センター長 あいさつ

東京大学政策ビジョン研究センター センター長
藤原帰一

2017/09/18

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政策ビジョン研究センターは、東京大学の中に設けられたシンクタンク、政策発信を行う機関です。何をするところなのか、大学のほかの機関とどのように異なるのか、申し上げたいと思います。

大学の第一の役割は研究です。これまでの研究を塗り替える卓越した学術研究があってこそ大学という組織の存在意義があることは申し上げるまでもないでしょう。そして学術研究の第一の受け手は、研究者。これまでの研究とどう違うのか、どこが新たな貢献になるのかを最初に理解し共有するのがその分野の研究者である以上、当然のことでしょう。

ただ、研究者の外の世界に新たな学術貢献がどう関わるのかについては、研究者の関心は薄く、極端に言えば二次的な目的に過ぎないといってもいいくらいです。そして、学術研究を研究者のみによって展開する場合、そこから生まれた成果が研究者の世界に留まり、ひろく社会と共有する機会を失ってしまう可能性があります。

研究と並ぶ大学の役割が教育です。新しい世代が新たな研究を展開するために最新の研究成果を新しい世代に伝える必要があることは明らかでしょう。もちろん研究者の養成ばかりではありません。大学教育によって習得した学術研究の成果が、卒業生によって社会に活かされてゆく。教育は、大学と社会との間につくられた最も重要な回路です。

とはいえ、教育だけが大学と社会の回路であってよいとはいえません。大学を卒業してから十年、二十年と過ぎれば、キャンパスで教わった知識も古くなってしまいます。ここに、学部・大学院の教育のほかにも、大学と社会を結びつける必要が生まれます。

このように、研究と教育を主な任務とする大学ですが、それだけでは社会との結びつきを十分に果たすことができない。そこで政策ビジョン研究センターは、学術研究を社会に活かしてゆくために、大学と社会を結ぶ新たな回路として生まれました。いわばシンクタンクですが、社会に広く見られるシンクタンクとは異なって、政策構想の基礎に、大学で蓄積された学術研究、その先端的な知がある。そのままなら研究者だけの間で共有され、消費されてしまう研究成果を、政策発信という形によって社会に結びつけてゆくわけです。

ここで注意しなければならないのは、研究の社会的意義、レレバンスです。学術研究の世界ではそれまでにない発見を行うことがそのまま研究にレレバンスを与えますが、新しい発見が社会にとって持つ意味があるとは限りません。何が求められているのか、どのような問い、そしてどのような答えが期待されているか、そのような研究のレレバンスは研究そのものではなく、その成果の受け手との間の相互作用によって生まれることになる。単に成果をより広い世界に披露するだけでは社会への発信になりません。研究者のつくる世界の外に視点を置いて、何が成果として意味があるのかを捉える必要があります。

その焦点は、これまでにない選択を示すことでしょう。このセンターの名称は日本語では政策ビジョン、英語ではPolicy Alternatives。つまりこれまでに見られる選択とは異なる視点と選択を提供することが目的です。発足から十年を迎えるのを機会に、このセンターが目指す目的を改めて確かめながら進んでゆきたいと思います。


センター長あいさつ