センター長 あいさつ

東京大学政策ビジョン研究センター センター長
坂田一郎

2014/4/7

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photo : Ryoma.K

今日、超高齢化社会の克服、サステナビリティの確保、食料や資源エネルギー等の安全保障の確保、災害に対するレジリエンス、リスクや不確実性を伴う先端技術の適切なガバナンス、包括的な経済成長の実現等、多くの地球的課題が顕在化してきています。また、OECDが2010年に発表した成長戦略(Growth Strategy)においてイノベーションによるこうした諸課題の解決が目標の一つとして掲げられたことに象徴されるように、課題解決に向けた迅速な行動の必要性についても世界的な認識が深まっているといえます。

世界は、こうした課題の解決に用いることが出来る膨大な知識や経験を既に有しています。特に、学術研究の成果は、爆発的な増加を見せており、それによる課題解決への貢献の潜在力は高まっていると考えられます。ただ、その際、単一分野の学理だけで課題に対応出来るケースは、むしろ少数です。このため、課題解決に必要な複数の学術知識を組み合わせて解決策を設計していく仕組みが必要となっています。例えば、超高齢化社会に対応するためには、医学・介護学はもとより、移動、都市工学、建築学、情報学、心理学、社会システム等の分野の知見を組み合わせて、活用することが欠かせません。

東京大学の政策ビジョン研究センターでは、総合大学である東京大学の利点を活かして、こうした課題解決に必要な多分野の部局における研究成果を結び付け、課題解決に必要なエビデンスを生み出すための分野横断的な研究や「場」の形成を行っています。そして、エビデンスをもとに、現実の社会における課題解決のための複数の政策の選択肢として、提言・発信していくことを目的としている組織です。こうした活動を行う本センターは、個々の研究者、組織や研究分野をノード、それらの間の協働関係をリンクと定義すると、学術ネットワークにおける「ハブ」に喩えることが出来ると考えています。

本センターは、2008年に設立され、2013年の全学センター化を経て、今日まで6年弱、活動をしてきています。「大学と社会システム研究部門」、「イノベーション制度研究部門」、「技術・リスクガバナンス研究部門」、「多様化する安全保障研究部門」、「高齢化社会制度・医療イノベーション研究部門」「共同研究・寄付研究等部門」の6つの研究部門を持ち、合計50人を超える内部の研究者・スタッフ、学内で連携をする教員、外部から招いた客員研究員等が様々な形で混じり合い、学際的な研究を社会と連携しつつ、進めています。そして、それらにより、データや、課題解決に必要な総合的知見、論文等のエビデンスを発信するとともに、「政策提言」の形で、政策の選択肢を提案し、また、「コラム」やシンポジウムの形で、解決してゆくべき課題自体の特定、深堀り、発信といった活動も行っています。

本センターでは、これまで、本学が有する学術知的知見の活用・発信を重視してまいりました。しかし一方で、課題解決の場への適用という経験やそれらからの評価が、学術をさらに鍛えるという側の効果も忘れることが出来ません。今後は、課題解決の場から個々の学術研究へのフィードバックを支援する役割も重視していきたいと考えています。また、ネットワークについては、その範囲を国内外の他大学、国際機関、シンクタンク等へと拡げ、「ハブ」としてより大きな役割を担うことを目指します。更に、これまでの蓄積を活かし、昨年10月に発足したリーディング大学院「社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム(GSDM)」等をはじめとした次世代を担う人材育成に対しても積極的に貢献していきたいと考えています。

学内において、学術知識を活かした課題解決への貢献、社会への政策選択肢の発信や課題解決を先導する人材育成の必要性を感じておられる教員や、学外から本センターのこのような活動に関心を持たれている方々からの一層のご支援、ご協力を期待しております。


センター長あいさつ