複合リスクのガバナンスに向けて(1)

  • 谷口武俊

我々の社会経済活動は、様々な技術システムに支えられながら、広域そしてグローバル且つ重層的に繋がり合っている。そして、我々は、地震、洪水、台風、津波、火山噴火、異常気象や人・獣感染症の広域流行といった自然起因のハザード、重要インフラ施設での重大事故や施設事故による放射性物質・有害化学物質・生物学的物質の放出・汚染といった技術起因のハザード、サイバー攻撃や重要施設・機能集積エリアへの物理的破壊攻撃といった人的行為起因のハザードなどに常に晒されている。そのため、ひとたびある分野で重大なリスクが顕在化すると、それは時間的、空間的な拡がりをもちリスクの連鎖を引き起こし、ひいては直接的、間接的に国家の成長や国民生活への深刻な障害となる可能性がある。

相互連結・依存性の高い複雑化社会におけるリスク問題は、

  1. 様々なリスクが複合的に展開するとともに、特定のリスクへの対応が、結果として別のリスクを増大させることもあり、個々の状況に応じたトレードオフに関する迅速な判断とそれを実施していく体制が必要
  2. システミックな性質をもつリスクが増えており、そのインパクトは大きく、多様な利害関係者を視野に入れなければない
  3. 緩やかに進行し、複雑な挙動から臨界点に至り顕在化するリスクは、その兆候の検出が難しい

といった特徴をもつ。

このようなリスク問題への対応は、公共政策における意思決定とマネジメントの問題である。様々な専門分野や主体と連携しつつ、如何に俯瞰的に問題を構造化し把握するか、それを基礎として透明性のある意思決定、資源配分ができるかといった社会的意思決定に関する議論を喚起するか、そして、そのような意思決定の実施メカニズムをどのように構築するのか。これが、「複合リスク・ガバナンスと公共政策」研究ユニットの問題認識であり、政策科学系を基軸とする俯瞰的政策研究を、理工系を含むアカデミズム及び実務と協働しつつ、また当研究センター内で進められている他の研究プログラムとも連携し進めている。