2015年版年報では、3つの研究プロジェクトの紹介と、2014年度から2015年10月までの政策ビジョン研究センターの研究活動を掲載しています。
ここでは研究紹介ページより一部抜粋を掲載いたします。全文はPDF (5.4MB)にてご覧いただけます。


目次(研究紹介より)

  1. 知的財産権とイノベーション研究ユニット
    大学の産学連携契約:雛形主義から脱却するための大学のマネジメントとは
  2. 国際エネルギー分析と政策研究ユニット
    ASEAN新時代とミャンマーの持続的なエネルギー開発:地方における電力アクセスの改善
  3. 安全保障研究ユニット
    東アジア国際秩序の現状と展望:日米同盟と核軍縮の視座より

産学連携の成果が、特にベンチャー創出の面で少しずつ見え始めてきている。例えば東京大学周辺には、法人化前後以降250社を超える大学関連ベンチャーが生まれている。30社以上が上場またはM&Aに至り、その時価総額総計は1兆円を超える規模になっている。ベンチャーに関与する教員も数百名を数える。特許などのライセンスによる技術移転収入や共同研究件数とその総額も増加している。これらの数値からだけ見れば、日本の産学連携はずいぶん発展したようにも見える。大学と企業で事業を共同で行うとアナウンスすると「癒着」と批判された1980年代までとは隔世の感がある。

しかし、現在でも大学に対する企業の評価は決して芳しいわけではない。例えば大学の契約は硬直的で融通が利かない、企業のニーズに応えていないといわれ、特に知的財産が関わる契約での問題点が指摘されることが多い。共同研究の規模が小粒であることも問題視され、大型の産学連携を獲得するために、大学が大幅に企業に譲歩した契約条件で案件を獲得しようとする動きも盛んになってきた。〔…〕

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中国をはじめとする「新興国」の経済に不透明感が増す中、2015年12月、ASEAN経済共同体(AEC)が発足した。域内においては経済相互依存関係のみならずエネルギーの協力関係もますます深化している。例えばラオスは水力発電に適した地形を生かして大規模な水力発電開発を行い、その電力を隣国のタイへ輸出している。ミャンマーも、豊富な埋蔵量を誇る天然ガスをタイと中国に輸出している他、大規模な河川という水力資源も域内有数である。いま、大メコン圏地域(The Greater Mekong Sub-region, GMS)に注目が集まっている。

しかしながら資源国ミャンマーは、国内への供給を軽視してきた。国際エネルギー機関(IEA)によるエネルギー開発指標(EDI1、2011年)によると、ミャンマーは豊富な国内資源があるにも関わらず、電化率は64カ国中、下から4番目に位置し、約30%程度にとどまっている。ヤンゴンやネピドー、マンダレーといった都市部ですら停電が大きな課題であるし、国の発展の土台となる地方の低い電化率が重要な政策課題となっている。そこで、「国際エネルギー分析と政策研究ユニット」では、ミャンマーの地方電化に注目して研究を行ってきた。〔…〕

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東アジアの国際秩序と安全保障環境が不安定さを増している。このような状況の中で日米同盟が地域の公共財として果たせる役割、つまり地域全体の安全保障環境に貢献する可能性は大きく、東アジアの秩序を維持するためには日米同盟の役割が不可欠になるとも考えられる。換言するならば、日米同盟は単に日本の安全保障を担保する枠組みだけではなく、東アジアの安全保障の将来をも担う重要なものとして認識する必要がある。

周知のように同地域にはASEANをはじめとする多様な多国間協力の枠組みが存在している。これらの枠組みと日米同盟が緊密な連携をとりつつ、多国間主義を尊重したアジアの安全保障環境・国際秩序の望ましい形での維持・強化が必要不可欠だろう。他方で、東アジア安全保障環境の将来的なビジョンに対する各国間の認識の違い、さらには日米間においても認識のギャップや優先順位の違いが存在することもまた事実である。これらの相違点を正確に認識し、国家間で調整していくことも重要となる。

最大の難問は中国の台頭への対応方法である。米国を中心とした同盟ネットワークと中国という二項対立の構図を促進することは、米国のみならず日本を含むアジア太平洋地域諸国にとっても望ましくない。複雑な経済的相互依存は、アジア太平洋地域の国際政治の一部となっており、各国には紛争の激化や軍事衝突を回避しようとする相互了解もある。「平和的共存」のシナリオを放棄してはならない。

その一方で東アジア地域は伝統的な軍事力を背景とする緊張関係が依然強く残る地域でもある。各国は国益を譲らない姿勢を崩しておらず、たとえば南シナ海における衝突のような小規模な争いが、やがて大規模な紛争にエスカレートしていく潜在的リスクを常に持ち合わせている。このような可能性は決して過小評価してはならない。

日本の安全保障環境に影響を及ぼす事案については、日米同盟の枠に頼りすぎるのではなく日中両国が協力可能な分野を共に模索し着実な行動をとり、政府間の信頼関係を長期的な視点で醸成していくことが重要となる。また、両国の研究者が継続的な意見交換を行うことで両国の共通認識を高め、紛争の深刻化を防ぐ手法を共同で検討していくなどの方策を展開することがカギとなってくるだろう。〔…〕

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Copyright © Policy Alternatives Research Institute
発行/東京大学政策ビジョン研究センター(センター長:坂田一郎)
編集/佐藤多歌子
デザイン・DTP/東辻賢治郎
写真/東辻賢治郎・柏木龍馬
2016年6月発行