政策提言
2020年IoT、BD、AI時代にむけた知財戦略
2016/4/8
この政策提言は、東京大学政策ビジョン研究センター研究知的財産権とイノベーション研究ユニットの研究成果をベースに、現在政府で議論されている重要テーマであるIoT、BD、AI分野の提言を取り纏めたものです。本ページではエクゼクティブサマリー部分を掲載しています。全文は下記PDFをご覧ください。
エクゼクティブサマリー
2020年には250億台~500億台の機器がインターネットにつながると予想されている。巨大なネットワーク上で、一方の端末にはあらゆる輸送機器や工作機械、金融システム、医療機関や住宅や店舗の機器などがつながり、もう一方の端末には人工知能が接続され、それらの機器から発生する大量のデータを学習材料として利用し、高度なサービスを提供する。このシステムが機能すれば、製造業やサービス産業の生産性は向上し、サプライチェーンと需給関係の革新につながる。
このIoT1 のシステムを支える重要な課題として、人工知能の栄養とも言うべきデータの共有が円滑に進むかどうかという点がある。しばしば個人データを含むことから、個人情報保護の観点では度々議論されてきた。しかし今後は企業の現場や製品から発生するデータの重要性が格段に増していく。これらのデータは、企業間の契約によってそのデータを利用する権利が発生する。一般的なデータそのものは知的財産権の保護対象には当たらないが、契約によって発生する事実上の知的財産ともいうべき権利は、IOTにおける技術戦略上極めて重要になってきている。
本提言では、このようなIoT、BD2 、AI3 時代において重要性を増すデータに関する知財戦略について提言を行ったものである。そのポイントになるのは、IoT、BD、AI時代に必須の知財「データ」をどう扱えばいいのか、それをどのような条件のもとに生かしていけばよいのかを明らかにしていくプロセスである。
そのための具体的な提言として以下の5点を論じた。
- 日本企業が保有するデータの質的・量的な評価を行い、さらに産業分野ごとにデータをどういう企業がどのように保有しているのかという全体像を明らかにすること
- これらのデータの利用に関する国際標準戦略を展開する体制整備を行うこと
- これらデータと標準に関する知財戦略に、IoT、BD、AIの特許等他の知財の戦略との整合をとって、IoT、BD、AIの総合知財戦略の構築を行うこと
- AI、IoT、BD時代の知財を活用したビジネスモデルの構築を行うこと
- 人工知能の判断などに関する知財紛争に備えた制度整備を行うこと
企業においては、これらの新たな知財戦略を実行できる人材育成が急務であり、従来型の特許などの知財マネジメントとは異なるスキルや知識を身につけた知財マネジャーが早急に必要となる。既存の技術経営や知財の人材育成プロジェクトにおいては、早急にこれらのコンテンツを導入するべきである。
- IoT: Internet of Thins(モノのインターネット、コンピュータやプリンタなどのIT関連機器だけではない様々な"モノ"をインターネットに接続する技術)
- BD: Big Data(ビッグデータ)
- AI: Artificial Intelligence(人工知能)