ナショナルリスク・ランドスケープ/アセスメント

相互連結・依存した複雑な現代社会において、今後10年程度(2025年まで)を視野に入れたとき、日本の国益/持続的発展に脅威となるリスクで中長期的視点から判断で考慮すべきリスク(戦略リスク)を洗い出し、そのリスク群の相互関連性と強度を評価し、日本のリスク・ランドスケープの可視化を試み、システミックな性質をもつリスクへの包括的なリスクマネジメントおよび意思決定への認識と理解を高める。

上記目的に向け、平成25年度に「RLJ(Risk Landscape of Japan)研究会」を設置、経済・政治・社会・環境・科学技術の各分野におけるリスクについて、専門家(船橋洋一氏(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)、白波瀬佐和子氏(東大大学院人文社会系研究科教授)、安井至氏(独立行政法人製品評価技術基盤機構理事長)、松田裕之氏(横浜国立大学環境情報研究院教授)、藤原帰一氏(東大大学院法学政治学系研究科教授)、坂井修一氏(東大大学院情報理工学系研究科教授)、西村清彦(東大大学院経済学研究科教授)、小林慶一郎氏(慶応義塾大学経済学部教授))を招き意見交換を実施、その知見も踏まえ、研究の方向性と下記の具体的な研究調査設計を進めた。本研究テーマは、科研費A「複合リスクガバナンス-リスク俯瞰マップ、領域別事例比較、制度的選択肢」(研究代表者:城山英明)の下で実施している。

1 ナショナルリスク・ランドスケープ調査

世界経済フォーラムや各国においてナショナルリスクのランドスケープを作成し、リスクを俯瞰しようとする取組みが行われている。複合リスク・公共政策研究ユニットにおいても、日本のリスクを俯瞰するため、ナショナルリスク・ランドスケープの作成に取り組むこととした。平成26年3月末には、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2013年度版で調査された50のリスク項目を基本的な出発点としながら、日本の状況を踏まえたリスク項目を追加し、これらについて日本の今後10年のリスク・ランドスケープの第一回アンケート調査を行った。その結果は、政策ビジョン研究センターのワーキングペーパー(Pari WP 14 No.12、平成26年7月)として公開した。

第一回的調査の結果を踏まえ、平成26年8月から9月かけて第二回アンケート調査を行った。調査では、経済、環境、地政学、社会、テクノロジーという広範なリスク項目の今後10年間の影響可能性や影響度の評価、影響可能性と影響度を二軸とした場合の分布表を作成したほか、リスク項目相互連関マップの作成によるリス連関構造の可視化を試みた。主な調査結果は以下の通り。

分布表の一例

分布表の一例

相互連関マップ(調査対象とした67項目全体版)

相互連関マップ(調査対象とした67項目全体版)

影響可能性や影響度の調査では日本版のために追加しリスク項目に高い評点が付されるのに対し、相互連関マップや中枢リスク調査では、世界経済フォーラムで取り上げられたリスク項目が多い回答数を得る傾向にもある。この両面を見据えながら、日本のリスクを俯瞰していくことが重要である。これまでの作業で得られた結果や経験を生かし、今後さらに取組みを進化させていく必要がある。

2 ナショナルリスクアセスメント(NRA)調査

政府は領土および国民に直接的、間接的に重大な影響を及ぼす様々な脅威に対処しなければならない。そのために、いくつかの国ではオールハザードNRAが実施され、その結果は whole-of-government の統合的なリスク管理スキームに活用されている。2011年12月時点でOECD加盟国を中心に15ヶ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、ハンガリー、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、スウェーデン、トルコ、英国、米国)で政府機関によるNRAへ取り組みが行われているが、日本ではまだ何の取組みも行われておらず、また実施する政府機関もない状況にある。

平成25年度は、米国、オランダ、カナダおよび英国において実施されているNRAの現状、NRAの一般的な手順や評価項目及び実施体制などについて調査した。例えば、米国及びカナダの状況は以下の通り。

  • 米国では、大統領政策指令-8の下、戦略的国家リスクアセスメント(SNRA)が国土安全保障省長官の主導で実施されている。これは、テロリズム、サイバー攻撃、パンデミック、破滅的な自然災害を含む国家のセキュリティに重大なリスクを及ぼす脅威へ対処するための中核的能力および能力目標の開発に根拠を与える高リスクファクターを同定する、レジリエンス(防止・保護・緩和・対応・回復)における要求事項にわたる戦略的なニーズについての恊働的思考の醸成を支援する、政府の全てのレベルが国家にとっての脅威・ハザードそしてその結果であるリスクについて共通の理解と認識をもつため能力を促進するために用いられている。
  • リスク評価では、インパクトとして死亡、傷害/疾病、直接的経済損失、社会的影響(少なくとも2日間の自宅からの避難)、心理的影響(苦痛)、環境影響を対象としている。分析の精度は order of magnitude で、リスクの時間的な視野は次の3-5年である。
  • カナダでは、2007年緊急事態管理法において緊急事態管理における連邦政府の役割、公衆安全省大臣及び全大臣の責任が規定されている。AHRAイニシアティブでは、連邦機関の広範な専門知識を総動員し、カナダが次の5年に亘って直面するであろう、悪意の有無を問わない脅威・ハザードの発生可能性と影響を評価する包括的で統合的な手段が適用される。AHRA実施プロセスは、公衆安全省が主導し、省間リスク評価作業部会を設置、毎年第4四半期にリスク・スコアリング・ワークショップで連邦機関の専門家が召集されリスク事象シナリオに基づいてリスク解析が実施される。
  • 各国のNRAでオールハザード・アプローチが採用されているのは、災害の種類や規模に関わらず、国民の生命・健康、財産そして環境への損害を最小限に抑えることを優先し、それを政府機関全体が一つの組織として効果的、効率的に行動するという考え方を基盤としているためである。

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