- 東日本大震災学術調査『大震災に学ぶ社会科学』全8巻シリーズ刊行
「現代の社会経済活動は広域そしてグローバルかつ重層的に相互連結し、様々な技術システムに支えられるとともに、それらに強く依存し、複雑化している。このような状況において、2011年3月11日東北地方太平洋沿岸地域を巨大地震と津波が襲った。想像を絶する自然の脅威は、大規模な社会インフラシステム(通信、鉄道、港湾、送配電網、水供給など)に甚大な被害を与えるとともに、福島第一原子力発電所の過酷事故を引き起こした。 福島原発事故は、地域住民の生活を奪うだけでなく、原子力発電所との社会的・経済的な依存性を様々に発露させ、東北・関東地域での電力供給不足による生産活動の停止・低下、さらにはサプライチェーンを通じた全国・国外への影響波及、全国の原子力発電所の稼働停止、国内及び他国での原子力・エネルギー政策の見直し議論、原子力安全規制要求事項の再吟味へと、連鎖を引き起こした。そして、事故後4年以上を経た現在も、福島第一原発の管理はなお予断を許さず、廃止措置という終息への長い道程に入っている。 東日本大震災や福島原発事故は、また、原子力発電、エネルギーの問題だけではなく、他の分野の問題へと波及した。福島原発事故は、食品中の放射性物質に関する安全問題に波及した。また、震災と福島原発事故は、患者の避難、医薬品・医療機器の被災地への供給という問題を引き起こし、医療・介護問題にも影響を及ぼした。震災は交通インフラへの影響も大きかった。さらに、震災に際しては、金融や実体経済活動にシステミックな影響が生じる恐れがあったため、被災者に対する金融面での適切な対応や被災地金融機関の決済機能が確保される措置がとられた。そして、これらの問題は相互に関連していた。 本書は、第1部において、総合工学の代表格である原子力発電技術の利用にあたっての社会的な安全確保活動を、リスク・ガバナンスという枠組みで捉え、福島原発事故の以前・事故時・以後の姿を、事例分析等を通して考察する。そのためのリスク・ガバナンスの分析枠組みを本章第1節では提示する。第2部においては、福島原発事故の食品安全問題への波及や、東日本大震災という緊急事態における医療システム、交通システム及び金融システムの対応について、各分野の事例を分析した上で、相互関係性及びそのような相互関係を管理する複合リスク・ガバナンスの課題について考察する。本章第2節では、そのような複合リスク・ガバナンスを分析する座視を提示する。」(『第1章はじめに:リスク・ガバナンスの課題』谷口武俊・城山英明)