な影響を及ぼす。その正の側面はイノベーション創出への貢献であり、同時に社会との連携に伴う教育・人材育成のより高度な発展である。しかし一方そこには利益相反や研究教育の独立性を損なう懸念とは無縁ではいられない。

従来技術移転や共同研究の推進などイノベーション創出のための大学のあり方と、研究不正や利益相反といった大学のコンプライアンス・ガバナンスの諸問題は別々に扱われてきたが、本研究においては大学が社会と望ましい関係を有するためには、その両者を含む大学のIntegrity を確立し発展させるための社会との契約として捉えるべきであるという立脚点に立つ。すなわち企業との連携を単に商業的立場で深めればよいということではなく、企業との契約も、大学のIntegrityを発展させるための社会全体との契約の一部であり、その視座から見たときに独立した大学の契約の考え方で処理されるべきであるということにもつながる。

本政策提言では、このような視座から、特に2004年以降盛んになった知的財産制度を介した産学の連携における論点について、個々のエビデンスをもとに議論し、政策の提言につなげたものである。そのポイントとしては、①大学が独立した組織として期待される大学発ベンチャー企業に移転できる単独出願特許の充実、②イノベーション創出を目的とした共同研究プロジェクトの合理的知財の取り扱いの高度化、③国際的産学連携における合理的優先順位の判断、および④大学研究成果を知的財産権として保護するために有益なグレース・ピリオドについての国際調和、を主要項目として提言したものである。